68話
「なっ!」
「どうして…」
驚く二人に構わず、レクシュは指輪をアルクに返す。
「では参りましょう、お二方。今は何も言わず、私についてきてください。たどり着いた先で、あなた方の疑問にすべてお答えしますわ。そして、これからのことも」
そう言うと、レクシュは本棚に軽く触れた。
すると本棚は何の抵抗もなく動きだし、人がやっと入れる程度の黒い穴があらわれた。
「暗いので、足下に気をつけてくださいね。…」
そう注意すると、レクシュは側にあった燭台を手に中に入っていく。
「陛下……」
警戒するフィンソスに、アルクは微かに頷く。
「わかっている。……だが、今は彼女のあとについて行くしかない。我々が知りたい、全てのことを彼女が握っているんだから」
「……万が一の時は、誰であれ拘束します。よろしいですね」
「……そうならないよう祈るよ。両国間の争いは避けたいからな」
苦々しくため息を漏らすアルクをよそに、フィンソスは壁に立てかけてある燭台を手に取る。
いつでも剣が抜けるよう構えながら、フィンソスが先に穴の中に入り、その後にアルクが続く。
と、先に進んでいたレクシュが後ろを振り返り、アルクが中に入ったことを確認し、声を掛ける。
「陛下、中に入りましたら、右側の壁に指輪と同じ穴がありますから、そこにもう一度指輪をはめて下さい」
「穴…」
手探りで壁に触れていくと、ちょうど指輪の台座と同じくらいのへこみが見つかった。
埃で半ば埋もれているのを払いながら、アルクは指輪をはめ込む。
と、先程の本棚が、音もなくゆっくりと閉じていく。
「!」
完全な闇があたりを占め、レクシュとフィンソスの持つ燭台の明かりだけが微かに壁を反射した。
「それではそのまま階段を下りてお進み下さい。暗いので足元にはお気をつけてください。私は先に行って、準備をしております」
「ま、待てレクシュ殿」
アルクが引き留める間もなく、レクシュが持つ燭台の明かりが動きだし、微かな衣擦れの音と共に気配が離れていく。
「まったく……」
ぼやくアルクだが、フィンソスは明かりで周囲を確認しながら、険しい表情を崩さない。
「文句は後にするとして…陛下、暗いので足元に気をつけて下さい」
「……わかった」
二人は明かりを頼りに、慎重に下へと降りていった。
長い階段を下り、二人が扉を開けた部屋は、簡素な小部屋だった。
三、四人入れば狭く感じる部屋には、簡素な机と椅子二脚。
壁に掲げられた燭台に火がともされ、壁に積み上げられた書籍の山を照らしていた。
先に到着していたレクシュは、携帯用暖炉に火を付けており、それを横目に、呆然とした様子でアルクは周囲を見回す。
と、アルクは机の上に乱雑に書かれた書類に目をとめた。
黄ばんた書類にはうっすらと埃が降り積もり、その一番上に乗っているものに手を触れる。
「この筆跡は……父上の」
暖炉に火を付け終わると、レクシュは軽く手を払いながらアルクに視線を向ける。