6話
早朝、日が昇る前にルキア達は野営地を片付け、ルキア達はフィンソスを先導に、オーク国城へと出発した。
途中までルキア達は馬車で移動していたが、参道の入り口付近で、フィンソス達が用意した馬車のようなものに乗り換えた。
基本は馬車と同じなのだが、車輪ではなく平べったい板が縦に二本くっついた、奇妙な乗り物だった。
「こんな乗り物初めだわ。本当に動くのかしら?」
独り言のような不安を呟きながら、ルキアが車内に入ると毛皮が敷き詰められた、段差のない柔らかな床だった。
「心配しなくてもちゃんと前に進みますよ。これはソリといって、雪道ではとても便利なんですよ」
ルキアの後に続いて入ってきたカルはそう説明すると、床に座ったルキアの周りに厚手の生地の小袋をいくつか置いていく。
「これは何?」
「温石ですわ。これからもっと寒い場所へ行くんですから、身体を冷やさないようにしないと」
その上に膝掛けをかぶせ、ルキアの腰回りまでを覆う。
「ここまでしなくても、十分暖かいわよ」
「いいえ、これでも不十分です。本当は携帯用暖炉も持ち込みたかったんですけど、揺れる車内に火は持ち込めませんから。せめてできることはやっておかないと。特に姫様は寒さに耐性できていないんですから、オーク国に着いて早々風邪をひかれては困ります」
「またそれ。本当にカルは心配性ね。……それよりも私は、これからオーク国王に謁見する方が怖いわ。カルには悪いけど、体調を崩して、少しでもオーク国王と会う時間を延ばしたいくらいよ」
「…姫様」
心配げな表情を浮かべるカルに、ルキアは唇を歪める。
「だってそうでしょ。一度も会ったことがないんですもの……不安にならないほうがおかしいわ」
ぎゅっと拳を握りしめながら、ルキアは気がかりな様子でカルを見つめる。
「年は私より五つ上ということと、不眠病になりながらも政務を執り行っているって言うことだけしか知らないわ。そんな方と、どうやって結婚生活を続けていけばいいのか……」
「姫様……」
なんと声を掛けていいか悩むカルに、ルキアは軽く首を振りながら無理に微笑んだ。
「…なーんて、ね。きっとなんとかなると思うわ。政略結婚なんて王族としては当たり前だし、もしかしたら会えば素敵な方かもしれないし…。それに、オーク国の後ろ盾があればクローブ国は繁栄するだろうし、第一、この婚姻でお互いに問題している病が治れば、春眠病で悩む人たちがいなくなるだもの、それだけでも嫁いだ価値があるというものよ」
にっこりと笑うルキアだが、無理をしている様子が目に見えてわかるだけに、カルは何も言うことができなかった。
だからこそ、とカルは表情を引き締める。
「……わかりました。でしたらあたしは、この先なにがあろうとも、姫様にお仕えしていきます」
決意表明のように真剣な口調で言い切るカルの気持ちが、ルキアには嬉しかった。