1-1 世界は終焉を迎えた
2030年、世界は終焉を迎えた。
その時俺は学校で普通に授業を受けていた。いつも通りの机。いつも通りの先生。いつも通りの授業。いつも通りの教室。俺は窓側の一番後ろの席だった。いつも通り窓の外を眺めてぼんやりしていた。
今日は黒い雲が空を覆い、昼過ぎだというのに薄暗く少しばかり不気味な雰囲気だった。天気予報では今日の午後、春には珍しいほど暑い日になると言っていた。だがこの様子では午後雨になるだろう。予報はあくまでも予報。俺は傘を持ってきていないことをふと思い出した。
(まぁ、やむまで教室にいればいいか。この後、どうせ塾だし。しかし、いい加減春終わってくれないかな。鼻水がすごすぎて全然集中出来ねぇんだけど・・・。)
そんな時だった。
「なにあれ・・・?」
優姫が授業中にもかかわらず声をあげる。
(どうした?ってか、お前授業中にどこ見てんだ。あ、俺もか。)
俺はぼんやりと続けていた思考を止めて、優姫が指差す方向に目を向ける。普段からびっくりすることは少なかったが、この時ばかりは俺のすごい顔をしていただろう。誰も見ていなかっただろうが。
(おいおいおいおい!!天が割れてる!)
少し前まで真っ黒な雲が空を覆っていたはずだった。しかし、その雲は二つに割れ、その間には光の筋が差し込んでいる。こういった雲の隙間から溢れる光を天使の階段と言うはずだ。あまりにも常識から外れた光の差し込み様を見て、俺は場違いにもそんなことを考えていた。その光の筋が急に強烈な閃光を発した。
(目、いってぇ!!)
みんな目を見開いてこの超常現象を見ていたのだろう。教室内は目が見えなくなってしまったこと、目が眩んでしまったことで大騒ぎになっていた。
プァァァァーーーーーー!
大騒ぎの教室の中で俺は確かに聞いた。これが最初のラッパの音だった。俺は痛む目を抑え、ゆっくり深呼吸した。しばらく目を閉じていると徐々に周囲が見えるようになってきた。見えてきた目でゆっくりと見渡すと、教室の中はすでにぐちゃぐちゃだった。机も椅子も倒れ、散乱し、教卓すら変な位置に倒れている。
(先生の姿は見当たらない。おいおい、あいつ頭から血が出てるぞ・・・。)
俺は窓に駆け寄って一気に全開にする。強烈な風が教室の中に流れ込んだ。何人かのプリントはどっかに言ってしまっただろう。だが、そんなことはどうでもよかった。俺は割れてしまった空に釘付けになっていた。空の割れ目からは次々と何かが降りてきていたからだ。 俺は目を凝らした。
こっちに来る奴がいる。もちろん人ではない。もっと体は流動的で体長も人間よりも大きそうだ。なんだ?トカゲ・・・?いや、これは、もしかして、いやもしかしなくても。
・・・ドラゴンだ。
「嘘だろ・・・」
ドラゴンの姿は正面しか見えないが、黒い、黒くて大きなドラゴンだった。羽ばたき一回ごとにドラゴンの体が大きく浮かび上がると同時に、その下にある建物が破壊されていく。
(・・・風圧で建物を壊すなんて、どんな羽ばたきだよ。スカイツリーもあっさりつぶされてるな。)
巨大なドラゴンはその体躯にふさわしい緩慢さを見せ、ゆったり学校に近づいてくる。いや、ドラゴンの羽根の動き自体はゆっくりなのに、移動スピードは速い。するとドラゴンは口を大きく開き、その口によく分からない黒い塊を集中させる。俺はとっさに窓の下に隠れた。
その時、俺の目の前には本が現れた。その本は表紙、裏表紙が青色で染められており、それぞれ幾何学的で不可思議な模様が描かれていた。俺はゆっくり本を開く。
(なんて書いてあるんだ・・・?いや、この文字自体は読めないが、わかる。これは大量の水を一気に噴き出させる、魔法だ。そして、なんて唱えればいいのかもな。)
俺はそのよく読めないページを開くと立ち上がり、ドラゴンに手を向けた。
「喰らえ!洪水!」
すると俺の足元から水が噴き出した。
「うぉぁぁぁ! 嘘だろ!?ぐはぁ!!」
俺は足元から噴出した水流に持ち上げられ天井に激突した。そして、ドラゴンのブレスが放たれた。俺は運が良かった。
洪水の魔法によって俺は天井に押し付けられていた。おかげでドラゴンのブレスの直撃を避けた。さらに、俺たちの教室は最上階である。天井に押し付けられていた俺は学校の崩壊に巻き込まれることなく、クジラの噴水のように吹き飛ばされた。
そこからは地獄だった。俺と一緒に吹き飛ばされた校舎の瓦礫から這い出して見た光景は忘れないだろう。俺は瓦礫の山の真ん中に一人で立っていた。
人は人として生きるためにある程度、平和が必要だったのだ。しかし、その時の人間は、虫以下だった。そこらへんを這いずり回る蚊や蝿。それ以下だった。
世界は食物連鎖の頂点に立っていた人間より強いものたちを受け入れたみたいだ。ドラゴン、エルフ、オーク、ヴァンパイア・・・そのほか、空想上の存在とされてきた生き物たち。人間は瞬く間に狩り尽くされた。俺は必死で逃げた。東京はもはや、どこに行っても血の匂いがする森になった。
世界が受け入れたのは生き物だけではなかった。これまで普通だった景色は全て一変した。コンクリートで固められたビル群、大きなサッカースタジアム、張り巡らされた高速道路。すでに、あの頃の名残をここで見つけることはできないだろう。それらは全て巨大な木、生き物を喰らう動く岩石でできた山、地上に浮かぶ雲の川など、人工的でないものに変化した。
ここ新宿ですら例外ではない。高層ビルはすでに巨大な木に置き換わっている。ビルがひしめき合うように、木々がひしめき合っている。新宿は巨大な森になっていた。いや、新宿だけが森化したのかどうかは分からない。俺はまだ、全てをみたわけじゃない。もしかしたら日本全国がそのように変わってしまったのかもしれない。
「・・・また、俺は一人になっちまったな。この気持ちは誰にぶつけたらいい?・・・誰かがこの状況を望んで作り出したはずだ」
俺は決意を固めた。
「首謀者を見つけて殺す。思い通りになんかさせない。計画が失敗した所をしっかり確認させてから殺す!」
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