3−8 おい!ニコ!いねぇのか!仕事だ!
会場のさらに地下に降りた俺たちは闘技場のカウンターに連れられた。
「おい!ニコ!いねぇのか!仕事だ!」
アクセルは相変わらずの大声で叫ぶとカウンターをどかどかたたいて人を呼んでいる。横に呼び鈴あるんだけどな。・・・ここにある呼び鈴は人間じゃないな。ちゃんとベルだ。
「何だよ!アクセル、しつこいぞ!こっちは試合を見てんだ!」
「参加登録だ!さっさとやれ!」
ニコはそんなアクセルをぎろりとにらむ。いや、きっと睨んでいる。ニコと呼ばれたドワーフは顔の毛深さが尋常じゃなかった。少なくとも毛で皮膚が見えない。目がどこにあるんだ。
「お前に睨まれても肝心の目がないじゃないか」
「馬鹿にするな。あるに決まってるだろ。それよりアクセルが出場だと?お前、一緒に出てくれるお友達なんていたか?」
「俺じゃねぇよ!出るのはこいつらだ!」
ニコは俺たちのほうを見る。正確には顔がこっち向いただけだが。ニコは俺を見る。ドワーフたちの見事な仕事筋肉に比べるともやし同然だろう。そして優姫と涼香。人間の基準からすると美人だが、ドワーフから見るとどうなんだろうな?
ニコはアクセルの方に向き直る。あれはため息だな。
「あいつらはお前に何の借りを作っちまったんだ?」
「こいつらに貸しはねぇよ。武器作りたいらしいからな。今回は闘技場に挑戦してもらうことにしたんだ」
ニコはもう一度ため息をつく。
「お前、なんで人間なんぞに武器作るんだ?こいつらと来たら、俺たちが作った武器満足に扱える奴なんていないだろ?」
「それはまだわからない」
「わかるだろ。ドワーフの歴史は千年以上。俺たちの歴史の中で人間が活躍したことなんて一度もない。嫌いなんだ、何の実績もないやつらがこうしてでかい顔して歩いているのを目の当たりにするのは」
だがアクセルは一歩も引かない。
「明日、それが変わるかもしれない。未来は誰にもわからないだろ」
「ドワーフにはな。お前そんなだから友達いねぇんだろうが。・・・まぁいいだろう。人間が出ちゃいけない理由は無い。お前たちもそれでいいな」
ニコは急に俺に話しかけてきた。表情は読めないからどんな顔してるのか分からないが、きっと渋い顔に違いない。余計なこと言うと参加を認めてもらえなくなるかもしれないな。俺は努めて心を静めて答えた。
「問題ない。参加させてくれ」
「敬語を使え、ボケナス」
結局機嫌を損ねてしまった。ニコはそう言いながら俺に参加用紙を差し出してきた。
「敬語?断る」
もはや相手の機嫌なんてどうでもよくなった俺は正直にそう答えてから用紙を見る。この枠内に書けばいいのか。・・・まて、ドワーフ語なんて書けないぞ?
「ちっ。生意気な猿め。あと、アクセル!お前も出るんだ」
「はぁ!?」
アクセルは心底驚き目が飛び出そうだ。いい顔するじゃないか?
「こいつら初参加だろ?そんな奴ら急に出してもボコボコにされて終わるだけだ。それじゃあ、観客は盛り上がらないだろうが。初参加の場合は経験者を必ず一人混ぜることになってんだ」
「俺はやだね」
「じゃあ、こいつらは参加できない」
その言葉に反応したのは優姫だ。
「ええ!?それは困るよ!ブレーキ!男に二言はないんでしょ!?一緒に出場してよ!」
「ブレーキじゃねぇよ!アクセルだ!」
優姫はペロッと舌を出してアクセルに許してもらおうとする。おい、優姫。なんでそう大事なところで余計な失敗するんだ。それにその技は人間には通じてもドワーフには通じないだろうが。俺と涼香も加勢する。
「そうだぞ、アクセル!男の約束だろ!」
「アクセルさん、お願いします!」
アクセルは渋い顔をして俺たちを見ると、俺から乱暴にペンを取り上げた。
「わぁーった、わぁったよ!出れば良いんだろ出れば!」
アクセルは一番上に名前を書く。顔を上げるとペンを俺の方に向けてきた。
「お前!名前は!」
「仁」
「ヒトシな。お前は?」
「涼香」
「リョウカ」
「優姫!」
「ユウキ!」
「・・・おい、なんで優姫は4文字なんだ?その最後の文字はなんだ?」
「これか?これは語調を強めるための文字だ。ユウキだけは名前の発音が強めだったからつけたんだが、いらないか?」
「そんな記号あるのか。いらないな。外しといてくれ」
ドワーフの言語ではそんな区別が必要なのか。アクセルはいらなくなった文字を塗りつぶす。
「おい、汚ねぇな。・・・これだと、・・・いや、まぁいい」
ニコはぐちゃぐちゃに塗りつぶされた部分を見て、ごちゃごちゃ言いながらもは用紙を受け取るとさっさとしまって、早口で説明し始めた。
「ルールはそこのアクセルから聞け。これが色鉄砲の魔法シールだ。そしてここのニュースペーパー。優勝すればこの先一生遊んで暮らせるほどの大金が手にはいる。ただし、競技中に死んでも責任はとらん。控え室は一チームに一室ある。鍵はこれだ」
ニコはアクセルに鍵とシール、紙束を渡す。
「ではまた明日。アクセル?」
「なんだ?」
「せいぜい楽に死ねや」
ニコはさっさと部屋の奥に入って行った。アクセルは黙って俺たちを引き連れて歩き始める。
「なぁ、アクセル。殺しは禁止じゃないのか?」
「・・・俺が参加していた頃とはルールが違うようだな」
「なぁ、アクセル?あんたニコになんで嫌われてるんだ?」
「昔ちょっとな。俺が人間とつるんでいるのが気にくわないんだろ」
俺は不安になる。そういえばドワーフって人間嫌いじゃないか。人間がGを見つけると殺したくなるように、ドワーフは人間を見ると殺したくなっちゃうんじゃないか?
「まぁ、命なんて最初からかかってるよ!なんせ、すでにドラゴンに命を狙われてるんだから!」
「・・・優姫さん、せっかく忘れてたのに思い出させないでください」
涼香の切実な願い。俺も賛成だ。だが、アクセルはその程度の反応ではなかった。
「お前ら、ドラゴンと会ったことがあるのか?」
「えっ?戦ったよ!」
「まぁ、ぼこぼこにされたけどな」
アクセルの目つきが疑わしくなる。
「何故生きているんだ?」
「さぁな。ドラゴンが俺たちを見守りたくなったんだそうだ」
アクセルは急に立ち止まると俺の肩を揺する。
「はぁ?ドラゴンが人間にそのような形で干渉するだと?寝ぼけてんのか!?」
「なに慌ててるんだ。事実だ、仕方がない。明日には殺されるかもしれないんだ」
だが、アクセルは俺の話は全く聞いていない。一人でブツブツ言い始めた。なんだが気持ち悪いな・・・。ブツブツ言いながら部屋の前に立って、部屋の鍵を開け、そのままベッドの上に寝転んだ。器用なやつだ。
部屋の中はベッドだけだった。それ以外には何もなかった。ただ・・・
「ベッドちっさ!ドワーフサイズじゃんこれ!」
そう!ベッド小さすぎる!なんでこんなちっこいのしかないんだ!?
「ああ、わるいな、この部屋は昔俺がよく使っていた部屋でな」
アクセルはそう言うと急に壁に手を当てる。胸元から魔道書を出すと唱える。
「創作:コップ」
アクセルの手が壁からゆっくり離れると同時に、壁からコップが生える。コップは徐々に形作られ最後、壁から離れた。壁にはなんの跡も残ってはいない。アクセルそれを4回繰り返すと優姫の前にコップを差し出す。・・・壁にそんなことしていいのか?
「水を入れてくれ」
「えっ、ボク?・・・ボクが出せる水なんて鼻水くらいしかないけど、それでもいい?」
そう言いながら優姫は鼻をコップの上に差し出す。俺は優姫の前からコップを取り上げる。
「いい訳ないだろ!ったく、誰がそんな水飲みたがるんだ!」
「えっ?飲ませてくれって寄ってくる男いたけど?」
「そいつの頭がおかしいんだ!ったく油断も隙もあったもんじゃない。凝縮」
俺は空気中の水蒸気を液体にする。俺たちは全員コップを持つ。思い思いの場所に座るとコップを掲げた。
「さて、ひとまず俺たちはチームだ。水で申し訳ないが乾杯しよう。チームのために!」
「「「「乾杯!」」」」
俺は水を一気に飲み干す。不味くはない。だが、魔法で抽出する水は純粋だ。何も解けてないから本当に味がない。ふぅ。ドワーフ式の仲間になるもの同士の挨拶か。悪くない。
「さて、お前たち。ドラゴンと渡り合ったことがあると言っていたが本当か?」
「本当だが・・・」
なんなんだ。そんなにドラゴンの話きになるのか?
「俺の昔話をしようか・・・」
「いえ、結構なので要点をかいつまんでお願いします」
涼香・・・。せっかくアクセルが雰囲気出したのに台無しにするなよ・・・。ほら、アクセルの顔!鳩が豆鉄砲食らったみたいじゃないか。
「うぉっほん。わかった、俺のかつての仲間はドラゴンにくわれたんだ。ドラゴンがドワーフの村に来て子供たちをよこせと言うのでな」
「へぇ、ドワーフの村にもきたんだね。あのクソドラゴン」
優姫が苦虫をかみつぶしたような顔をしながら言った。
「その時に村を守れなかった。だから、お前たちがドラゴンを退けたと言うのが信じられん」
「まあ、実際には見逃してもらっただけだけどな」
「・・・そうか、わかった」
アクセルは何かを納得したらしい。だが、アクセルは少し晴れやかな顔をして続ける。
「さて、ルールをもう一度確認しておこう。なんでもありで相手の旗を取れば勝ち。ステージはランダムで「岩」「木」「林」「森」「湖」「街」などの障害物が適当に配置されるようだ。
戦闘に関しては、一応色鉄砲によって色つけられたら戦闘不能らしいが色は「浄化」や「治癒」で回復させることができるようだ。ここのニュースペーパーには近年色鉄砲を使う奴はほとんどいないみたいだが。大概回復されるのを阻止するために殺すようだ」
アクセルははぁとため息をつく。俺たちだってそんな気分だ。
「さて、こんな感じだがうちはどんな方針で行く?」
「殺さず優勝!」
優姫が真っ先に叫ぶ。だが、俺と涼香もその方針で賛成だ。ただでさえ人間は嫌われてる。これ以上嫌われたら何されるかわからないからな。アクセルはこれまで以上に上機嫌になって膝を打った。
「いいだろう!気に入った!それならまずは偵察だ!実際の試合をみてみるか!」
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