3−6 一度も振り返らなかったな
「一度も振り返らなかったな」
「彼にとって私たちは厄介な人間の邪魔者ですからね。何か別の目的もありそうですし」
別の目的か。どうだろう。確かにエルフにしては人間に友好的だったみたいだが。
「二人とも!そんなことより、ドワーフの村だよ!楽しみだなー!」
優姫は目を輝かせている。俺はエルフの村を思い出しながらげんなりする。
「そうかな・・・。俺はちょっと憂鬱だよ。ドワーフも人間を奴隷として扱えるだけの猿としか思っていないんじゃないか?」
すると優姫は珍しく、真顔で俺の疑問に答える。
「そうかもね。でも、それも見に行かないとわからないよ」
なんだ、急に真面目になっちゃって。
「まぁ、確かにな」
「行きましょう」
俺たちは期待と不満の入り混じった感覚で山の上へと馬を走らせた。
山には木が一本も生えておらず、砂と岩と土だけの殺風景な景色であった。幻馬は実際に足があるわけじゃないため、俺たちの体に当たりさえしなければほとんどの障害物をよける必要が無かった。
だからこそ、俺たちは暇だった。新幹線とか飛行機とかもそうだが、長時間乗って座っているだけというのは非常に眠気を誘う。
「何も、なさすぎる!」
優姫は急に叫んだ。
「確かにな!生き物も一匹たりともいないじゃないか!」
「ここはすでにドワーフの村というか縄張りなんですから!当然じゃないですか!」
「ああ、だめだ!ボクこんなに何もないと眠くなっちゃうよ!」
優姫はそう叫ぶと急に傾き始める。まてまてまて!子供か!喋っててそのまま寝るって子供か!
「涼香!」
「はい!」
バスッ。涼香が優姫の馬の左側に付いて、倒れこむ優姫をささえた。
「優姫さん!本当に寝ちゃってます!」
「マジかよ!なんとか起こせないのか!」
「優姫さん!!起きて!」
だめだ、全然起きそうにないな!そういえば学校でも一度寝たら水かけられても起きなくて、一人びしょびしょのまま学校に放置されたことあったな。あの後、急に学年集会が開かれて、あるクラスでいじめがあるとか言う話になってたな。あの時は誰がいじめられてるのかわからなかったが、今考えてみるといじめられてると思われたの優姫だったんだな。
「ちょっと仁さん!ぼんやりしてないで助けてください!」
涼香の悲鳴が聞こえる。あーやっぱり優姫起きないな。
「涼香!停止の魔法ってどのくらい効くんだ?」
「抵抗しなければずっと効きますよ!」
「よし、それなら支えるの変わるから魔法かけてくれ!」
こんな速度で岩と石だらけの場所に落ちたら、頑丈だけが取り柄の優姫ですらひとたまりもないだろう。俺と涼香は慎重に位置を交代する。よっこいしょっと。あれ?こいつ意外と重いな?スタイルいいけどやはり筋肉量が人とは違うか。骨密度も常人の二倍くらいありそうだ。
後ろに回った涼香が俺に声をかける。
「それじゃ仁さん!動かないでくださいね!馬との相対位置を固定しますよ・・・!停止!」
おお!優姫の体重がなくなった!魔法で固定された証拠だな。よし、これでしばらくはこのまま止まっているだろう。・・・あれ?優姫から離れられない。・・・口は動くか・・・?よし動く。
「おい涼香!俺まで動けないぞ!?」
「えっ?一緒に止めるんじゃないんですか!?」
「違う!優姫だけ止めろよ!」
涼香が一瞬黙る。すーっと俺の正面に回ると唇の端がくいっと持ち上がる。・・・こいつ。笑ってやがる。
「っ・・・間違えました!ふふっ、許してくださいね!?」
「誰が許すかー!!魔法解いてくれ!」
涼香はもはや笑いを隠さない。
「ふふふっ!解けません!解くための魔法はないので頑張って抵抗してください!」
「ふざけんな!」
抵抗しろって!?これ全く体動かないぞ!?俺は必死で体を動かそうとする。
「優姫さんも同時に抵抗しないと解けないと思いますよ!」
「なんでだよ!」
「私にもわかりません!でも仁さんよかったですね!愛しの優姫ちゃんと一緒になれて!」
「こんな男か女かもよくわからない猿やだー!!!」
「ひぃとーしぃー?誰が筋肉オカマ猿だってー?」
なにぃ!起きてたのかよ!なら動け!
「あーおはようございまーす・・・優姫さーん。ちょっとお願いがあるんですけどー・・・。一緒に動こうとしてくれませんかー?」
「やだね!」
うおお、面倒クセェ!!そんなことしてるうちに一つ丘越えたぞ。その時俺の視界にとんでもないものが飛び込んできた。
「やばいぞ!この侵攻方向!岩にぶつかる!」
これまでにないほど大きな岩が俺たちの進む方向にある!このままじゃ思い切り激突・・・!
「おい!優姫、冗談言ってる場合じゃない!あんなのにこのスピードで当たれば間違いなくシヌッ!!」
どうやら優姫も岩の存在を確認したらしい。そして俺の方に視線を向ける。・・・テメェ。なんて顔してやがる。それにしても停止の魔法って顔の表情は全く固定しないんだな。
「おいおい。優姫さん?」
「ねぇ涼香!馬は透明だから岩には当たらないんだよね?」
「ええ、そのはずですよ?」
「ふふふふ、いいこと考えちゃった」
「いいこと?ちょっと何言ってるのかわからないよ?さぁ、優姫さん、一緒に動こう。な?そしたらみんなハッピーみんな仲良しさ」
「ええー?ボク、筋肉オカマ猿なんて言われて傷ついちゃったなー?」
「そこまで言ってないだろ!それにその程度で傷つくような精神じゃないだろ、お前!」
「うはー!ひどいや仁!ボク・・・もう許さない!」
一瞬黙っていたところは笑いをこらえていたんだ。泣きそうになっているわけじゃない。
「ふざけんな!早く、おら!あーやばいやばいやばい!岩痛いぞー!このまま当たったらきっと痛いぞー?優姫くーん?」
思ったよりも岩でかい!ジャンプでも越せそうにないぞ!?どうする!幻馬を急に方向転換させるにしても間に合うか!?優姫のことだ、動き出せるようになるのはギリギリ・・・。
その時、俺の脳内には電撃が走った!はっ!もはや俺は岩に当たるの不可避!優姫はギリギリで岩を回避する魂胆だ。でも、停止の魔法は二人が同時に解除しようとしなければ解けないんだ。ふはははは!馬鹿め!貴様だけが優位に立っていると思うなよ!?
「なぁ、優姫?」
「なんだよ、仁!今更謝ったってボク許さないよ!」
「俺とお前ってトモダチだよな?」
「えっ?なになに、泣き落とし作戦?そうだね。友達だと思うよ?」
「だよな?なら、一人で苦しむよりトモダチと一緒の方が気が楽になるよなぁ?」
「そうだね・・・って。だめだよ、仁・・・?」
俺は地獄で待つ閻魔大王より良い表情をしているはずだ。
「いやいや。ちゃんと動いて?ね?岩に当たっちゃうよ?ほら、動いてくれたらボクが魔法で強化したパンチであんな岩吹き飛ばすから・・・!」
「ははは、そんな言葉!信用ならねぇなぁ?」
「仁!お願い、信じてー!!悪かったって!一緒に岩避けよう!?もう手遅れになっちゃう!!」
「だめだ!俺たちは運命共同体なんだよ!」
うわ、もう岩!目の前!!!
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「お幸せにーーーー!!!」
先に岩を避けた涼香から意味不明な掛け声が飛んできた。岩に当たる直前、俺と優姫は互いの意思を確かめ合った。
「「涼香コロスッッッッ!!!」」
ズドォォォォォォン!!!!
おそらく、山中に響き渡っただろう。俺と優姫は見事、岩に埋まった。きっと俺たちによって、ロボットアームで作った人と言う文字が、岩にくりぬかれているように見えるはずだ。
目を覚ますと涼香と優姫が俺の顔を覗き込んでいる。
「仁、岩ごときでダメージ受けすぎだよ?なんで治療の魔法三回もかけないと目を覚まさないの?」
「・・・お前は何回だ・・・?」
「ボクは気絶してないし、一回だけだよ」
化け物かお前。時速80キロくらいでぶつかれば大概死ぬんだよ。ぐちゃぐちゃになってな。
「ふぅ。涼香すまない。ありがとう。この音で敵とかはよってきてないか?」
「今の所大丈夫だよ!」
優姫がそう言うならば大丈夫だろうが、俺は一応周囲を見回しておく。ここほんとに岩と石と砂以外何にもないんだな。
周囲を見回した俺と優姫は目を合わせるとうなずきあう。チャンスさえあれば涼香を罠にはめよう。
「さて、行こうか」
俺たちはそれぞれ幻馬をもう一度呼び出すと、再度跨って走り出した。だが、すぐ、ドワーフの村の入り口らしき門が見えた。俺たちは馬を止めると中を伺う。
「おおーこれがドワーフの村!」
「エルフの村とはまた違った趣ですね」
「ああ、エルフは森に溶け込んでいたが、ドワーフは岩に溶け込んでいると言う感じだな」
「すごいね!岩だらけ!」
優姫の言う通り、ドワーフの村は岩だらけだった。岩だらけというよりも岩しかなかった。家は基本的に一個の岩をくり抜いて作られたものだろう。家の配置がバラバラで脈略がなかった。だが、その配置すらも芸術の一部となっているかのように均衡がとれ、その家々はドワーフの生活完全に溶け込んでいる。
「よっし!ジェフが言ってたドワーフ探そう!何だっけ?ブレーキ?」
「アクセルだろ。どうやったらそう間違えるんだ?」
「そうそう!アクセル!速そうだな~」
「何言ってるんですか優姫さん。ドワーフは基本体が小さいんです。きっと動きものっそのっそしてますよ」
「のっそのっそ!とってもかわいんじゃない?」
「かわいいだろうか・・・」
「動きの素早いドワーフってきっと可愛いよ?」
「まぁ、なんでも良い。とにかく入るぞ」
俺たちは幻馬を返すと、村に入った。村の中にドワーフの姿は少なかった。何人か洗濯物を干しているくらいだ。あれはドワーフの主婦だろうか。ところどころ茶色に変色してしまっている服を引っ張り伸ばしながら物干し竿にかけている。
そして、俺の危惧したことは当たっていた。物干し竿の裏から首輪をした人間が姿を現した。
「やっぱりか。ここも人間を奴隷として扱ってるんだな」
今にも殴りに行ってしまいそうな優姫は涼香が抑えている。
「優姫さん、今は我慢です。いつか助けてあげられる日がきますから」
「・・・そうだね」
優姫もおとなしい。エルフの村で実力を思い知ってしまったのだろう。人間界の剣道チャンピオンという立ち位置はこの世界では大したことない称号なのだ。
「とにかくアクセルを探そう」
ドワーフの村、到着です!
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