7話
一言でいえば、オーク国は山だった。
正確には鉛色の山肌を削って作られた城で、松明の炎で照らされた、鈍色で頑丈な両開きの扉がゆっくりと開かれる様は、まるで地獄の門が開かれるような錯覚を覚えた。
特に今は、夕刻をとっくに過ぎた時間もあって、よりいっそうおどろおどろしさを感じた。
辺りは暗く刺すような風の冷たさと凍える雪の冷たさ、そして扉の奥の暗く、濃い闇の深さにルキアは今すぐにでもクローブに帰りたくなった。
城内に入ると側に控えていた侍女達が一斉にルキアに頭を垂れる。
「ようこそ、クローブ国王女、ルキア・クローディ様。お荷物をお預かりいたします」
白髪の交じった黒髪の、四十代後半くらいの女性がルキアから上衣を預かり一礼する。
「私は侍女頭のムルガと申します。王女様の身の回りのことは私がいたしますので、何でもお申し付けください」
はきはきと話すムルガに気圧されるものの、ルキアはやんわりと断る。
「…ありがとう。けれど、私の身の回りのことは全てカルに任せているの。用があれば、彼女から貴方にお願いすると思うわ」
そう言ってルキアは、後ろに控えているカルに視線を向ける。
「…カルと申します。姫様の身の回りのことは、全て私にお任せ下さいますようお願い致します」
一瞬カルとムルガの視線が絡まり、一瞬ムルガが何か言いたそうな表情を浮かべる。
しかしすぐに落ち着いた表情に戻ると、ルキアに向き直る。
「…わかりました。ルキア様の指示通りにいたします。ただし、この国のしきたりをいくつかカルに、覚えて頂かなければなりませんが、よろしいですか」
「ええ、お願い。なにもわからないから、いろいろ教えてくれると嬉しいわ」
「えっ…」
虚を突かれたように驚くムルガに、ルキアは苦笑する。
「だって、これからこの城でずっと過ごすんだもの。わからないことが、たくさん出てくると思うから、その都度教えて欲しいの。…駄目、かしら?」
「い、いえ、失礼いたしました。……こちらこそ、わたくしでよければ、微力ながらお支え申し上げます」
困惑しながら謝るムルガに、今までずっと様子を見ていたフィンソスが、くすりと微笑む。
「ムルガ殿のそんな顔を、初めて見たな」
「フィンソス様…」
顔をしかめるムルガに、フィンソスは冗談めかして謝ると、ルキア達に視線を移す。
「長時間ソリに揺られ、さぞ疲れたことだと思います。今日はこのままゆっくり休んで、王との謁見は明日した方がいいでしょう」
フィンソスにそう言われ、ルキアはホッとした。
一日中馬車に揺られ、疲れとソリ(?)酔いのせいか、食事もあまり喉を通らず、ずっと気持ち悪い状態だった。
今も地に足が着いているのに、揺れているような気がして、早く座って落ち着きたい。