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眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
57/102

57話

「姫……さま」

 呆然とした顔で頬を押さえるカルに、ルキアは怒りのこもった視線を投げつける。

「姫なんて、軽薄めいた呼称で呼ばないでちょうだい。気分が悪くなるわ」

 そう吐き捨てると、カルを無視してルキアは立ち上がろうとした。

 だが足の痛みに悲鳴をあげると、ルキアは再び倒れそうになる。

 カルはとっさに手を差しのべて支えようとするが、ルキアは狂ったように暴れ出し、カルを突き飛ばしながら寝台に倒れ込んだ。

「うっ」

 窓際にぶつかったカルは、倒れそうになる身体を支えようと、とっさにカーテンを掴んだ。

 カルの体重がかかったカーテンは鈍い音と立てながらいくつか外れ、陽の光がルキアが倒れ込んだ寝台を照らし出した。

「ああっ!」

 光を浴びたルキアは苦しげにもだえると、そこから逃げるように必死に身体を動かし始めた。

 だがそうさせまいと、ルキアの腕が寝台の柱をきつく握りしめる。

「カ……ル、お願い…よ。光を…。カーテンを……開け…て」

 苦痛に顔を歪ませるルキアに、カルは駆け寄るべきかどうかためらう。

「お願い! 早く……でないと私…」

 懇願する眼差しを向けられ、カルは顎を引いて頷くと、室内のカーテンをすべて引いていった。

「くっ……ううっ……おのれ、許さない!」

 カルに向かってルキアは罵り声を上げると、ぐったりとしてしまった。

 しばらくの間、沈黙が流れ、互いの息づかいだけしか聞こえない。

「…うう」

 うめき声と共に身じろぎし、ルキアはのろのろと起き上がった。

「ありがとう……カル」

 疲れ切った表情で声を掛けるルキアに先程の憎悪は見当たらない。

 しかしルキアの様子に違和感を覚えたカルは、警戒するように近づいていく。

「大丈夫ですか……姫…さま」

「私に近づかないで、カル!」

 緊張した声音で押しとどめるルキアに、カルはすぐに身を引く。

「姫様……何があったんですか?」

 疑惑と困惑、そんな眼差しで見つめるカルの視線に耐えられず、ルキアはうつむいた。

 昨日の出来事をどう説明したらいいのだろうか。

 レイールに身体を乗っ取られ、しかもアルクの命を奪い取るために利用されていると。

 とても現実的ではなかったし、気が触れたと思われてしまうのではないかとルキアは考えた。

 と、そのときルキアは誰が寝室まで運んだのかという、疑問がわいてきた。

「カル……あなたは昨日、私を追って温室まで来たと言ったわね…。あなたがここまで運んできたの?」

 用心深く問いかけるルキアを、カルはやや不審げな表情を浮べる。

「いいえ。温室の外まではなんとか自力で背負ってきましたが……途中で警備兵に手伝ってもらってここまで運びましたが……それが何か?」

「そう…なの。…カルは……温室で何か見た……?」

 不安な顔で、躊躇いがちに尋ねられ、ルキアが何かを隠していることにカルもまた不安を覚えた。

 ルキアは何を知りたいのだろう、かと。

 そしてカルはすぐに、ルキアが倒れたときの状況のことだと悟った。

 ただあの時はルキアを助けることに必死で、あまり覚えていなかった。

 それでも一つだけ気になることがあったのだが、あまりにも現実離れしていて話すべきかどうかためらわれた。

 カルの態度でルキアは何か知っているのだと理解し、話して欲しいと懇願する。

 カルは少し迷った末、錯覚かもしれないと前置きしてから話しだした。


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