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眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
89/102

89話

 私は温室に、いる。

 常春の美しい花が、満開に咲き乱れている。

 その真ん中で、私と彼が見つめ合って微笑んでいる。

 両手には摘んだばかりの白い薔薇。

 私は彼の瞳を見つめる。

 深い深い紺碧の双眸、どんな宝石よりも美しく、その瞳を覗くだけでおぼれてしまう。

 そしてその瞳に映る私は、この世の誰よりも幸せに微笑んでいる。

 彼だけが私を愛してくれた唯一の存在で、愛しい人。

 その彼に私は囁く。

「……」

「…ルキア様」

 ルキア?

 いいえ、違う。私は……。

「ルキア様、起きてくださいませ」

 温室の景色がぼやけ、重たい目蓋を開くと、見知らぬ天井が目に入った。

「ここは……?」

「お目覚めになりましたか、ルキア様」

 そう言うと五十半ばの侍女が、慣れた手つきで次々とカーテンを開けていく。

「やめて! 光がまぶしいわ!」

「当然です、もう朝なんですから。とはいっても、もうじきお昼になりますが」

「昼……? お前は……」

 誰だと声を掛けそうになり、すぐにムルガだと気づいた。

「ムルガ……ね」

 確認するように声を掛けると、ムルガは呆れた表情を浮べ、軽くため息を漏らす。

「そうです。さあルキア様、お客様がお待ちになっております。急いでお召し替えをして下さい」

「お客……」

 ゆっくりと起き上がろうとした瞬間、目眩と同時に身体が鉛のように重いことに気づいた。

「な……ぜ」

 呻くように呟くと、軽く目蓋を閉じた。

 全神経に意識を集中させると、徐々に身体のだるさがとれていく。

 だが、指先に残るかすかなしびれだけはすぐにはとれず、舌打ちしながら寝台から起き上がった。

 身支度をムルガに手伝ってもらい、寝室を出ようとしたときふと鏡台の前で立ち止まる。

 綺麗に整えられた亜麻色の髪、翡翠色の瞳は鏡に映る自分を冷たく見つめている。

「そう……私はあなたになったのね。負けを認めたのかしら?」

 そっと目蓋を伏せてルキアの存在を確認し、レイールは不敵に微笑む。

「そう……まだ勝負はついていないというわけね。意外と賢いのね、ルキア。殻の中に閉じこもって、意識を乗っ取られないようにするなんて。でも同時に愚かでもあるわね。閉じこもってしまえば、私を止める事なんてできないわよ? それにそんなこと、いつまで持つのかしら? ……望みのものが手に入ったら、この身体は不要になるのだもの。その間まで耐えられるかしらね、ルキア」

 残酷な笑みを浮べるレイールの表情が一瞬、苦痛を帯びた表情を浮べる。

 が、すぐに消え、レイールはくすりと笑うと、客が待つ応接間に足を向けた。

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