3-7 正面から堂々とドワーフの村に
俺たちは正面から堂々とドワーフの村に入った。
「あ、そうだ、涼香」
「はい?」
「一応、もう一度通訳の魔法をかけてくれ」
「それなら問題ないですよ。この魔法は一日効果が持続しますから」
「そうか、やっぱり便利だな」
俺と涼香が話している間に、優姫は入口近くに座っていたドワーフに話しかける。ドワーフは涼香の言う通り小さな体をしている。身長的には小学生くらいだろうか。ずんぐりむっくりの体で足は非常に短い。驚くべきは毛の量だろう。何が髪の毛で、何がもみあげで、何が髭なのか全くわからないほど、ふっさふさだった。
きっと、顔を洗うだけで一時間はかかるはずだ。
「すいません!アクセルっていうドワーフはどこにいますか!?」
優姫の質問。だが、ドワーフはその質問を無視する。優姫はさら に大きな声でドワーフに話しかける。
「すいませーん!!アクセルっていう!!ドワーフはどこに!いますか!!」
しかし、これも無視されてしまった。ジェフの言った通りだな。ドワーフも人間に対しては大した感情を持っていないらしい。さて、そろそろ優姫を引っ張ってこないとな・・・。すると、優姫はドワーフの耳をつかんで自分の口に近づけるとさっきよりも大きな声で叫んだ。
「すいませーん!!!!アクセルはどこにいますか!!!!!」
さすがのドワーフも無視し続けることは無理になったらしい。ドワーフのどんな表情がどんな感情につながっているのかわからない俺たちは、ドワーフの村に入って早々、怒りの表情を知ることになった。ドワーフは座っていた金属製の椅子から立ち上がって叫んだ。
「うるせぇんだよ!!人間!なんで俺が下等な人間の相手をしなきゃいけねぇんだよ!だいたいお前ら何の用だよ!」
ドワーフは優姫の回答を待つことなく結論を出す。
「はっ。わかったわ。奴隷志願者だろ?食うに困った人間が時々そうやって来るんだよな。そんな汚い恰好でひょろひょろと。そろいもそろってもやしかお前ら。大した力も出せないくせに権利だけは高々と主張する。この間も子連れの母親の奴隷が何の勘違いをしたのか、子供のために餌をもっとよこせとぬかしやがった。ったく、あの買い物だけはホント騙されたよ。子連れだって知ってたら買わなかった」
優姫の拳が大きく弧を描いて椅子を砕いた。ドワーフの表情は固まっている。音だけで状況を理解したはずだ。金属製の椅子を破壊したんだからな。
優姫は椅子を破壊した手とは反対の手を、動かないドワーフの鼻先に軽く当てる。
「ごちゃごちゃとうるせぇな。アクセルってドワーフに会いに来たんだ。さっさと場所を教えろ。殺すぞ」
ドスの効いた優姫の声。
「・・・あの煙が出ている家だ」
ドワーフは短い時間悩んで答えた。俺と涼香がドワーフの指さす方を見る。確かに煙りが出ている家がある。まぁ、嘘でも行ってみればわかるか。言われた方向を見ずにドワーフの行動に注視していた優姫に俺は声をかける。
「優姫、その家は確かにある。行ってみよう」
「わかった」
優姫は拳を引く。ドワーフは明らかに安堵してため息を吐いてる。だが、優姫はその油断を待っているんだ。
「死ね!」
優姫のストレート!優姫万歳!ドワーフは顔面の中心に優姫のパンチをもろに喰らった。顔面陥没、三カ月はうまく喋れないはずだ。口封じもできて一石二鳥だ。
「さ、行くよ!」
「おうよ」「はい」
涼香は何も言わずに優姫の手を治療している。魔法を使わずに金属の椅子を壊すなんて無茶をするから、優姫の手はバキバキに骨が折れてしまっていたはずだ。
アクセルがいるという家は少し歩けば到着する場所にあった。
アクセルの家は鍛冶屋だ。入口から金属を加工するときに使うふいごの熱気が漏れ出している。中に少し入ると鍛冶屋らしい道具が散乱している。金床やハンマーなども放置されている。
さて、話しかけるのは俺の番かな。
「すいません、誰かいますか?」
俺はできる限り大きな声で話しかける。ドワーフはみんな耳が悪い可能性もあったからな。だが、返事は奥の方からすぐに帰ってきた。
「ああ?うるせぇぞ!今日はもう閉店だ!」
「少しだけお時間ください!ジェフさんからの紹介でここに来ました!」
「ジェフ~?あのヘタレエルフの野郎が?いっちょまえに紹介だと!?笑わせるな!」
そう言いながらアクセルはずっしずっしと鍛冶屋の奥から出てきた。アクセルの顔も入口にいたドワーフとたいして変わらずもじゃもじゃだった。ただ、毛の色が黒っぽいな。恰好は煤で汚れて黒ずんでしまってもとの色が何だったかわからないが、鍛冶作業に適応された格好なのだろう。
そんなアクセルは俺たちの顔を見て、少し横にある耳を見て驚いている。
「げっ。エルフの紹介だからエルフかと思えば、人間じゃねぇか」
「人間が客だと問題ですか?」
「問題?ふはっ・・・いや?そもそも俺は誰が客だろうと俺が認めた客にしか武器は作らない主義でな。相手が何であろうと関係は無い」
「そこに人間が入ったことは?」
「無い」
ふむ。思っていたより話が通じる。入口にいたドワーフは全く話が通じなかったからよかった。ジェフも本気で言ってくれていたんだな。
「俺たちはあんたに認めてもらって、武器を作ってほしいんだ。どうしたらあんたに認めてもらえる?」
「ほう?俺に武器を作ってほしいと?」
「はい」
俺はアクセルの返事を待つ。じっくりと一分ほど考えた後、アクセルは口を開いた。
「なら、お前ら。ここの地下で行われている闘技場で優勝して見せろ」
「闘技場?」
「そうだな。俺がここで説明するより、見たほうが早いだろう。来い」
アクセルは作業着のまま俺たちを先導する。家の中には地上に出ている出口のほかに、地下への入口があった。アクセルはそこへ俺たちを導く。
「仁さん。これついて行っても大丈夫でしょうか・・・?」
「わからない。だが、今はついて行くしかないだろう?」
「二人とも早くいくよ!」
優姫はすでに地下への入口に入って、顔だけ出して俺たちを読んでいる。ったく。俺たちの心配は何なんだよ。
「はいはい」
「あーっ、返事は一回でいいんだよ!?」
「オカンか、お前は」
「そんなに老けてない!ほら見て!この顔!しわ一つない!」
「うるせぇぞ、お前ら」
うっ、アクセルに怒られた。俺は優姫を睨む。優姫は俺のことなど見ていなかった。アクセルの前に何が出てくるのかワクワクしている顔だ。
俺たちは壁に掛けられた薄暗い蝋燭の明かりを頼りに一段一段階段を下っていた。しかし、この階段!ドワーフ用だから一段一段の高さが小さすぎる。うっかりしてると転んでしまいそうだ。
しばらく下っていると、徐々に歓声が聞こえてきた。一喜一憂する声は何かを応援している声だ。罵声も飛んでる。アクセルが止まる。
「おら。着いたぞ、この扉の向こうだ」
アクセルが扉を開く。扉を開いた瞬間、中の熱気と歓声があふれ出して、俺たちにぶつかる。これだけのドワーフが熱狂している競技って・・・?
闘技場はすり鉢状になっており、真ん中は円形になっている。俺たちは上からその競技を覗いた。なるほど、魔法戦か。
二つのチームが別々の陣地に分かれて戦っている。おそらく旗取りゲームだろう。闘技場は陸上競技場より広く、ごつごつとした岩場が山になったり谷になったりと障害物として広がっている。
参加者はそういう岩場に隠れながら魔法を打ち合う。次々と魔法が飛び交ってはドワーフを吹き飛ばし、岩を削る。俺はこれまでにない高速な魔法の打ち合いに少し戸惑っていた。闘技場って怪物を狩るところだと思っていたが・・・。まさかの対人戦!?
アクセルは俺たちを見て声を張る。
「ルールは簡単だ!旗を取った方が勝ちだ!殺さなければなんでもあり!それから、大会専用魔法の色鉄砲という魔法で色を付けられた奴は退場だ!」
「全員退場したら?」
「全員退場したら旗を取られて負けだ!まぁ、設置型の魔法でそれを回避し、引き分けに持っていくチームもあるがな!」
「詳しいルールは?」
「見て覚えろ」
「これで優勝したら認めてもらえるんだな?」
「ああ!男に二言はねぇよ!」
「よっしゃー!やる気出てきた!!ならエントリーしてこよう!」
優姫はさっさと走り出す。だが、それを見たアクセルが慌ててそれを止めようとする。
「おい!エントリー受付はそっちじゃねぇよ!」
アクセルの怒号。なんとなくそれを予想していた俺と涼香が優姫を追いかけて押さえる。
「はーい。方向音痴は前に出ちゃだめだぞー」
「優姫さ~ん、おとなしくしてましょうね~」
「うわあああ、ボクを子ども扱いしないでよー!」
「さっさとこっちへ来い。エントリーして大会に出られるのは明日だ。控室でおとなしくしてろよ」
アクセルはそんな俺たちを先導してエントリー会場へ連れて行ってくれた。
次回、闘技場に挑戦します!
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