87話
「彼女に負けないためにはどうすれば…!」
視線をさまよわせ、一つの薬草に目が止まった。
「これは……」
身体を麻痺させる成分が含まれている薬草で、量を間違えば昏睡状態に陥ってしまうほどの劇薬を、ルキアは慎重に手に取った。
他にも毒薬にもなる薬草が数種類箱に入っており、知識として知っていたが見たのは初めてのものばかりだった。
ルキアはそのいくつかを手にとり、慎重に中を確認する。
「……これは使えるかも」
上手くいけば、身体の自由を奪うことができる。
と同時にルキア自身も身動きがとれないということだ。
しかも精神面では彼女の方が強く、簡単にルキアの意識は追いやられてしまうだろう。
「だけどこれだけでは駄目だわ。もっと他に方法は……いっそ彼女に身体を明け渡して……」
そう口にして、ルキアは激しく頭を振る。
「駄目、そんな危険なことはできない……。身体を乗っ取られるだけでも怖ろしいのに…ましてや意識まで彼女に奪われたら……」
だけど……とルキアは考える。
どのみち結果は同じなのだ。
抗おうと抗わなくても、意識を奪ばわれることに変わりはないのだ。
そうしてルキアの自我は永遠に失われるのだ。
ならばまだ自我があるうちにどこか安全な場所に潜み、いざというとき介入できるよう準備した方が、まだ勝機があるのではないか。
問題は……成功するかどうか、なのだが。
「……それでも助かる可能性があるなら……賭けてみる価値はあるかもしれないわ」
そしてもう一つ、ルキアはレイールの本当の目的が知りたかった。
憑依されて見た夢は、とても悲しく、切なかった。
復讐のように感じられる彼女の悲しみ、そして憎しみが彼女を覆っている。
けれどずっと愛した男性……アスターの欠片を集め続けていた彼女。
復讐だけのために気の遠くなるような年月をかけて、何故そんな手間の掛かることをしたのか。
彼女の力ならすぐに呪いを成就できたはず。
なのに今になって呪いを成就することに、どんな意味があるのだろう。
「まさか……アスターを甦らせる……?」
その考えにルキアはぞっとした。
すでに肉体が朽ちている人間を甦らせることなど、いくらレイールだとて不可能のはずだ。
「アルクの……身体を使うんだわ。だから欠片を集めていたんだわ。だけど……アスター自身は彼女のように恨みなんてないはず」
深く悲しんだのかもしれないが、甦りたいとは考えていないはずだ。
「……それとも彼も甦ることを望んでいるの…?」
どちらにしろ、ルキアの憶測だけではレイールの望みがなんなのかわからない。
それにはやはり彼女の心に触れる必要がある……。
「姫様?」
声を掛けられ、ルキアははっとした様子でカルを見つめる。
「どうかなさいましたか? まだお加減が悪いんですか!」
「ええ……いえ、何でもないの」
心配げな表情で見つめてくるカルの表情を見て、ルキアは自分の考えを声に出そうと口を開いた。
「カル……私…」
「? どうかしましたか?」
「いえ……もう、片付けは終わったの?」
「はい……。絨毯のシミは残ってしまいましたが、それ以外は元の状態に戻しました」
「そう……ありがとう」
カルには言えない。
彼女が聞き耳を立てている可能性もあるし、恐らくカルは私の考えに賛成しないだろう。
危険だと、もっと違う方法でなんとかしようと説得するかもしれない。
だがこれ以上呪いの解除方法を調べるには、あまりにも時間がなさ過ぎる。