3−5 ヒトッチ!よそ見厳禁!
「フェンリルすごいな!」
「ヒトッチ!よそ見厳禁!」
「おわっ!」
しまった!こっちは大丈夫か?俺が振り返えると優姫はミノタウロスと力比べをしているかのように取っくみあっていた。魔法でパワーを上げているとは言え自分の身長の二倍はある怪物とよくそんな風に対峙していられるな。
「ヒトッチ!リョッチ!ちょっと試したいことあるからこいつを膝つかせて!」
「おい!お前、涼香のことそう呼ぶなって!」
俺は涼香を見る。顔に黒い線がたくさん入り、中に赤い怒りマークが入っているようだ。くそっ、涼香はキレてるし、依頼内容は無茶苦茶だ!こっちも結構疲れがきてるんだぞ!
「ええーい!涼香、俺に跳躍!」
「・・・はい、跳躍」
涼香テンションめっちゃ下がってるじゃん!これは後で何かありそうだ。だが、とにかくまずはあのミノタウロスに膝をつかせる!俺は涼香の魔法により、ミノタウロスの上空にきた。ここだ!
「水流弾!」
うおお!作用反作用・・・!俺の掌から出てるから、俺はさらに上空へと押し上げあられる。だが、ミノタウロスはその勢いに負けて膝をついた!よし!
「サンキュー仁!」
その隙に優姫はミノタウロスの後ろに回り込む。ミノタウロスを崖に突き落とす気か?結構距離あるけど・・・
「よし!喰らえミノッチ!突撃殴打!」
優姫はぐぐっっと拳を固めて力を溜める。拳には光が凝縮されていく。そしてそれを一気に解放しミノタウロスの背中をぶん殴った。拳が霞んで見えたぞ・・・?
ブモォォォ!!!
ミノタウロスの骨という骨がぼきぼきと折れていく音が聞こえる。一瞬遅れて、ミノタウロスは吹き飛ぶ。綺麗な放物線を描いて崖下に消えていった。
「ふぃ〜、こりゃ一撃必殺だねぇ!すっごい疲れるし溜めるのに時間かかるし」
「そんな技身に着けてたのか」
「まぁね〜、ドラゴンに一撃与えるにはもっと力が必要だと思うけど!」
「あの硬い鱗にはそうだろうな」
俺の返事を大して聞くこともせず、優姫は涼香の元へ走る。あ、これは。
「リョッチ!今の見てくれた?ボクの魔法どうかな?」
「・・・リョッチっていうのやめてもらってもいいですか?」
涼香の絶対零度の微笑みが炸裂する。だが、超絶ニブガール優姫に皮肉は通用しない!優姫は不思議そうな顔をする。
「何で、可愛いじゃん」
「可愛くありません!」
涼香がプンプンしている。だが、そんな涼香を見て優姫のいたずら心に火がついたらしい。
「リョッチリョッチリョッチリョッチリョッチリョッチリョッチリョッチリョッチリョッチリョッチ・・・」
「うるさい!沈黙!」
「・・・・!!!!」
おお、優姫の声が聞こえなくなったぞ?黙ったのか?いや、違うな。本人はずっと口を動かしてる。声そのものが出なくなってるんだな。この魔法もすごいな!涼香の覚える魔法、何から何まで強力な魔法だな。
そこへジェフが近づいてくる。フェンリルはすでに帰したようだ。おそらく召喚中ずっと魔力を消費してしまうのだろう。
「貴様ら、ミノタウロスを谷底に突き落とすなんて芸当、我は初めて見たぞ・・・。本来はああして骨を砕いてしばらく動かなくさせることを目的とするんだが・・・」
「まぁ、邪魔だったんでな」
「ですね」
「・・・・!!」
ジェフは俺たちをまじまじと見つめている。それにしても、優姫は黙っててもうるさいな。このままだと、涼香がそのうち捕縛とか拘束とかちょっとイケない方向の魔法を覚えてしまいそうだ。あ、魔法が切れた。この魔法あまり長く使えないんだな。
「ねぇねぇ!ミノタウロスって食べれるの?」
「えっ?」
ジェフが驚きに満ちた顔をしている。そんなこと考えもしなかったんだろう。
「いや・・・、それはわからないが」
「じゃあ食べて見ない!?お腹すいたよ!」
「やめとけ、優姫。あんな筋肉質な肉、食べても筋が硬くて食えたもんじゃないだろ。たぶんな」
「仁さん・・・何真面目に答えてるんですか。お猿さんに日本語は通じませんよ」
涼香の言葉から棘しか感じないんだが。
「えーそっかー」
優姫はミノタウロスをちらちら見る。全然諦める気ないな。俺はそんなやつ絶対食いたく無いからな。
「肉食いたいなら別の場所で狩りでもしよう。そいつ汗臭そうだしやめとこうぜ」
「汗臭いのか!ならやめよう」
汗臭いのは嫌なのか!ドブみたいな味の果物でも食べるくせに・・・。
「でも、一度休憩しましょうか。少し疲れました。優姫さん、そのミノタウロス片付けておいてください」
涼香はジェフが放置していたミノタウロスを指差す。指示も適当だし、涼香本人はすでに手頃な岩を見つけて座っている。涼香さんご機嫌ナナメ。だが優姫にはその程度のナナメ、通用しないぞ。
「がってん!突撃殴打!」
ブモォォォ!
最後のミノタウロスも綺麗に飛んでいった。さすがに死んだんじゃないか?そんな俺の表情を読んだのか、ジェフが言う。
「あれでも死んでいないだろうな」
・・・タフすぎるだろ。
結局、その場所でそのまま野営することになった。涼香の機嫌が治らなかったため、俺と優姫で狩りに行くしかなかった。やなんだよなー、優姫と行くの。隠密行動というものがあること自体知らないんじゃ無いかというほど、彼女が歩くだけで騒音がする。結局ちょっとした小動物の肉しか食えなかった。不味くはなかったが。
一晩、休憩をとった俺たちはその後休みなく馬を走らせた。幸いなことに二日目は怪物も深すぎる谷も、もう出てこなかった。ありがたや!
だが、途中、ジェフが正面ではない方向を向いていた。俺もそちらを見て見たが、オークが数匹いただけだった。俺たちが助けた時、オークにやられかけてたし、やり返したいのだろうか。
ドワーフがいるという山に入る手前でジェフは案内を終わらせた。俺はジェフに聞く。
「まだドワーフの村に入っていないと思うが?」
「何を言っている。そこの先、山全てがドワーフのテリトリー。エルフは入ってはならない掟だ。だから案内できるのはここまでだ」
優姫が急にダッシュしてジェフに抱きつこうとする。ジェフは優姫の頭を両手で掴んでそれを阻止している。
「ありがとう、ジェフ〜!抱きついてあげる!」
「やめろ!」
ジェフは俺と涼香を見る。助けないぞ?なんせ涼香は感謝してるからな。
しばらくジェフと優姫は格闘していたが、優姫がそれにあきてしまったところで試合が終了した。やるじゃないか、ジェフ。そこまでしつこく拒否できるのもすごいと思うぞ。
「コホン。借りは返したぞ、人間。お前たちは・・・その、人間の中ではマシな方らしいな」
ジェフは悔しそうにそう言っている。
「それから・・・。最後に助言だ。ドワーフの村に入ったらアクセル=ロシュトと言う男を探せ」
「へぇ、どんなやつなんだ?」
「会えばわかる。あいつであれば、人間ということだけで話をしないというようなことは無い」
そいつじゃなければ人間というだけで話してくれないのか。ドワーフの村、入りたくなくなってきた。
「なるほど、助かる」
「ただし、注意しろ。協力してくれるのはお前たちの力を示せたらの話だ」
おおう、そういう感じか。
「最後に。もう会わないだろうからな。貴様ら、奴隷を解放しようとは思わないことだ。貴様ら人間は近いうちに淘汰される。叶う願いと叶わない願いがあること、肝に銘じておけ!」
ジェフの捨て台詞のような最後の言葉。だが、言うその表情はゴミムシ以下の人間を見下す顔ではなく、真剣に心配している先生のような顔つきだった。優姫は対抗する。
「べー!ボクは叶えて見せるよ!」
ジェフはただ頷いただけで、振り返ることなく去って行った。
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