74話
「それをルキアが望んでいたとしたらっ?」
「馬鹿な! ルキアだってそんなこと望んでなどいるものか!」
同じように立ち上がり、アルクは食ってかかるが、レクシュは悲しげな顔で見返す。
「私にはわかるのです、陛下。ルキアは陛下と共に生きることを望んでいる。けれど、もうどうすることもできない状況になったとき、ルキアは死を望むでしょう。そうすることで呪いが解け、陛下が助かるのならば、ルキアはなんの躊躇いもなく実行するでしょう」
「そんな……そんなことさせるものかっ」
「もちろん。最後まで私もあがきますわ。だからこそ陛下に、危険を冒していただかなくてはならないのです」
「……何をすればいい」
「恐らく……彼女が陛下の命を奪うのは、婚儀の時だと思います。が、それまでに命が奪いやすいよう、陛下をもっと弱らせていくよう仕向けるはずです。ですがルキアはそれを恐れて、陛下と会うのを極力避けるようになるでしょう。ですから、陛下からルキアと積極的に会ってほしいのです。その時には必ず、これを飲んでいただきたいのです」
レクシュは懐から液体の入った小瓶を取り出し、アルクに手渡す。
「これは?」
「陛下の意識を保たせるための薬です。彼女と会えば、陛下は徐々に意識を操られるのを防ぐものです。飲み物に一滴だけ入れて服用して下さい。ただし……この薬には強い副作用があります」
「何だ?」
「飲んだ数時間後は意識が驚くほど覚醒するのですが……薬が切れたとたん、身体が動けなくなるほどの倦怠感が襲ってくるのです。しかも長期間服用すると精神に異常をきたす恐れがあるのです。ですから、ルキアと会うときだけ服用して下さい」
「……わかった。だが、こんなことで呪いを解くのに役に立つとは思えないが」
「そうですね。これはただの時間稼ぎかもしれません。ですが少なくともルキアと会うことで、少しでもあの子が生きることに執着してくれれば、彼女に取り込まれることが遅くなるはずです。その間、なんとしてでも呪いを解く鍵を探し出します。ただ最悪…」
「それ以上は言わないでくれ! ……今はできることをやるべきだ。違うか?」
「……そうですね」
目頭をぬぐい、レクシュは堪えるように頷いた。