3−1 おはよー!みんな!朝だよ!
「おはよー!みんな!朝だよ!」
うるせぇ・・・。なんでそんな元気なんだよ。もう朝か・・・?俺は目を覚ます。ぼんやりと映る目にはほとんど光が入ってこない。んん?俺は目を擦った。俺は起き上がると優姫を見つめる。
「なあ。・・・どこが朝なんだ?」
「何いってんだよ〜。もう太陽登り始めてるよ?」
そうして優姫は真っ暗な山を指差す。
「どこが・・・?」
「ふぁあぁ。もう朝ですか・・・?」
「ほら、3、2、1・・・!」
優姫のカウントダウンが終わった直後。スゥッと一筋、山の向こうから日の光が溢れた。ほほー。ずいぶんと体内時計が正確なことで・・・。
「仁くん朝ごはんは?」
「ねぇよ」
お前、ただ腹が減ったから俺を起こしたな!?
「えっ!?なんで!?」
「なんの用意もせず家を出たんだ。その辺で調達しよう」
俺たちは焚き火をもう一度強くすると、日が昇った直後から朝ごはんを探すことにした。きのみとかなんか葉っぱがあればいいだろ。食べられるものを探しながら俺はみんなにこれからの目標を発表する。
「二人とも、探しながら聞いてくれ。これからの予定を発表する」
「予定?」
優姫が首をかしげる。
「ああ。優姫の希望通り、ドラゴン退治に行くとしても、俺たちにはなんの力もないんだ。魔法の強化や俺、涼香の身体能力を強化する必要があるが、まずは優姫の武器から調達しよう」
「ボクの武器!次はめっちゃ頑丈なやつじゃないとダメだね!」
優姫はチッチッと指を振る。
「ああ、そこでだ。なぁ、涼香。ドワーフって生粋の鍛治職人が多くいると思うんだけど、どう思う?」
「はい、確かにそうですね・・・!ドワーフは手先が器用ですから鍛治に向いているとおもいます。ドワーフに作ってもらえるなら相当頑丈な武器が手に入ると思います」
「そこで質問なんだが。ドワーフってどこにいるんだ?」
「ドワーフはそうですね・・・。大体が山・・・それも火山のような激しい山の洞窟などに住んでいると思います」
「山か・・・」
「山!それならちょっと高いところにでも登って周りを見てみようよ!」
「そうしようか・・・!おら!こいつを食ってからな!」
俺は木のそばに生えていた蔓だけ伸びている植物を引っこ抜いた。いくつもの芋が付いてきた。朝ごはんはこいつで決まりだな。草で巻いて簡単に蒸してやろう。
朝ごはんはまあまあだった。どうも、味気ない芋だった。ああ、久々にステーキとかハンバーグとかうまーい肉、くいてぇな・・・。
「それじゃ!出発進行!」
「高台はこっちだ。どっち向いてやがる」
俺たちは出発した。道中敵もなく、楽に進めた。初めての土地でここまで魔物に遭遇しないと言うのも変な話だが・・・。なんて思っていると戦闘の音が聞こえてくる。やっぱりな。誰かが戦っていたから他の連中は息を潜めて見てたんだな。俺たちは近くの茂みに潜んでその様子を観察することにした。
どうやら怪物っぽい奴が一体、亜人で豚のような奴らが十人、端正な顔立ちで耳が長い亜人が一人、争っているな。豚は怪物の後ろに回って様子を見ているだけだな。
「トロール、オーク、それにあれはエルフですね」
うーん。さすがは涼香。だが、
「ajgo I a v jrkn avkja fgm av!」
おっと?何語だ・・・?ここにきて初めてわからない言葉がきた・・・!俺はちょっと嬉しくなりながら言った。
「涼香、頼む」
「はい、通訳」
もう、さすがは涼香!何にも言わなくていい!よし、これでどうだ?
「どっか行けっていってんだろ!俺はエルフだぞ!」
おお、わかる!何言ってるかわかるぞ!
「ぎゃーぎゃーうるさいな!何いってるかわからないが、お前は俺たちの食料を奪った!それだけで万死にあたいするぞ!」
「そうだそうだ!殺せ!トロール!骨も残すな!」
「やれやれ!」
どうやらオークとエルフの間では話が通じていないようだ。簡単な布を纏っただけのオークは盛り上がっている。体にしっかりフィットさせるタイプの服でマントを羽織ったエルフの方は素っ裸の白いトロールに苦戦している。トロールはエルフの長剣で傷つけられた傷を一瞬で治してしまう、とてつもない再生能力を持った体をしているようだった。エルフは何度も切りつけるがその全てが無効化されている。あっ、あの石、踏んだらやばそう。
そう思った時にエルフはそのいい感じに置かれた石につまずいた。おおう。目も当てられないな。エルフって森の中ではもっと動きが俊敏なものだと思ってたけど・・・。トロールはエルフの動きが狂ったその一瞬を逃さなかった。太い腕を振り切ってエルフの頭に当てた。エルフは吹き飛ぶ。すぐさま立ち上がろうとするが、フラフラっと倒れてしまった。そこにトロールが近づき拳を振り下ろす。あ、これはエルフ死ぬな。
「よし、エルフ助けよう」
「いいんですか?どちらも人間を生き物とは思っていないような連中ですよ?」
「だが、エルフの方が話が通じるはずだ。オークは暴力を好みそうだが、エルフは知性を好みそうだからな」
そこへ優姫の顔が近づいてくる。
「なになに、突撃?」
「優姫、お前、体のどこがおかしくなってるかわからないんだからな。気をつけろよ。まぁ、どうせ俺の忠告なんて聞かないだろうけど。優姫はオークを頼む。俺と涼香でトロールを殺る」
「がってん!力強化」
「了解しました!」
優姫はそれだけ言って飛び出して言った。あいつならパンチだけでオークを蹂躙することも可能だろう。さて、俺たちはトロールの処理だな。やっぱり厄介なのはあの再生能力、そして巨体の体重を生かした重いパンチも危険だ。俺なんかおそらく一撃で全身をバラバラにされてしまう。とりあえず、新しい魔法のお披露目と行きますか。それでいけるはず。
「涼香、オークに跳躍の魔法かけてくれ」
「わかりました!」
涼香は腰のベルトから魔道書を取り出すと、魔法の準備をする。さて、相手は再生能力が凄まじいモンスターだ。でもだからこそ、あのドラゴンとの戦闘で新しく会得したこの魔法。試させてもらおう!
「行きますよ!跳躍!」
トロールが急激に空高く飛ばされる。おお、思ってたより飛ぶな。体重あんまり関係ないのか?そう思って涼香を見る。めっちゃつかれてんじゃないか。なんか、すまん。
「よし。一撃で決める」
俺は魔道書を開く。あのドラゴンとの戦闘で命の危機に瀕したことはかなり大きな経験になったようだった。まぁ、何やら俺たちに『始まり』を感じたらしいし、そのあたりと関係があるのかもしれないが。俺はトロールが落ちてくるギリギリを見計らう。そして地面に激突する瞬間に唱えた。
「突沸!」
バンっ!!
トロールの体にだって水分は含まれている。その水分を全て急に沸騰させるとどうなるか。水の体積は気体になることで元の1700倍になり、まさしく水蒸気爆発を起こす!さらに地面との衝突によってトロールの体は四散する!
・・・うわぁ。次からはもっと離れたところでこの魔法は使おう。この距離だと色々飛んでくるな。あれ?涼香は被らなかったのか?
「涼香は大丈夫か?」
「はい、とっさに仁さんの後ろに隠れましたから」
なるほど。俺が盾がわりだったと言うことか。まぁ、いいだろう。俺は器の大きい男!
「仁さん、さすがに汚いし臭いんで体綺麗にしてから行動してくださいね?」
カッチーン。
「涼香・・・。お前なぁ」
あ、そうだ。優姫は?
「おらぁー!!」
ちょうど最後のオークが吹き飛んでいった。ぶっ倒れているどのオークも顔面ど真ん中に一撃食らっている。うわぁ。あのオークはちょっとかわいそうだな。絶対死んだ方がいいはずだ。さて、俺は体を綺麗にしよう。
「浄化!」
俺の頭の上に水の膜が作られる。水の膜はスーッと降りていき、俺の全身の汚れを膜に取り去って消えた。よし!血まみれの服も元どおり!オークを好き放題殴ってスッキリした顔の優姫が戻ってきた。
「ふぅ、これでおしまい!」
「まぁ、割と骨があったな。さて」
俺は立ち尽くしているエルフに近づくと声をかけた。エルフは
「あー、言葉通じてますか?大丈夫でしたか?」
「貴様ら!人間だろう!下等な生物が我らエルフに何を持って話しかけるのか!」
「何を?いや、怪我はないかと」
「人間に心配されるようなことではないわ!ったく急にしゃしゃり出てきて。我の周りの敵を片付けていい気になるんじゃないぞ!?」
おおっと?言語は通じてるのに話が通じないな?
「あのー。どう言うことでしょうか」
「人間風情が我に話しかけたくば、貢物を用意しろ!貴様たち人間など使い道は限られている!せいぜい小さな荷物を運んで我々の老廃物をかき集めて、畑に撒くくらいだ。そのくせ餌だけはたくさん与えなければならん。なんて効率の悪い。私は前から反対だったんだ。人間を使うのは。その弱っちい体と大したことない頭でせいぜい、ぶっ!」
おお〜、鼻血が綺麗な放物線を描いているなぁ〜。こう言う時優姫はとても良い。言葉より先に手が出るのはどうかと思うが、おかげで俺は冷静でいられる。
「ねぇ、なんかこいつ失礼じゃない?」
「だな。俺もイライラしてたよ。ありがとう」
「えっ!お礼!?ちょっともう一発ぶちこんでこようかな?」
優姫が腕をぐるぐる回し始めたので俺は止める。
「もう、いいから。新しい魔法も試せたし。なんかこれ以上関わるとめんどくさそうだ」
俺は自分の辞書の中にエルフの項目を加えた。
エルフ:亜人。耳が長い。高飛車。人間を毛嫌いしているらしく、会話が成立しない。
「だが、エルフさんよ!人間を蔑む理由は知らないが、そんなこと言ったらあんたたちも大したことないんじゃないか?命を救ってもらった礼すらできないんだからな!」
俺は吐き捨てるようにそう言った。すると敵意むき出しだったエルフが、急にみぞおちにパンチでも食らったかのような顔をして動きを止めた。
「なんだ?」
「・・・くそっ。どうしてこうなるんだ。また我は馬鹿にされる・・・。」
なんかブツブツ言ってるな?
「なんだよ、聞こえないぞ!」
「我はエルフ!ハモンド家長男、ジェフ=ハモンド。エルフはバランスを重んじる種族」
ジェフと名乗ったエルフは急に声が小さくなる。
「・・・確かに貴様たちに命の危機から救ってもらったことは事実だ・・・。借りは返さなくてはならない。我に望むことはあるか・・・?」
おや?形勢逆転か?エルフはバランスを重んじる?
「涼香・・・?」
「私もよくはわかりません。あくまでも小説は人間の想像ですから・・・。私も読んでいない小説や物語はたくさんありますし・・・」
なんにしろ、お願いを聞いてもらえるらしいし。ちょうどよかった。
「じゃあ、ドワーフのいるところまで案内してくれ」
「ドワーフ!?それはちょっと・・・。エルフとドワーフは仲が悪い」
いやいや、その高飛車な態度で来られたら、誰も寄って来ないだろ・・・。仲良くなりたいと思う種族なんているのか?
「おいおい、借りを返すんだろ?できないなら結構だ」
「・・・いいだろう。ただし、送り届けるだけだ。それ以外は無しだ」
「ああ、安全に!そして速く!送り届けてくれ」
「くそっ。いいだろう」
くそって。どっかで偶然を装って罠にはめるつもりだったか・・・?こいつ油断も隙もあったもんじゃないな。
「だが、ドワーフの村までは2日かかる。一度我の村に戻って装備を整えさせろ。幻馬」
おい。俺たちの許可ちゃんと取れよ。エルフの村に俺たちが行くってこれ結構危険じゃないか?
「エルフの村!楽しそうだね!」
お前はお気楽でいいなぁ。
「仁さん。大丈夫でしょうか・・・」
涼香は正常だ。
「どうだろう。行ってみるしか・・・」
そんな、なんの内容もない相談をしていると、ジェフの呼んだ馬が目の前に現れた。
「黒っ!」
「わぁー!馬だ!」
「足が途中から透けてますよ・・・!?」
ジェフは心底馬鹿にした表情で俺たちをみる。
「なんだ、貴様たち幻馬も見たことないのか。これだから下等、ぶっ」
優姫。おまえ、味を占めただろ。コッチみんな。もう、お礼は言わないぞ?ややこしくなるからな。
「ふふん。ばかにすんな!?」
「くそ・・・。覚えておけよ・・・?」
うわー、なんか余計な恨み買いそうだなー。やだなー。エルフに追っかけられるの。森の中あいつらの庭じゃんか・・・!
俺たちはジェフがやるように幻馬に乗った。なんかこう、ふわふわしている。そして特に足をかけるところがない。足の筋肉で馬を挟むしかないな・・・!
「それでは行くぞ。ついてこい!」
ヒヒーン!ジェフの馬は猛スピードで駆け出した。俺たちもジェフと同じように足で馬の腹を蹴って走らせる。おお、割と勝手について行ってくれる!
「うわぁぁぁぁ!」
優姫早いな!!俺がそう思った時だった。ふっと優姫の姿が消える。
「おいっ!優姫!?」
そして草むらをかき分けて戻ってきた。
「道間違えちゃった!」
お前の方向音痴は馬にも伝わるのか・・・?
読んでいただき、ありがとうございます!
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