78話
光を頼りに、カルは壁に手を添えながら通路を慎重に進む。
もっと早くと焦る気持ちはあるが、暗闇といつ消えるかもしれない淡い光を頼りにしなければならないので、どうしても進みが遅い。
とはいえ、何度か道を曲がりながら進んでいるので、だいぶ奥まで歩いた感じかする。
と、ぼんやりとした光が一瞬大きく輝いた瞬間、ふっと消えた。
「……目的地についたってことかしら」
カルは再び燭台に火を灯すと、周囲を照らす。
が、そこは周りと同じ壁で、ここに出入り口があるとは思えなかった。
だが光がここで消えた以上、ここから入るしかないのだ。
「まったく……ここまで案内してくれたなら、開閉までやってくれればいいのに…」
などと呟きながら、カルは開ける方法がないものかと探してみる。
と、床から数センチ上に、腕一本分が入りそうな穴を見つけた。
かがみ込んで燭台の明かりを照らしてみると、奥に鉄の輪が微かに見えた。
「これだわ……きっと」
しかし奥にあるため、カルが精一杯伸ばしても微かに触れる程度だった。
「く……あと、少し…」
なんとか鉄の輪を掴むことできたカルだが、ひっぱってもびくともしない。
「なんて……固い…の!」
膝と片手を壁に押しつけながら、ようやくゆっくりと鉄の輪が動き出した。
と、同時に羽目板もゆっくりと動きだし、完全に開くまで引っ張り続けた。
「やっ……と、開い…た…」
だが安堵したのもつかの間、手を緩めた瞬間から、鉄の輪は再び戻り始め、同時に扉も閉じ始めた。
「!」
すぐに起き上がると、カルは扉に向かって走り出した。
入ると同時に閉じられ、カルはホッと安堵の息を漏らす。
どうやら鉄の輪を離すと扉は閉まる仕組みらしい。
扉の方に視線を向けると、重厚かつ天井まで届く本棚がそこにあった。
「本棚だったのね……どうりで重かったわけだわ」
なんとなく納得すると、カルは周囲を見回し、ここが書庫だということがわかった。
叔父のいる執務室でなかったことに安堵したものの、見つかる恐れがあることに変わりはなく、カルはすぐにセリアの遺品を捜し始めた。
片っ端から本棚を捜し、それらしき物があると、中を調べ確認する。
だが膨大な書籍の数々に、カルは焦りと不安に駆られる。
「どこ……どこにあるの……お願い早く……早く見つけないと…」
必死で探していると、ふと視線を感じてカルは素早く扉の方に目を移す。
だが扉は固く閉ざされ、人の気配は感じられない。
気のせいかと再び作業に没頭するが、やはり誰かに見られている気がして、カルは落ちつかなげな視線を辺りに投げる。
と、壁に掛けられている肖像画に目が止まる。
それは美しい少女が微笑んでいる姿だった。
と、その少女の瞳が一瞬動いたような気がして、とっさに本棚の影に隠れる。
用心深くもう一度肖像画を見るが、何の違和感もない。
だが肖像画付近から視線を感じてならず、カルは警戒しながら近づく。
誰かがあたしを見ている?
……もしかして肖像画の裏には隠し部屋が?
だが不思議と人の気配はせず、カルは肖像画の視線から逃れるように死角に回り込む。
と、肖像画の端に書いてある文字に気づく。
どうやらこの肖像画の少女は、セリアだとわかった。
カルはもしかしたら…と思い、額縁の裏にゆっくりと手を差し入れる。
と、紙の感触にぶつかり、ゆっくりとそれを引き出した。
「これは…」
手にしたのは黄ばんで埃まみれの一通の手紙だった。
表を見れば美しい筆跡で『この手紙を読む誰かへ』と、書かれていた。
裏を返せば同じ筆跡でセリア・クライズと書かれていた。