67話
「もちろん、私の知っていること全て、お話するつもりです。ですが、今ここでお話しするわけにはいきません。とても大事な事ゆえ、特別な場所で話すのが最適かと」
「特別な場所?」
「ええ、その場所ならば、どんな秘密も漏れることはないのです」
レクシュは頷きながら、ちらりとアルクの後ろに控えているフィンソスに視線を向ける。
「その前に……フィンソス殿には、席を外していただきたいのですが…」
「それはできませんね。今の貴方が誰であれ、陛下に危害を加えない、という保証はありませんから」
「フィンソス!」
たしなめるアルクだが、フィンソスは冷静な眼差しでレクシュを凝視する。
「いいのですよ、陛下。フィンソス殿は、責務を果たしているだけなのですから。それに今の私はまだ商人なのですから。…わかりました、フィンソス殿もご一緒においで下さい。…ですがフィンソス殿には一つだけお約束願いたいことがあります」
「約束?」
「はい。これから案内する場所のことは、他言無用でお願いいたします」
「…もし、断ると言ったら?」
試すように口を開くフィンソスに、レクシュはすっと目を細める。
「その時は残念ながら、この話はなかったことになりますね。ですがそうはならないでしょう。陛下の病を貴方は誰よりも強く願っているはず。…違いますか?」
「……さすが食えない商人だな」
アルクが倒れれば次の国王として持ち上げられる可能性と、もう一つこの問題が解決されない限り、カルとの約束も果たされない。
そう遠回しにフィンソスに伝わったことを知り、レクシュくすりと笑う。
「ふふ、褒め言葉として受け取っておきましょう」
「フィンソス?…」
「…わかってます。誰にも喋らないと誓います」
苦虫を潰した表情を浮かべながらも、フィンソスは胸に手を当てて誓いを立てる。
その様子を困惑した眼差しを向けるアルクだが、レクシュは軽く頷くと二人を案内する。
「では陛下、こちらですわ」
そう言ってレクシュは、奥にある暖炉の側に近づく。
そして暖炉の中央に埋め込まれている、拳大ほどの大きさの黄金の飾り獅子の彫刻の口元に触れる。
「では陛下、お手数ですがもう一度その指輪を私に貸して下さいますか?」
「……」
胡乱げな視線を浮かべるが、アルクは言われたとおりレクシュに指輪を渡す。
レクシュは渡された指輪を確認すると、獅子の口の中に指輪をはめ込み、軽くひねった。
カチリと、小さな音が聞こえると同時に執務机の後ろにある、重厚な本棚が少しだけ動く。