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BOOK MARKER  作者: 姫城 クラン
序章 『現在の彼女と過去の彼女』
3/12

序章・3 『現在《いま》の彼女は愛を囁きたい』

2017/3/7 修正。台詞の前後を一行空けました

 ――携帯電話の着信音が鳴り響いた。丁度歯磨きを終えて、再び日記を読み返そうとしたタイミングだった。

 軽快だが簡素な、初めからプリインストールされている初期設定の着信音だ。拘りなどなく、面倒でずっとそれに設定していた。

 私は電話を手に取った。液晶画面に表示されていたのは、『彼』の名前だった。

 来るかもしれないとは思っていた。しかし、期待し過ぎないようにしていた。今、その声を聞いてしまうのは複雑な感情だから。

 日記帳をデスクに置き、少しだけ間を置いてから、電話の通話ボタンをプッシュする。通話はすぐに繋がった。


「……こんばんは」

『こんばんは、玲亜れいあ


 会話の始まりは、ごくごく一般的で自然な挨拶から。


「ふふ。どうかした?」


 私は電話口の相手に問うが、用件は半分程度は察している。


『いや、声が聞きたかっただけだ』

「嘘。あなたはそんな弱々しいこと言わないし、優しい人だって知ってる。だから、本当は」

『本当は?』

「本当は、私があなたの声を聴きたがっているって、察していたのでしょう?」

『…………』


 やっぱりそうだ。と、私は確信した。

 彼は優しさを指摘されると無言になる。まだ付き合いは半年にしか満たないが、それでも私が見つけることの出来た彼の特徴の一つだ。


「有難う」


 日記帳の表紙を一撫でしながら、私は彼にお礼を言う。


『いや、元気があるならそれでいい。単なるお節介を焼いただけだ』

「あなたの声がなかったら元気になってないわ」


 嘘偽りのない事実。彼のことを想うだけで、彼と話しているだけで気力が出てくる。活力になる。


『そうか。役に立てたのであれば、それでいい』


 彼の口調は普段通り素っ気無いが、その中に優しさが見え隠れしているのが心地良い。


「っくし」


 と、唐突にくしゃみをしてしまう。流石に気温も低い夜にバスタオルでいるのは愚かしい行動だった。


『大丈夫か?』

「ごめん、湯冷めしてしまったみたい」


 電話を持ったままクローゼットに向かい、引き出しを開けて下着を取り出す。


『風呂上りか。暖かくして過ごせよ』

「うん。心配してくれて有難う」


 首と肩の間に電話を挟みこんで下着を着込み、寝巻きのキャミソールとショートパンツ、上からガウンを羽織った。


『今着替えてたのか。音が生々しいな』

「興奮する?」

『想像力は最大限に発揮されているな』


 彼の方が一枚上手か。冗談めかして茶化したが、逆にこちらが恥かしくなってきた。


『さて。悪いが、そろそろ切るぞ。玲亜も今日は疲れただろう。あまり遅くまで起きてないでゆっくり休め』

「ん……わかったわ。有難う」


 彼の言葉に、少し寂しさが募る。だが、彼にも都合がある。迷惑はかけられない。


「お休みなさい。また、明日」

『お休み。また明日』

「……ねぇ」

『ん?どうした』

「……ううん、なんでもないわ。ごめんなさい」

『そうか。であれば、今度こそお休み』

「お休みなさい」


 今度こそ、通話が切れた。液晶には、彼の名前と通話終了の四文字が残った。


「…………」


 胸に痛みが走る。けれどこれは、“発作”のものではない。

 いや、ある意味では発作か。恋の病という大病の発作。


「はは、何をくだらないことを考えているの。私」


 最後に彼に言い残したかったこと。しかし結局言えなかったこと。果たして私は、もう一度その言葉を彼に伝えられるのだろうか。

 この胸の痛みは、いつになったら消えるのだろうか。

 日記を再び手に取り、ベッドの上に横になる。髪を乾かしていない。傷んでしまうし、朝に凄い寝癖になってしまうが、今はなにもする気になれなかった。

 枕元に一冊の本がある。チャンドラーの推理小説だ。読み途中で続きも気になってはいるが、今はこれも読む気分ではない。

 日記を開く、先ほどの続きはどこだっただろうか。

 ――4月21日。ここだ。

 思わず苦笑いを浮かべてしまう。よく見れば、この21日こそが『運命の日』だった。

 タイミングが良すぎる。このページを前にして彼から電話が掛かってきて、『運命の出会い』の日を読み始める。まったく出来すぎた話だ。

 私は再び日記を開き、4月21日の内容から過去の記憶を呼び覚ましていく。


 ――例の【追記】のところまで読み終えた時、私は自然と眠りに落ちていたのだった。

今の彼女と過去の彼女の対比に、五話構成で間に日記を入れる形になりました

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