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眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
69/102

69話

「ええ。ここは陛下の父……いえ、先代の王が亡くなる直前まで使っていた、秘密の部屋ですわ」

「秘密の……部屋だと?」

「はい。ここで彼は遺言を書き、私が見届け人として立ち会った場所。そして陛下と我が娘の病の秘密を、時期が来るまで隠していた場所なのです」

「なんだと! どういう…」

「陛下、落ち着いて下さい」

 にじり寄ろうとするアルクを、フィンソスが引き留めレクシュを睨みつける。

「どういうことかもちろん、説明してくださるんでしょうね」

「ええ。けれど話が長くなるので、座って話をしましょう」

 そう言って、レクシュは椅子に座るよう二人に促す。

 軽く埃を払いアルクは机の前にある椅子に座るが、フィンソスはアルクの背後の壁に寄りかかり、無言でレクシュを睨みつける。

 それは不審な行動をすれば、すぐにでも対処できるぞ、そうフィンソスの視線が語っていた。

 レクシュは苦笑を浮かべながらその視線を受け止めると、机をはさんでアルクと向かい合うように座る。

 そこでレクシュは深く深呼吸すると、ゆっくりと話し始めた。

「……私がオーク国の先王、リシアン様と知り合ったのは……私の夫、テイズの喪が明けて間もない頃でした。……元々オーク国とはほとんど国交がなく、アガパンサス商会ですら、年に数回訪れる程度でした。そのオーク国から書状が届いたのです。しかも内密に」

「父が内密の書状をクローブ国に? 正式な物ではなく?」

「ええ。文面にはクローブ国とオーク国の病について、情報交換したいと、オーク国国王の名が記されていました」

 そう言ってレクシュは当時内密で届いた書状を、アルクに見せる。

「…確かにこれは父上の字だ。まさか父上がそんなことを…」

「最初は半信半疑でした。会って確認するにも、その頃クローブ国王の代理を私は務めていたので、国を勝手に空けるわけにはいきません。なのでアガパンサス商会を使って、オーク国国王に謁見することにしました。それと、オーク国の本当の目的を探り出す必要がありました」

「本当の目的?」

「ええ。ほとんど国交のなかったオーク国が突然、クローブ国に内密の書状をもってくるなんて、おかしいと思ったのです。

 …商人仲間からは、オーク国にもクローブと似たような奇病が流行っているという情報は聞いていたので、クローブが落ち着いたら連絡を、と考えていた矢先の出来事だったので、戸惑ったのです」

「戸惑った……逆を言えば何かの策略かと警戒したんですね」

「……そうですね。元々オーク国はその当時から国交を制限していましたし、クローブ国もほとんど国交らしきことはありませんでしたから。

 自然と疑ってしまうのは仕方ないでしょう。

 それに私自身も身動きがとれない現状を理解してもらう意味も込めて、アガパンサス商会の中に信頼できる部下を仲介人として向かわせたのです。

 そのような形で何度も情報交換をした結果、共通しているのは二国間の王族、しかも直系だけが病にかかっていること。そして薬では治らないこと。

 ……ただし例外が起きたのです」

「それがルキア…」

「ええ。兄のレクシュより重度の春眠病に。

 ……そこで私は気づいたのです。もしかしたら病ではない可能性もあるのかと……。リシアン殿と協力してあらゆる書物を調べ、そして……私は思い出したのです。

 ……昔、まだ商人として各地を転々としていた頃、ある噂を耳にしたことがありました。呪術を専門に扱っている一族がいると。その一族に会うには特殊な方法ででしか会うことは出来ないと知り、私はあらゆる手を尽くして伝手を探りました。

 そして会ったのは、ごく普通の老婆でした。私はクローブ国の現状を説明し、治療するすべを請いました。

 しかし返ってきた答えは、否、でした。

 病ではなく呪いを掛けられていると言われ、一度呪術をかけられた者は、術者本人が解かない限り無理だと。

 私は誰がそんな呪いをかけたのか問いただしました。

 老婆はしばらくだまり、亡くなったと呟きました。

 だから呪いは解けることはないだろうと。

 私は絶望しました。


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