8話
こんな体調でオーク国王に醜態を晒すのは失礼だし、それ以上に精神的な疲れを増やしたくなかった。
なので、フィンソスの言葉はありがたかったのだが。
「いいえ、フィンソス様。陛下から、王女様が到着次第、謁見の間へ通すよう申し渡されております」
「…こんな時間にか?」
眉根を寄せるフィンソスに、ムルガは静かに頷く。
「こんな時間と言っても、月が昇ったばかりです。何ら問題ないかと」
「だが、王女は長旅で疲れているんだからもう少し…」
「あの、フィンソス様。私は大丈夫なのでオーク国国王に…謁見いたします」
こんなことでムルガとフィンソスの言い争って欲しくないし、オーク国王の言うとおり、先に謁見するのが筋というものだろう。
それに、ともルキアは考える。
疲れているとはいえ先に済ませてしまった方が、後々面倒なことにならないとも考えたのだ。
ただ衣装もよれてる上に、髪や顔も酷い有り様だろう。
せめて身繕いだけでもとムルガに申しでると、快く承諾してくれ、カルと一緒に簡単だが身支度を整えた。
なんとか体裁を整えたルキアは、深紅の絨毯が敷かれた回廊を、フィンソスの後に続いて歩き出す。
中に進みながら、ルキアは内装に多少なりとも驚いていた。
外壁が冷たく、恐ろしい印象を受けていたのだが、室内は白い大理石が使われており、壁に掛けられた燭台の光に反射して、とても明るかった。
「本当に申し訳ありません、ルキア王女。疲れていらっしゃるのに謁見など…」
「…いいえ、アルク国王陛下にご挨拶をするのは当然のことですわ。ただ…長旅でお見苦しい格好をお見せしなければならないのが、心苦しいのですけど……」
「そんなことはありません。ルキア王女は十分お美しくていらっしゃる。それは私が保証いたします」
悪戯っぽく微笑むフィンソスに、緊張していたルキアの表情が緩む。
「そうだといいのですが」
「心配しなくても、私も同席しますから安心して下さい。いざといときは助け船を出しますから」
おどけたように胸を叩くフィンソスに、ルキアは今度こそくすりと微笑んだ。
「ええ、その時はお願いしますね」
軽い冗談も言えるだけの緊張がほぐれると、ルキアは大きく深呼吸して、謁見の間の扉をくぐった。