9話
何を言われても冷静に対処しようと、落ち着こうとするルキアだが、対面となるとどうしても緊張で鼓動が早くなってしまう。
謁見の間に入ると、ルキアは歩を進めながら玉座へと続く、深紅の絨毯を目で追っていく。
そしてそこに座る相手に、ルキアの緊張が高まる。
白銀色の長髪と、凍てつくような碧い瞳。
生気のない青白い肌に、濃紺の衣装に黒のズボン。
毛皮の縁取りがされた赤いベルベット素材の長衣をはおり、オーク国国王、アルク・オーレンがルキアを凝視する。
年はルキアより五つ上のはずだが、外見だけを見ると二十代後半以上に見えた。
しかも顔色が悪く、いつ倒れてもおかしくない程体調の悪さが際立つのに、ルキアを値踏みするように見つめる眼差しだけがらんらんと光っているのが、ますますルキアの平静さを奪っていく。
あきらかに歓迎の意志がないことがわかり、ルキアの表情が強ばり、足取りが重くなる。
だが、今さら引き返すことはできない、と自分に言い聞かせながらアルクの前に近づく。
「初めてお目にかかります、オーク国王アルク・オーレン陛下。私はクローブ国王女ルキア・クローディと申します」
優雅に膝を折り、型通りの挨拶をしてから、ルキアはゆっくりと顔を上げる。
「ようこそ極寒の地へ。クローブ国のルキア・クローディ王女。常春の姫君には、着いて早々この寒さはさぞ冷たく感じることだろう?」
丁寧な口調だが、嫌み交じりの挨拶に、ルキアは緊張から怒りへと感情がすり替わる。
「…陛下の気持ちはわかりますが、お互い国を背負っての婚儀なのですから、もう少し気持ちを近づけようとは思いませんか。私は仮にも陛下の花嫁なのですから」
「仮、ね。クローブ国の王女にしてはいささか元気があるな。とても重度の春眠病を患っているとは思えない」
「……どういう意味でしょう」
睨みつけるルキアを、彼は目を細め、皮肉げに笑う。
「温室のような場所で育った王女はきっと、周りに甘やかされ、わがままで弱々しいのだろうと思っていたからな」
皮肉げに笑うアルクに、ルキアはぎゅっと拳を握りしめた。
怒りを胸の内になんとか収め、唇だけ笑みの形を浮かべる。
「私もオーク国の国王陛下とは、どんな人物かあれこれ想像しましたのよ。そしたら私の考えていた以上の人物で、驚きましたわ」
ぴくりと彼の口元が引きつルのを見て、ルキアは多少なりとも溜飲が下がった。