番外編#02 ギルド〈暗黒覇王丸〉と〈剣速の姫侍〉の邂逅【改訂版】
コロッセオ様のご要望により、内容を改訂しました。
その際、作品内に宇礼儀いこあ様のキャラの《ジン》の名前とギルド《カトレヤ》の名前を使用しています。
宇礼儀いこあ様、キャラ名並びにギルド名の使用許可をくださり、誠にありがとうございます。
◇
──“竜達の狂暴化現象”と“不和の王”の一件から、まだ数日しか経っていない頃……
復興真っ只中の〈竜の都〉の街中を…所々壊れたり、少し欠けたりしている建物の痛々しい姿が目立つ〈幻竜神殿〉への道のりを黒色の着物姿の女性〈武士〉─夜櫻が、のんびりと歩いていた。
──彼女は〈大災害〉以降…現実化した〈セルデシア〉の大地を、ごくたまに観光目的で歩いて回っている。
実は、今回もその目的の一環で…今回を含めた〈竜の都〉を訪れた三回とも、毎回観光する暇も無く…何等の大騒動に否応無く巻き込まれてしまい、その解決に尽力しなければならない…という状況に陥っていた為…今回の騒動が一段落し、時間にゆとりが出来た今現在…折角〈竜の都〉まではるばるやって来たのだから、『よし!観光しよう!!』…という軽いノリで〈幻竜神殿〉を目指している状況である。
「“竜達の狂暴化現象”も落ち着いた訳だし、〈不和の王〉はすぐにはシェリアちゃんを狙えないだろうし…折角〈竜の都〉に来たんだから、〈幻竜神殿〉の中をじっくりと見て回らないとねぇ~」
そう呟いている夜櫻は、心なしか…軽くスキップしながら楽しそうに歩いている。
──彼女は知らない。
彼女の目的地である〈幻竜神殿〉で…厄介な〈冒険者〉によって、恐ろしい事件に巻き込まれる事になるとは……。
◆
───二時間前
──〈竜の都〉から少し離れた場所…〈恵みの森〉の最奥にある〈妖精の輪〉が一際強い輝きを放ち、光が収まる頃には…そこには全員が軍服姿の異様な集団が、主要レイドメンバーを中心にゾロゾロと出現していた。
──ギルド〈暗黒覇王丸〉。PKKと呼ばれるギルドの一つである。ギルドとしての実力は、日本の大手戦闘系ギルドのギルマスでさえ苦戦すると噂されている程、世界サーバーでもトップクラスの実力者揃いだった。そんな彼らが北米サーバーへ出向く理由は二つしか考えられない。
一つは、PKギルドの討伐。もう一つは、〈幻想級〉以上のレアアイテムの獲得である。
一足先に、数人の側近達と共に北米の地へと足を踏み入れた…三白眼で浅黒い肌をした軍人の男─〈暗黒覇王丸〉のギルマスが歩み寄ってきた。男の名は、覇王丸。その名はギルドの名を象徴するかの様に、常に威厳に満ちた態度を保ちながら、軍人集団を出迎えた。
側近が用意した椅子に腰掛けると、彼はニヤリと笑みを浮かべながら、堅苦しく整列した部下に向けて声を掛けた。
「皆の者、よく来たな。
わざわざ、日本中の支部から集まってもらって感謝する。今回は、此処から然程離れていない〈竜の都〉にある〈幻竜神殿〉に奉納されていると言われている〈四竜の宝珠〉を入手するミッションだ。覚悟は良いな?」
覇王丸の言葉に、一同は顔を青ざめ、そしてゴクリ…と息を飲んだ。
青ざめるのも仕方が無い。それもその筈、何故ならば…この覇王丸は国宝級の代物を強奪しようと計略をしているのだ。
【四竜の宝珠】
『〈竜の都〉を防衛する大規模戦闘《邪黒竜襲来》で登場し、〈幻竜神殿〉の竜巫女レティシアがレイドボス〈邪黒竜〉の攻撃から〈竜の都〉を守る為に使用する特殊アイテム。
四方に配置(※配置位置には特に決まりは無い)する事により、街一つを囲う程の大規模で強力な守護結界魔法陣─古アルヴ族の秘術の一つ─であり、竜のブレスすらも防ぎきる程の強固な結界を張れる代物。
プレイヤーの間では、入手出来ない幻の激レアアイテム…とも呼ばれている。
[説明文]
〈竜の都〉と〈竜の渓谷〉…〈大地人〉と竜が共に歩む事を誓い合った誓約の証として竜達より渡された秘術の込められし四つの宝珠。
誓約が違えられない限りは、この宝珠が街と人々の生命を守り続けるだろう。』
──かつて…ゲーム時代、この宝珠を〈冒険者〉が入手する事は絶対に不可能だった。
だが…〈大災害〉以降、ゲーム時代には入手不可能だったアイテムが入手可能となっている事が確認され、このアイテムも例外では無かった。
彼ら…ギルド〈暗黒覇王丸〉は、そういったゲーム時代では入手不可能だったレアアイテムを入手する為に…〈大災害〉以降、積極的に活動しているギルドの一つなのだ。
覇王丸の言葉を聞いているギルド〈暗黒覇王丸〉のメンバーは、誰一人反対する事は無く…彼から告げられた行動方針に全員が賛同している。それ程までに、覇王丸の存在が恐ろしく…そして、神々しい存在でもあるのだ。
「では、皆の者…行くぞ」
「「「「「了解!」」」」」
覇王丸のその一言を号令に…ギルド〈暗黒覇王丸〉全員が一斉に〈幻竜神殿〉へ向けて動き始めた。
道行く〈大地人〉達は、彼等の存在に恐怖を感じ取ったのか、自らの危機を察したのか…怯えながらも直ぐ様、道を開けていく。
◇
──予定通り、〈竜の都〉内を通らずに〈幻竜神殿〉へと辿り着ける…〈竜の渓谷〉経由の移動進路を選択した。
〈竜の渓谷〉を通過する際、彼等は一切慢心せず…油断無く、周辺警戒を決して怠らずに順調に進行していく。
険しく遠回りの道程を慎重に歩みを進める事、しばらくして…彼等は、目的地である〈幻竜神殿〉の前へと到着する。
最大の目的である〈四竜の宝珠〉が納められている〈宝物の間〉に向かおうと…彼等が〈幻竜神殿〉へと足を踏み入れようとした時、すれ違いに出てきた〈冒険者〉の一団─〈西天使の都〉から来た〈竜の渓谷〉攻略部隊─の一人と肩が軽くぶつかる。
「……おい。今、肩がぶつかったぞ」
「ん?ああ、すまないな。わざとじゃなかったんだが」
肩がぶつかった事に対して、〈暗黒覇王丸〉のメンバーの一人が謝罪を述べるが…その〈冒険者〉はギロリと睨まれてしまった。
「おい、此奴ら……」
「あぁ、間違いない……」
ボソボソと呟く…彼等の不可解な言動を不信に思ったのか、ぶつかったメンバーの隣にいた〈冒険者〉が「何だ貴様等、わざわざ此方から謝罪を申したと言うのに…!」と怒鳴りつける様に言っている。
「すまない、何せ我々〈西天使の都〉は貴方達の噂を耳にしていてね……。どうも最近、北米サーバーで暴れまくるPKギルドの情報が相次いでいてね…最近になって、〈大地人〉の大量殺害事件が増えてきたんだよ」
「……もしかして、我々の事を申しているつもりか?」
「いやいや、もしかしてよぉ。アンタ等がその犯人じゃないかと疑っている奴らも多いんだぜ。〈暗黒覇王丸〉さん?」
〈暗黒覇王丸〉のメンバー達は「聞き覚えが無いな」「そもそも、そんな事件さえ知らん」などと素知らぬ様な声を出す。その無関心な態度にイラついたのか、〈西天使の都〉側の〈冒険者〉が怒鳴り声で唸る。
「ふざけるな!!どうせ、お前達の仕業に決まっているだろう!!」
「そうだ!このような残虐行為は、今いるお前以外に誰がいる!!」
「聞けば、日本サーバーではPKギルド狩りをしているらしいが…それは、自分達の獲物が無くなるのが惜しかったではないのか!?
しかも最近では、この北米サーバーにまで手を……」
どうやら、彼等は〈暗黒覇王丸〉の一団に対して因縁を吹っ掛けるきっかけを求めていたらしく…それに、この北米の地にPKギルドが足を踏み入れる事さえ気に食わないと難癖をつけにきたらしい。
「申し訳ないが、〈暗黒覇王丸〉は急ぎの用で此処に参ったのだ。貴殿等の相手をしている暇は無い」
覇王丸の言葉に従い、〈暗黒覇王丸〉のメンバー達は次々と〈西天使の都〉の〈冒険者〉達を無視して進み出す。
だが、そこへ割って入ったのが〈西天使の都〉側のリーダーらしき青年だった。
「おっと、そうはさせないぞ。お前達がこの地にやって来たのは、〈四竜の宝珠〉が目的なのだろう?アレは、〈竜の都〉の護りの要でもあるのだ!絶対に貴様等の手に渡すものか!!」
〈四竜の宝珠〉は、〈ウェンの大地〉の国宝級の存在でもある。現実でいえば、世界文化遺産の様なものだろう。
つまり、〈四竜の宝珠〉に手を出す事は最悪の場合、北米サーバー中の〈冒険者〉全員を敵に回す事になる。彼等は、〈幻竜神殿〉を荒らそうとしている無礼者達に警告しているつもりらしい。
だが、それは…理不尽な事に、〈西天使の都〉の建前に過ぎない。〈西天使の都〉の真の目的は〈四竜の宝珠〉を守り抜く事では無く…〈四竜の宝珠〉に近付く邪魔者を消し、いずれは〈竜の都〉を乗っ取り、国全体を支配下に入れた暁には、〈幻竜神殿〉ごと〈四竜の宝珠〉を手に入れる腹積もりだ。
〈竜の渓谷〉の攻略など、ただの表向きに過ぎない。
(国宝を守る気も無い奴らが、何を言って…)
(よせよ、ジョトレ。感付かれるぞ…!)
勿論、全員では無いし…中には、シーザーやジョトレの様に真面目に〈四竜の宝珠〉の防衛に務めている者もいる。
当然、〈暗黒覇王丸〉は〈西天使の都〉の黒い噂についての情報は各支部に知れ渡っている。元より、討伐対象にもなっているギルドであるが…今の覇王丸や〈暗黒覇王丸〉の面々にとって、今の〈西天使の都〉はどうでもいい存在であった。
(将軍、どうしますか?)
〈暗黒覇王丸〉に対しての因縁を吹っ掛けられた張本人のギルメンからの問い掛けに、最初は相手にするまいと考えていた。
だが、幻の激レアアイテムの入手を妨げる存在とあっては話は別だ。予定が過ぎれば、次のPKギルド討伐予定時間までに間に合わない。覇王丸は冷酷にして非情な命令を下す。
(緊急事態により計画変更を命ず。我々の目的の邪魔をする者は、全力で排除しろ)
(し、しかし…彼等はこの〈ウェンの地〉では有名な…)
(構わん。どんな手段を使ってでも、八つ裂きにしろ)
(……了解)
──相変わらず恐ろしいお方だ。
副官はそう心で呟きながらも、将軍である覇王丸の下した命令に従い…ギルド〈暗黒覇王丸〉が〈西天使の都〉の〈冒険者〉達へと牙を向いた。
「命令!至急〈西天使の都〉の討伐準備に入れ!繰り返す、至急〈西天使の都〉の討伐準備に入れ!」
「了解!」
覇王丸の命令に従った〈暗黒覇王丸〉は、もう止める事は出来ない。〈西天使の都〉側も、それを察知したのか…一斉に臨戦態勢を取る。
「陛下命令により、侮辱罪及び業務妨害罪の罪で貴様等を処分する。全ては〈暗黒覇王丸〉の為に」
「殺ってみやがれ!!」
「ぶっ殺してやる!!」
◇
~30分後~
──そこから先は、一方的な殺戮劇が繰り広げられる事となった。
「ギャアアアアアアーーーーッ!!」
「ぐふおぁ……っ!!」
「ひぃぃぃっ!!」
それは…〈西天使の都〉の〈冒険者〉達が、ギルド〈暗黒覇王丸〉の者達によって、圧倒的な力で一方的にPKされる…という悲惨な展開となった……。
それも、たったの五分で。
数は、〈西天使の都〉側は百を超える人数。対する〈暗黒覇王丸〉側はたったの二十四人。フルレイドvs.レギオンレイドと言ってもいい位の人数差だった。その圧倒的な戦力を相手に、簡単なレイドでも出来る人数で相手取っているのだ。
勿論、戦力なら〈暗黒覇王丸〉も十分整っている。だが、あえて二十四人だけで挑ませたのは、自分達と相手との戦闘力の差に気付いた上での相手に対する皮肉ともいえよう。
「ちなみに、お前達を相手取っているのは全員が一等兵・二等兵レベルの〈冒険者〉だ。お前達のクラスだと、我々が出なくても良さそうだな。まさか、一方的にそちらが壊滅してくれるとはな……」
その言葉には、あまりにも弱い相手に対する呆れと嘲りが含まれていたのだった……。
◇◆
──〈幻竜神殿〉のある北側地区へとやって来た夜櫻は…神殿に近くにつれ、不穏な空気が漂っている事に気が付く。
「ん?何だかキナ臭いね…。また、〈西天使の都〉からやって来た〈冒険者〉が何か問題事を起こしたんだろうね……」
そう結論付けた夜櫻は、騒動を鎮圧する為に〈幻竜神殿〉に向けて駆け出していった。
──だが、そんな使命感を胸に抱いた夜櫻の気持ちは…〈幻竜神殿〉の入り口前に辿り着く頃には、消え去る事となった。
「だ、誰か!誰か助けてくれェーーーーっ!!」
そこに辿り着くと、謎の軍服集団が〈冒険者〉達を一方的に殺戮している…という悲惨な状況に遭遇する事となった。夜櫻は思わず青ざめる。
あまりにも無情過ぎる軍服集団達による、残酷過ぎるPK行動だった。
それも顔色一つ変えず、まるで生命の無い人形を破壊するかの様に……
──〈西天使の都〉の〈冒険者〉は決して弱い訳では無い。
〈竜の渓谷〉に挑戦する以上、〈西天使の都〉の中でもかなりの実力を有している者達で大隊を編成してから送り出した筈。
そんな〈西天使の都〉からやって来た実力者揃いの大隊人数である筈の〈冒険者〉達が、これ程一方的に少人数の軍服集団にやられるとは思わなかったのだ。
「な、何なの…この状況は……?」
素早くステータスの確認すると…殺戮している軍服集団は〈暗黒覇王丸〉のギルドタグ持ちで、殺戮されている〈冒険者〉達は〈西天使の都〉出身の〈冒険者〉である事が判明する。
ギルド〈暗黒覇王丸〉については、〈大災害〉以降…情報収集に重点をおいていた妹の朝霧のおかげで大体の情報を持っている。
彼等がPKギルド狩りと激レアアイテム入手を目的に積極的に活動するギルドである事も知っていたし、彼等の目的を阻む者は誰であろうと無慈悲に排除するという冷酷無比なギルドでもある事も知っていた。
「あんな厄介なギルドに絡まれるなんて大変だねぇ~。……まあ多分、〈西天使の都〉側が彼等に何か因縁を吹っ掛けたんだろうから、一応は自業自得って事だよね。因果応報って事で……」
──だから、〈暗黒覇王丸〉が此処にいる理由も、〈西天使の都〉の〈冒険者〉達が襲撃されている理由も、何となく理解出来ていたのが……。だが、此方にも都合というものがある。夜櫻は、この悲惨な現場から一度は立ち去ろうとも考えていたのだが……
「ん?あれは……シーザー君!ジョトレ君!!」
襲撃されている〈冒険者〉達の中に見知った二人─シーザーとジョトレ─の姿を見つけ、その二人に対して凶刃が振り下ろされようとした時、気が付くと夜櫻は二人を助けようと咄嗟に身体が動き出していた。
口伝〈残影舞踏乱舞〉でシーザーとジョトレの二人と〈暗黒覇王丸〉の者達との間へ瞬時に移動すると…〈武士〉の特技の一つで、武器の強制解除を行う〈柄頭突き〉で腰の両側に提げていた鞘から素早く打ち出した刀の柄頭で目の前の軍服姿の二人の武器を弾き飛ばす。
「ちょ~っと、待ってくれないかな?何処ぞの軍隊さん達!」
「な、何だ貴様は!?」
「いやいや、大した者じゃないよ?」
「よ、夜櫻さん!?」
「どうして此処に!?」
「お久しぶり!でも、今は話はいいから。まずは、一旦此処から離れるよ!」
──突如、現れた“夜櫻”という第三者の存在により…事態は、膠着状態となった……。
◇◆
──陛下命令に従って行動していた〈暗黒覇王丸〉のメンバー達は…突如、乱入してきた女〈武士〉の『一瞬で距離を詰め、一瞬で距離を離す』という不可解な能力が全く理解出来なくて、彼女の動きに強く警戒し、距離を取ったままの状態を維持し続ける事しか出来ない。
現在、〈西天使の都〉側で生き残っているのはシーザーとジョトレの二人を合わせた数名のみ。それも、二人を除いた残り全員が瀕死状態のまま。唯一重傷では無いが…酷い怪我を負っているシーザーとジョトレの二人は、ある程度距離は離れているが〈暗黒覇王丸〉を前にしてビクビクと震えている。
「貴様、何者だ!!」
「ただの通りすがりなんだけどさ…とりあえず、アタシの友人を傷付けようとするのは止めてくれないかな?」
一部の兵士達は夜櫻の言葉にたじろぎ、刀を構えるが、その兵達を鎮める様に、一人の副官が夜櫻の前に迫った。夜櫻は警戒しながら後ろに下がる。
「部外者が何の用だ?」
「アタシは一応、部外者じゃないよ。知り合いがたまたま此処にいただけ、それが?」
「失礼するが、あまり邪魔はしないでもらおうか。其処にいる者は我々の排除対象だ。勝手な真似をしないで欲しい」
「例え、どんな善人であっても?悪い連中が自業自得で制裁を受けるのは別にいいんだけど…この子達や正義感・使命感で頑張って〈四竜の宝珠〉を守ろうとしただけの人達まで殺さなくてもいいんじゃない?」
「……連帯責任だ。此奴らも先程、我々が処分した者共の仲間に過ぎない。始末するべき存在だ。それに、名も知らぬ〈冒険者〉など、どうせ纏めて殺すのだから知らぬわ」
「……ッ!シーザー君とジョトレ君は違う!! それに、ロクな説明もせずに全員を纏めて悪人だと決めつけるのは間違っている!」
冷酷な言葉を投げかける副官の言葉を、反発する様に夜櫻はタンカを切った。
夜櫻は夜櫻で…〈暗黒覇王丸〉のメンバーに刀を向けた状態のまま、シーザーとジョトレに「大丈夫?」とか「怪我は無い?」と声を掛けている。しかし、構えや佇まいには一切の隙は無く、切り込めば此方が反撃を受けるだろう…というのを思わせる様な雰囲気を纏っている。
「任せて!コイツら全員、アタシが……」
──完全に膠着状態となった現状で、重苦しい緊迫した空気が漂う中…一人の男の発言が、場の空気が一辺する事となった。
「下がれ、お前達」
──〈暗黒覇王丸〉のギルドマスター、覇王丸だ。
「陛下?」
「っ!!?で、ですが陛下、この女は此奴等の……」
「いいから下がれと言っている、この場は我に任せろ」
覇王丸の目は、まるで何かに興味を示したかの様に夜櫻の方を向いている。その事に気が付いた〈暗黒覇王丸〉の副官は目の色を変え、急ぎ「全員、道を開けろ!!」と大声を上げて指示を飛ばす。
「「「了解!!」」」
徐々に部下達が退いていく姿を見て、やれやれといった表情を見せていた覇王丸だったが…シーザーとジョトレを背後で守る様に立つ女〈武士〉─夜櫻の前まで立つと……
「……貴様、前に我が幹部達と共に視察に訪れていた際に、狂暴化された小型竜を殲滅させていたな……それに」
と呟いたが、一旦そこで言葉を区切る。それに対し、夜櫻は…たとえどの様な状況になっても、すぐさま対応出来る様に覇王丸の一挙一動に対して強く警戒している。だが、彼はそんな様子に臆する事無く、夜櫻に対してこう呟いた。
「……なるほど、先程の動き…お前の口伝によるものだな」
覇王丸の問い掛けに対して、夜櫻は無言の答えを返す。しかも、そのまま素早く抜刀すると、覇王丸に向けて刃を振り抜く。
「ハアッ!!」
──キィーーーーン!!
刃と刃が重なり合い、お互いの攻防がしばらく続く。互いに冷静だった。
「ほほう、我に対する質問の答えがそれか」
──当然だ。〈不和の王トルウァトゥス〉の一件で、戦友となったシーザーとジョトレを傷付けた。そんな奴と口で語る事は無い。コイツは敵だ。
……そう夜櫻は心の底から怒っていた。
覇王丸も、夜櫻の激しく怒る様子を見て、素直に答えてくれるとは期待していなかった様だ。そのまま、夜櫻の攻撃に抵抗しながらつつも話を続ける。
「……面白い。今まで歯応えのある相手と、なかなか巡り会えなかったからな。ここは俺とひと勝負をしないか?」
「……それを了承する事で、アタシに一体何の益があるの?他の人は別にいいんだけど…シーザー君達を傷付けた事、アタシは許せないんだけど」
「まあ、話を聞け。先程の貴殿の友人達に対する無礼は謝っておこう」
「陛下!」
苛立った様子の夜櫻のその言葉に、不敵な笑みを浮かべながら覇王丸が答える。
「そちらが勝ったら、此方は無条件で一つだけどんな内容だろうと要求を飲もう」
「そっちが勝ったら?」
「その腰に提げている刀…激レア武器の〈神刀・迦具土〉だろう?それを戴こうか。〈幻想級〉の武器は滅多に手に入らないからな」
「な!それは夜櫻さんにとって大切な……!」
覇王丸が提示してきた条件を聞いて…〈迦具土〉である事に激昂するシーザーと、心配そうに夜櫻を見るジョトレに、「大丈夫、アタシは負けないからね」と二人に優しい笑顔を見せると…夜櫻は表情を引き締める。
「いいよ。その代わり…そっちの要求条件の刀に、さらに二つの激レアアイテムを上乗せする事で…アタシの要求する条件を“必ず厳守する”と約束してもらえるなら飲むよ」
「夜櫻さん!!」
「駄目だ!そんなの無茶過ぎる!!」
「で?肝心の要求と上乗せ分は?」
覇王丸から促され、夜櫻は〈ダザネッグの魔法の鞄〉から二つのアイテムを出す。
「まずは上乗せ分。
激レアドロップ〈古代竜の光鱗〉で造られた〈聖剣・星竜剣〉と、現在はクエスト自体が無くなったので入手が不可能になった〈緋竜妃の印章〉。アタシが持っている分だけしかないから、〈神刀・迦具土〉と同じだけの価値はあると思うけどね」
確認すると、覇王丸は納得する形で受け取った。
「成程。確かに上乗せ分としては十分に見合った価値はあるな。これはオマケ程度で貰っておこう」
一応は価値があると判断したのかどうかは知らないが、覇王丸が提示した上乗せ分のアイテムの価値に納得したので、夜櫻はそのまま話を続ける。
「アタシが勝った場合の要求は…『〈竜の都〉より即刻立ち去り、二度と〈四竜の宝珠〉には手を出さない』
……これがアタシが一騎打ちを受ける条件だよ」
──夜櫻自身、この〈竜の都〉には深い思い入れがある。当然、かつて大規模戦闘でお世話になった〈四竜の宝珠〉に対しても思い入れがあるのだ。
夜櫻にとって…〈ウェンの大地〉は〈大災害〉前も、後も、沢山の大切な思い出が詰まった…第二の故郷と思える位に大好きな場所なのである。
そして…この地に生きる人達の希望の光であり、国宝とも言える〈四竜の宝珠〉を奪い取ろうとしている輩に敵意を向けない訳が無い。だからこそ、長年共に歩んできた相棒であり、自身の半身とも言える存在でもある愛刀〈神刀・迦具土〉を犠牲にする事になっても…必ず〈四竜の宝珠〉を守り抜く。それが、夜櫻が胸に抱く〈竜の都〉への強い思いなのだ。
それに何より…戦友達を酷い目に遭わせた奴は、絶対に許さない。
夜櫻の目には、深い怒りが宿っていた。
夜櫻の提示した要求条件を聞いて…〈暗黒覇王丸〉のメンバーは「不遜な態度だ」とか「陛下に対して不敬過ぎるぞ!」という苛立ちの声が上がっているが、覇王丸は愉快そうに笑みを浮かべる。
夜櫻は〈四竜の宝珠〉を自分達に諦めさせる為に、わざわざ一騎打ちを受ける条件として提示してきた。
しかも、自分に勝つつもりらしい。
(夜櫻、面白いヤツだ。自分の実力に余程の自信があるのか……それとも、実力を過信しているのか……まあ、刃を交えてみれば分かる事だ)
そう思考し終えた覇王丸は、自分の得物を抜いてから構える。
それに合わせるかの様に、夜櫻も自身の得物を抜いて構える。
さらに、夜櫻は特技〈朱雀の構え〉と口伝〈神眼〉に〈疾風怒濤〉を連続で発動させる。
一方の覇王丸も、口伝〈武者の心得〉を発動させる。
「アンタも、口伝使いなんだね……」
「手加減はせん。本気で来い!」
──不敵な笑みを零す覇王丸。
──何を企んでるのとかと訝る夜櫻。
──しばしの沈黙の後…まるで戦闘開始の合図をするかの様に、〈竜の都〉中央に立つ時計塔の時計の針が十八時を差し、それを知らせる為の鐘の音が大きく鳴り響いた。その合図と共に、一瞬の間に二人は刃を交えた。
──ゴーン!ゴーン!ゴーン!
「行くよ!!!」
「来い!!!」
◇◆
── キィンキィン!カキィーーンッ!
──激しい雨のように鋼の音色が鳴り響く。
周囲の音はかき消され、ただ只管に刀の打ち合う音だけが響き渡る。
〈暗黒覇王丸〉の幹部達は冷静に見守っている。後ろにいるシーザーとジョトレは怪我人の手当てをしていた。
「くっ!しぶといな!!」
「どうした、随分と押され気味の様だが?」
「……まだまだ!」
夜櫻は、覇王丸の攻撃の軌道を読んで紙一重でかわしたり、刀で上手く力を逃がして受け流したりして…全く攻撃を当てさせない。
「フッ。甘い!!」
「っ!!?」
だが、覇王丸も負けてはいない。確かに、今の実力は五分五分で拮抗している様に見える。しかし、現状では覇王丸の方が有利なのである。何故なら……
「ふむ、中々やるな」
「ふんっ、こんな所で負ける訳には行かないからね!」
「……成程。さっきから防戦一方だと思ってはいたが、後ろにいる仲間達を庇っていたのか……」
覇王丸の言う通り、夜櫻は不用意に動くことは出来ないのだ。
こんな狭い地形で、重傷を負っているシーザーとジョトレを、巻き添えに喰らわせる訳には行かない。
だが、覇王丸はあえてこの場所で決闘を申し込んだのだ。当然ながら、〈暗黒覇王丸〉の幹部や他の部隊も知っていたのだろう。
「軍人気取りの癖に随分と汚い真似を好むねぇ」
「どうするかは俺の勝手だ。軍の将を率いる者は、時に非情な選択も容易く行う。貴様も人の事は言えんだろう」
「まあね。だから別に、アンタがどんな手段を使うつもりかは知らないけど…彼等は、もう戦えないんだよ!!」
そう言って、夜櫻は覇王丸に向けて刃を大きく振り下ろす。だが、それを完全に読んでいた覇王丸は、ニヤリと笑みを浮かべると…太刀筋を見切って易々やすやすと避けてみせる。
「確かに、お前は強い。剣の腕前は確かなものだろう」
(今の攻撃を避けたっ!?あの男は……?)
──ガシッ!
「……うっ!!」
「だが、思いはあまりにも他者優先過ぎる!
……仲間思いの優しさ故に、貴様は甘いのだ!!」
──バシッ!
「……は、放せっ!」
「「夜櫻さん!!」」
シーザー達の言葉と同時に、覇王丸の組み付きを振り払った瞬間、既に奴の姿はおらず、気付いた時にはもう遅かった。
夜櫻が見せた一瞬の隙を突いて、覇王丸の一撃が夜櫻の持つ刀を吹き飛ばす。
「終わりだ」
「しまっ…!?」
──ザクッ……!
覇王丸の鋭い一撃が、夜櫻の胸を完全に貫く。ポタポタと、地面に血が次々と滴したたり落ちていき、ゴホッ…!と口から少量の血を吐血する。その姿を目の前で目撃してしまったシーザーとジョトレの二人も…一瞬、絶望的な顔をする。
「よ、夜櫻さんーーーーっ!!」
「そんな……夜櫻殿!」
──そう。それが、彼女の幻影で無ければの話であれば……
「何っ!?幻影だと!?」
「隙あり!」
殺されたかと思われた夜櫻……。だが、それは彼女が用意した囮だった。それは、夜櫻の口伝〈残影舞踏乱舞〉が発動した事で生み出された幻影であった。僅かだが、覇王丸も〈暗黒覇王丸〉のメンバー達も驚きを隠せない。
その一瞬の隙を突いて、夜櫻の脇差が覇王丸の脇腹へと命中する。だが……
「……惜しかったな」
「えっ!何これ!?」
確かに、手応えのある一撃が見事に決まったと確信していた夜櫻の刀による一撃は、覇王丸の身体を突き通す事は出来なかった。何故なら、刃の当たった彼の身体の一部が黒く硬化していたからだった。
「〈黒金剛石武装〉だ。これは、強化・防御型の口伝でな。俺の得意分野の一つだ」
「それはそれは…本当に厄介な口伝だね!」
(恐らく覇王丸は、先程の様にアタシの太刀筋を読んで回避したり、回避が困難な場合は口伝〈黒金剛石武装〉で攻撃が当たりそうな箇所を硬化させて防御したりと…こちらのダメージそのものを無効にしていく。〈残影舞踏乱舞〉で何とか凌いでいるけど……アタシ自身の力は覇王丸よりも劣る、これを突き破るには、特殊な口伝か、〈狂戦士〉発動状態のクラスティ以上のパワーじゃないとまず無理だ!)
そんな覇王丸の巧みな戦法に…夜櫻は苦戦を強いられたが、それは覇王丸にも言える事だった。覇王丸もまた…夜櫻の機敏な動きと、強力な口伝〈残影舞踏乱舞〉に翻弄されていたからだった。
(恐らく、夜櫻の〈残影舞踏乱舞〉の機敏さを主にしている。だが、一撃一撃の攻撃力が高くないのが弱点、俺の防御口伝は相性が良い。問題は〈残影舞踏乱舞〉の発動時の早さだ。あの口伝は恐らく俺とは相性が悪い。俺の口伝〈黒金剛石武装〉は体の一部を硬化するだけの技。発動時間も早い方だ。けれど、この口伝を突破するには、相手が隙を作れば良いのだが、相手は全く隙を見せない。俺自身も攻撃系の口伝はあるにはあるが、あれは消費量が高いし、逆に大きな隙を作ってしまう。弱点を付ける事が出来ず、隙を見せれば一気に負けてしまう、まさに諸刃の剣だ……そうすると、今の俺には奴に弱点を付ける事が無いと言う事だ……)
──三十五合ほど打ち合った後、周囲の〈冒険者〉達は黙ってこの状況を眺めていたのだが…これ程長い戦いになるとは、誰も思いもしなかっただろう。
まるで仕切り直しとばかりにお互いに距離を取り、お互いの間に少しばかりの沈黙が訪れた……。
すると突然、両者が武器を納め、覇王丸がニヤリと笑みを浮かべて見せた。そのまま、大声で笑い出す。
「フハハハハハ!!この我と互角に渡り合える者がいるとは…しかも女!貴様、気に入ったぞ!」
「ふぅ~ん、貴方も、なかなかやるね。アタシも嫌いじゃないよ、そう言う性格」
「女、名前はなんだ」
「あぁ、夜櫻。アタシの名前だよ」
「我は覇王丸だ」
──しばらく睨み合うかの様に対峙していた二人だったが…まるで親しい友人同士が語り合うかの様な気安い態度でお互いに名乗り合う。
「陛下…?」
「夜櫻さん…?」
「終わりだ。これ以上、長引くだけだ。つまらん」
「アタシも同感。相手が悪すぎる。でも、非常に面白かったよ」
覇王丸が武器を納めた事で、一騎打ち勝負に終止符が打たれた。二人の突然の行動に、周囲の〈冒険者〉達は激しく動揺する。特に、〈暗黒覇王丸〉のメンバーは目を丸くさせている。
「救護班、彼の者達に回復を取らせよ」
「…えっ、ですが…」
「我の命令に応えられぬのか…?」
「い、了解!」
覇王丸の命令で、救護班は直ちにシーザー達の手当てを開始する。腑に落ちない者も居たが、陛下の命令には逆らえない。
「…う、うぅ…!」
「みんな、目を覚ましたのか!」
「良かった、息を吹き返してくれたんだね!」
「シーザー…ジョトレ…」
どうやら、生き残った面々はシーザー達と親しい人達らしい。良かった、もしこれが折り合いの悪い連中だったら、多分嫌味を言われるのが筋合いだろう。
「ある程度は回復したようだな」
「「「「「!!? ひ、ヒィィィーーーー……ッ!!」」」」」
「落ち着け、命の恩人に対して無礼だぞ貴様ら!」
厳格な口調で話す医療班の女性幹部が諭している最中、夜櫻は覇王丸に対し「んで、やめるの?まだ、決着とかはついてないけど?」と言いつつも、同じく刀を納刀しながら問い掛ける。
「……引き分けでいい。折角巡り会えたのだ。我を楽しませる程の強敵と、今すぐ決着をつけてしまうのは勿体無いのでな」
「そっちがそれでいいなら、別に構わないけど……
この場合、一騎打ちを引き受けた時の取り決めも無効って事なのかな?」
夜櫻のその言葉に、覇王丸がニヤリと笑みを浮かべながら答える。
「本来は勝利した時の報酬だったが…我を楽しませてくれた褒美として、夜櫻殿の望みを叶えようじゃないか」
覇王丸からの申し出を聞いた夜櫻は、驚きのあまり目をパチパチさせる。
「ほう、随分と太っ腹だね。でも、いいの?それだと、君達が得られるものは何も無いんだよ?」
「フッ。お前という強敵と巡り会い、思い切り打ち合えた事…我は、心底楽しかったぞ。それだけで、我は十分満足したぞ」
そう話を終えた覇王丸は、〈暗黒覇王丸〉のメンバー達の方を向く。
「我等〈暗黒覇王丸〉は、夜櫻殿の望み通りに〈四竜の宝珠〉を諦め、〈竜の都〉を即刻立ち去る事とする」
「「「了解!!」」」
覇王丸の号令に従い、〈暗黒覇王丸〉のメンバー達が次々と〈幻竜神殿〉より立ち去り始める。
「二人共、その子達を早くギルドに連れて帰った方が良いよ。回復したとは言え、まだ傷は癒えていないみたいだからね。色んな意味で」
覇王丸は、副官達に対し「お前達は先に拠点に戻れ。俺はしばらく彼女と話がしたい」と命令を下した後、夜櫻へと声を掛ける。
「酒を飲むか、私の奢りだ」
◇◆
「いやぁ~、旨い酒だねぇ~」
「俺の知り合いが造った名酒『月光』だ」
「夜櫻殿。もし、また会う機会があれば…出来れば再戦を希望したい。その時は…お互いに全力を尽くし、お互いの命を賭けた死闘をしたいものだな」
覇王丸のその言葉に、夜櫻は笑顔で応じる。
「いいよー。アタシも、君とは良き強敵ともになれそうだと思ってたところだったんだよね~。あっ、そうだ!君の事をフレンドリストに入れておくよ!」
無邪気な姿の夜櫻の姿に、思わず微笑でしまう覇王丸。
「……フッ。やはり面白いな。〈弧状列島ヤマト〉で、お前みたいな興味がある〈冒険者〉はこれで十人目だ」
「ん?アタシ以外にも、君の興味を引く人物が他にいるんだ」
覇王丸は「ああ、そうだ」と言って、コクリと頷く。そして、自分が知っているヤマトで活躍している連中の名を次々と挙げていく。
「クラスティ、アイザック、カナミ、ウィリアム=マサチューセッツ、ソウジロウ、ジン、参謀として是非、共闘したいのが…シロエと濡羽、そしてジャリス──」
一部を除けば、ゲーム時代でも活躍した超有名なプレイヤー達だ。
夜櫻はあまり関与したことはないが、〈神殺しの青〉と称される異名を持つ『ジン』の名前も聞いている。だが、周囲の人達の話では…完全にセルデシアを舐め切っている様な性格と、傲慢な態度。常に他の人間を見下している感が満載な雰囲気なので、知人の間では頗る評価が悪い。夜櫻的には『彼』は〈冒険者〉の中でも一風変わった人物、という感じだ。もっとも、現在はドラゴン討伐ギルド〈カトレヤ〉と行動している模様だし、自分の周囲が騒がしい為に積極的に接触しようとは思わないが。
シロエと濡羽の名が出るのは意外だ。参謀に相応しい人間ならにゃあとかゲルダさんも居るのに……知名度か、若しくは性格的な問題か?
「んで、ジャリス?……聞いた事無いね。何処の〈冒険者〉?」
「いや、そいつは〈冒険者〉では無いんだ。正確には、〈大地人〉の騎士なんだが……あの騎士は顔に似合わず、殺伐とした戦い方をしていたな。前に一度、戦った事があるのだが…実は、遠征訓練の途中であってな…戦いの決着がつかずに終わってしまった。“ジャリス”は家名らしくてな、名前は名乗らんかった。……いや。あの様子だと、名乗るのを忘れただけかもしれんな」
「それは……随分と天然な人物だねぇ~。その人」
「しかし、戦ってみたのは良いのだが……あの者には、剣よりも槍の方が似合っていると思うんだがな」
と、覇王丸は「ウンウン」と腕を組みながら、顔をしかめていた。
「そんなに強いの? 〈大地人〉なのに?」
「一度は、お前も奴と戦ってみるといい。なかなか歯応えがあって、良い相手になるかもしれんぞ?」
「考えてみるよ。アタシより強かったらね……で?結局、そのジャリスって人物は何者なの?」
「あぁ、彼の上司に話を聞いたところによると、彼の実家はイースタル直属の名門騎士の家系でな。だが、その実家がとんでもない鬼畜外道の血筋だと聞くが……」
「あっ…。な、何なんか聞いた事がある様な気が……」
「ヤマトでは、幾らか耳にした事があるだろう」
──思い返してみれば…“ジャリス家”の噂は、確かにヤマトではそこら中に知れ渡っていた。何でも、“鬼神兵”の異名を持っていた筈だ。だが、それ以上に噂が立っていたのが、レイネシア姫の姉、リセルテア=ツレウアルテ=コーウェン嬢との結婚だ。
「一度は、お前も奴と戦ってみるといい。なかなか歯応えがあって、良い相手になるかもしれんぞ?」
「考えてみるよ。アタシより強かったらね」
フフン、と覇王丸が鼻を鳴らす。
「そうだ。良かったら、お前の知り合いで俺と互角に渡り合える奴が居たら、紹介して貰いたいんだが……」
覇王丸からの突然の頼み事に…夜櫻は、しばし考え込んだ。
──自分の知る中で、覇王丸と─つまりは、自分と─互角に渡り合える程の実力者となると……そう多くはいない。
一番可能性がありそうだったクラスティ、アイザック、ソウジロウの三名の名は…既に覇王丸本人の口から挙がっていたので、完全に却下の方向で確定だろう。アタシ自身もアルセントの件で、アイザックとは複雑な関係でもあるし……。
ウィリアムはアタシ的にはまだ未熟だと思う。レイド戦は兎に角、対人戦では絶対に敵わないだろう。
そうなると残りの候補は、カナミなのだが……。そもそも、彼女は二年前に海外に行くに当たって〈エルダー・テイル〉を引退している。もし、仮に再開していたとしても…彼と渡り合える程にキャラが育っているかが怪しい。あくまでも仮定の話なので、そんな居るかどうかが曖昧な人物を紹介するのもどうだろうか……。
カンザキ、ベルセルク、幸村の三名については…今の自分と互角に渡り合えていない時点で、完全にアウトだろう。櫛八玉やにゃん太班長も物凄く強いが、覇王丸に勝てる可能性は低い。
──そうやって、しばらく考え込んでいたが……夜櫻の知る限りで、覇王丸に紹介出来そうな人物に心当たりがない…という結論に達しつつあった。
「……と言ってもねぇ~。君って、アタシと互角に渡り合える程でしょ?そう他には……あっ、そうだ!カズ彦君ならどうかな?ミナミでは最強の一角らしいよ?」
──と言っても、夜櫻本人は〈大災害〉以前にしか手合わせした事が無く…今現在の彼の実力については、妹の朝霧やミナミの知り合い経由の客観的情報でしか知らないのだが。
「……却下だ。奴の事は知っている。一度、ミナミで手合わせをしといたからな。だが、実力はトップクラスだが…俺に負ける様ではどうしようもない。……何より、奴はあの陰険な女の犬だからな。あの女の下になっている様じゃ剣士として失格だ」
「そっかぁ……。結構良い線行っていると思ったんだけどなぁ……」
「すまないな」
「いやいや。君は全然悪くないからね。……うーん。君には悪いんだけれど…これ以上の心当たりは無いなぁ~。ゴメンね、全然役に立てなくて」
「いや、構わない。こうして貴殿に会えただけでも嬉しいからな」
「あっ、そうだ!すっかり忘れてたけど…さっきの勝負、引き分けなのにアタシだけ利益を得るのは流石に不公平だと思ってたんだ。
……折角だから、これをあげるよ」
そう言って、夜櫻が覇王丸に投げ寄越したのは〈聖剣・星竜剣〉だった。
「……いいのか?」
「言ったでしょ?アタシ達は引き分けたんだから、君達も何等かの利益を得ないと不公平だって。
……それに、ただの善意って訳じゃないよ。それは、さっき君と交わした再戦の『約束の証』のつもりでもあるんだからね。それと…これはオマケだよ」
夜櫻は、さらに〈緋竜妃の印章〉と〈冥界の冥鏡〉─使用すると、蘇生猶予時間を20秒程延長出来る─という…こちらも激レアアイテムである…も覇王丸へと投げ寄越した。
「これは…滅多に手に入らない激レアアイテムでは……!!」
「いいの、いいの。〈緋竜妃の印章〉については、実はもう一つ持ってるんだよね。
それに…それは、君に絶対にお似合いだと思ったんだ」
──これは嘘では無く、本当の事だ。〈水晶谷の月命草〉のタイムアタッククエストでの〈銀月命草〉入手パターンの最短クリアへの挑戦を二回程行っている。
そういう経緯もあって、〈緋竜妃の印章〉を二個入手していたのだ。
「こっちの〈冥界の冥鏡〉の方は…実は、アタシも君と戦えて結構楽しかったから、そのお礼だよ」
「そうか。では……これは私への贈り物だ」
夜櫻のその言葉を聞いて、覇王丸は〈聖剣・星竜剣〉を含めた二つの激レアアイテムを黙って受け取る。
聖剣を受け取り終えると…覇王丸は今度こそ、夜櫻に見送られながらも二度と振り返る事もなく、〈幻竜神殿〉を…〈竜の都〉を去って行こうとしたのだったが……
「あーーーーっ!!そうだ、すっかり忘れるところだった!!」
突然、夜櫻が上げた大声に…覇王丸も、周囲の〈冒険者〉達も、思わず狼狽する。
少し困惑気味な覇王丸が、夜櫻へと声を掛ける。
「何だ?一体、どうしたというのだ…?」
「君が探している条件に、ピッタリと当てはまる人物がいるかもしれないんだよ!」
「何だと…?」
夜櫻の告げた言葉に、覇王丸が反応する。
「今ね、〈ホネスティ〉ってギルドにアタシの昔馴染みがいるんだけどね……」
「ああ、崩壊寸前気味の落ちこぼれギルドか…。衰退した戦闘ギルド等には興味は無い」
「いやいや、ギルドの方じゃなくてね。そこに所属している“とある〈冒険者〉”の事なんだよ」
「あそこには、特に目ぼしい〈冒険者〉は……」
夜櫻は「チッチッチッ」と舌を鳴らしてから、ニコリと微笑みながら楽しそうに告げる。
「きっと、君とは絶対に気が合うと思うんだ~」
◇◆
《後日談》
──〈不和の典災〉の討伐戦…ある意味、トルウァトゥス討伐大隊規模戦闘から一夜が明けた翌日……。
それは、夜櫻の何気無い呟きを発端に始まった。
「覇王丸君とギルド〈暗黒覇王丸〉がいたら、討伐戦がもっと楽だっただろうなぁ~」
「それって、誰ですか?」
──夜櫻の呟きに反応した〈施療神官〉の男性─モノノフ23号が問い掛け…そこから夜櫻は、覇王丸とギルド〈暗黒覇王丸〉に纏わるエピソードを全て話す事となった。
最初の内は、興味深く話を聞いていた面々だったが…覇王丸と〈暗黒覇王丸〉が〈竜の都〉の護りの要であり、今回の討伐戦でも活躍した〈四竜の宝珠〉を狙っていた事や何度も共闘した事で親しくなっていたシーザーとジョトレの二人の命を脅かした事を知り…話し終える頃には、全員の顔には嫌悪感が顕あらわになっていた。
「いやぁ~っグロイってレベルじゃないよ、シーザー君達は傷だらけで済んだけど、他の連中は体をバラバラにされるは首を撥ねられるわ……ん?皆どうしたの?」
「……夜櫻さん、僕は……その人を…その人達を好きにはなれません」
最初に口を開いたのは、モノノフだった。
「えっ、でも最終的には和解したし、別に悪人って訳じゃ…」
「ですが、その人達は暴力的なまでにしてまでも解決しようとしたのでしょう?」
「幾ら彼らが非道な方々だからと仰っても、シーザーさん達を殺しかけた上に、夜櫻さんまで殺そうとなさるなんて……」
次に、気だるげなマダム〈召喚術師〉─菜穂美と鮮やかな桔梗色の狐の耳尻尾が生えた女性〈武士〉─桔梗が口を開くが、夜櫻は必死にフォローする。
「でも、あんな奴らだもん。話し合いが無理なら力付くで解決するしかなかったし、〈暗黒覇王丸〉の気持ちは分かるよ」
「それもそうですけど……」
「第一、その方は…〈四竜の宝珠〉が〈竜の都〉に住む方々や〈ウェンの大地〉に居る〈冒険者〉の方々にとって、どれ程大切な物なのか…存じた上で奪うつもりでしたよね?」
「た、確かに……そうだけどさぁ」
「人々の希望を奪おうと考えていたなんて…〈不和の典災〉と同じ位…いえ、それよりも質たちが悪いです。もし、仮に討伐戦の時に居たとしても…共闘などゴメンですね」
最後は、コバルトグリーン色のロシアンブルー種風で聖堂騎士テンプルナイトの鎧を身に付けた女性〈施療神官〉─常葉が口を開くが…誰もがあからさまな不快感を示した発言をしている。
皆のその様子に、夜櫻は思わず苦笑いを浮かべる。余りにも現実的な発言だが、実際にドン引きするレベルだ。現場を目撃した自分自身でさえ〈暗黒覇王丸〉の方が悪者に見えそうだった。そりゃ周囲から煙たがれる筈だ。
──おそらく…此処に当事者だったシーザーやジョトレがいても、皆と同じ反応をしているだろう。
通常のプレイヤーは、彼等を好意的に受け止める事は出来ないだろう。
夜櫻は運営やPK狩り専門のPKKに協力したり、自分も自主的にPK狩りをやっていたり…と、そういうものに度々関わっていた事もあり、そこの辺りについては割と寛容だ。
それに、愛しの旦那様であるシーク=エンスもPK狩り専門のプレイヤーであり、PK狩り専門のギルドと共闘する事も何度かあったとも聞いている。
それに、妹の朝霧も…〈大災害〉以降のこの世界で発生した個人またはギルド単位でのPKへの対策として〈暗黒覇王丸〉の様にPKを専門に狩る存在を容認してきたと聞いている。
だからこそ、〈暗黒覇王丸〉の様な、敵・味方問わず容赦なくといった存在は異端視されるのも仕方がないだろう。
もし…彼や妹が此処に居れば、夜櫻と同じ様に苦笑いを浮かべていただろう。
──プレースタイルは、人それぞれ。『十人十色』『千差万別』という言葉通り、自分の考え方を相手に無理矢理押し付けてはいけない…と、夜櫻は考えているのだ。
「まあまあ。考え方は人それぞれなんだし、彼等はあーゆう人達なんだよ」
嫌悪感をあからさまにしている皆に対して、夜櫻は諭す様な言葉を掛ける。
「しかし……」
「「ですが……」」
「彼等の在り方を肯定する気は、私達には全くありませんよ」
……残念ながら夜櫻の諭す言葉は、彼女達の心には全く響かなかったらしい。
皆のその様子に、夜櫻は「やれやれ。取り付く島も無し…か」と呟いて苦笑いを浮かべながら肩をすくめていた。
「……何の話ですか?」
蒼い髪に蒼い瞳で、蒼い巫女服に身に纏った〈竜巫女見習い〉の女性─シェリアが、問い掛けてくる。
「少し、夜櫻さんのちょっとした体験話を聞かせてもらっていたんだ」
シェリアの問い掛けに、モノノフが簡潔に答える。
「そうなんですか。夜櫻さんのお話は大変興味がありますが、でも…私は、モノノフさんのお話も聞いてみたいです」
「えっ!?……も、勿論構わないよ!!」
「本当ですか!……嬉しいです」
シェリアの言葉に、モノノフが傍目から見ても分かりやすい程の嬉しそうな反応をする。
モノノフの嬉しそうな返事を聞いて、シェリアは花が綻ぶ様な可愛らしい笑みを見せる。
そんな…お互いへの仄かな恋心が見え隠れする甘々な雰囲気を醸し出す二人の様子を…夜櫻、桔梗、常葉は微笑ましく眺めている。
──だが、約一名は違っていた。
彼女は、二人のとても親しげな様子を見ていて驚愕している。
実は、モノノフに対して密かな恋愛感情(※モノノフ本人は知らない)を抱いていたのだが…自分の知らぬ所で、二人の間で恋心を育んでいたという事実に、菜穂美には目に見えてショックを受けている。
紅茶がパリンと割れる音がした。振り向くと、わなわなと震える菜穂美の姿があった。
「おっ、オフタリハ一体、ド、どういったご関係で…っ!?」
余りにも衝撃的な事情に、口調がカタコトになっている菜穂美に、「あぁ…そういう事か」とニヤニヤする夜櫻と、「し、しまった、菜穂美さんに伝えるの忘れてました!」と慌てる桔梗と常葉の二人。
「何って、アタシが知り合っていてから二人はずっとラブラブな感じだったよぉ~?」
「夜櫻さん!!」
「そそそそそそれでは、おふふふふたりはしししししんみつつつつな関係でいらして!?」
動揺を全く隠せずにいて、明らかに狼狽うろたえている様子の菜穂美の言葉に対して、夜櫻がアッサリと肯定の言葉を述べる。
「うん。そうだよ」
「フゥー……」
──ドサッ!
夜櫻からの肯定の言葉がトドメとなり、菜穂美はそのまま卒倒そっとうした。
「「菜穂美さん!?」」
いきなり倒れてしまった菜穂美の事をモノノフとシェリアが本気で心配している。
──モノノフ達のその様子を…夜櫻達三人は、苦笑いを浮かべながら眺めていたのだった……。
──その後、夜櫻と覇王丸が約束の再戦を果たせたのかどうかは……神のみぞ知る事…である。だが、後に覇王丸は夜櫻以上に面白い奴と出会う事になる。
「彼の異名は“白神”。アカウント名は覇王丸くんなら知っているよね? ゲーム時代に暴れ回った伝説のPKK……」
「……伝説のPKKだと?」
その言葉に反応する覇王丸。何故ならば、〈大災害〉前のゲーム時代、PK狩りを流行らせた一因となったプレイヤーの異名であったのだから……。
「そうだね。今は引退して、ゲーム時代とは別のアカウントに成っちゃったけど…彼は相当の強者だよ?」
「……して、名は何と申す?」
「うーん。まだ、名前は教えられないかなぁ~。彼、昔の事をあんまり引っ張り出したくないらしいし。アタシもあの頃の彼って、あまり好きじゃなかったんだよねぇ~。でも、会って戦ってみたら絶対に分かると思うよ?覇王丸君にとって、大した相手じゃなかったら本当にゴメンねぇ~。でも……」
──そこで、一旦言葉を区切ってから…夜櫻は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながらボソリと告げる。
──「彼を本気にさせたらヤバイよ?あの〈図書館の番人〉さんはね?」
◆
ゲーム時代のPKの存在は〈大災害〉以前にも存在が確認されていた。当然、悪評は当時も変わらず、〈冒険者〉達を苦しめて来た。だが、これでも〈大災害〉後と比べる程の勢いではなかった。元々〈エルダー・テイル〉でのPK行動の禁制が緩かったのが原因だ。これが〈エルダー・テイル〉が、一部でクソゲー呼ばわりされてアンチを生んだ原因にもなるのも知らずに……。
当然、運営が許すはずも無く、数々のPK活動に悩まされていた。そんな中、ある〈冒険者〉の存在が浮き立った。その〈冒険者〉は、どう言う訳かPKKを好んでいるらしく、ヤマトサーバー中から忌み嫌われてきた存在だったが。
── アキバ文書館
「ヘックション!!」
「どうしました、シゲルさん?」
〈ホネスティ〉の副官シゲルは、〈ロデリック商会〉の副官コーデックスからの依頼で、〈ロデリック商会〉の付属図書館である、文書館の書物整理をしていた。〈ホネスティ〉メンバー、フェラク=グンドゥと書物庫の整理をしている途中だった。
「くしゃみだよくしゃみ……いや、誰かが噂でもしてるんじゃねぇか?」
「〈妖精の輪〉の調査がお陀仏になっちゃいましたからね、もう三月だって言うのに……」
「……ヘックション!!」
「……どうやら、悪い噂みたいですね。二回くしゃみをするのは、誰かが悪口を言っている証…と聞いた事があります」
「いや、俺の感が正しければ…一回目と二回目は別人だ。そして…二回目は多分、カラシンに違いない」
「そんなまさか。…でも、今の〈ホネスティ〉と生産系ギルドの面々は折り合いが悪いし、険悪な関係ですからね……」
「それもこれもアインスの野郎が幾度となくカラシンやミチタカの野郎にちょっかい吹っ掛けるからさぁ。そんでもって、マリエール泣かしてアイザック怒らして……最後はシロエに諭されるのがオチさ。くそっ、カラシンめ…!ゲーム時代の事をまだ引きずっているのか!」
「……えっ?カラシンさんと、ゲーム時代にお会いした事があるんですか? カラシンさん、何も言っていませんでしたよ?」
「ゲーム時代の頃の知り合いなんだよ、〈円卓会議〉ではあまり顔合わせしていないがな」
「ですが、二人があまり話した所が見たことありませんけど……」
「まあ、あの頃はちょっと……揉め事があってな。いや、ちょっと処じゃねぇか」
「何ですか? 教えて下さいよ」
「知らん。固くなった頭を使いながら自分で考えろ」
シゲルは皮肉口を叩きながら、また本の整理の作業に戻った。だが、カラシン自体にある程度は思い詰めているのも事実だ。本棚の方を見ながら、頭の中で呟いた。
(「一度、ぶっ殺した事があるんだ…」なんて、言える訳がねぇよな……)
PK以上に恐れられるPKKプレイヤーの存在。それはまだ、一般の〈冒険者〉の中に紛れ込まれているかも知れない……