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眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
56/102

56話

 なのに密かにアスターに想いを寄せており、このタイミングで告白するなんて……まるで計画していたかのような振る舞い。

 そう思うと、レイールはこのまま死んでゆくのが腹ただしかった。

 自分の死後、セリアはなんの問題もなくあるべき居場所に収まるのだ。

「………さ…な…い」

 唇から血を流しながら、レイールは最後の力を振り絞り、アスターの腕を強く握りしめた。

「レイール…」

 最後の言葉を言おうとしているのを悟り、アスターはレイールに頬を寄せる。

 暖かな感触と愛しい者の香りに、レイールの憎悪が切なさと悲しみに変わっていく。

「愛…して……るわ。わた…し……の」

 急速に意識が薄れ、アスターの腕を掴んでいた指が先が力なく地面へと落ちる。

「私も……愛しているのはお前だけだ……っ」

 強く抱きしめられながら、レイールの意識はどんどん闇の中へと落ちていく。

 私の愛しい人……必ず、必ず戻ってくるわ。

 そして今度こそ叶えてみせるわ……。

 それまで私は……。

 レイールの意識は身体を離れ、深い闇の中に沈み込む。



 身体中が怠く、鈍い痛みの中でルキアは目覚めた。

 呻きながら身じろぎすると、一瞬ここがどこなのかわからなくなり、顔をしかめた。

 だがすぐにオーク国の一室、ルキアにあてがわれた寝室だと思い出した。

 安堵しながらルキアは大きなため息を漏らす。

 嫌な夢だった。

 自分がレイールで、アスターの腹心の部下に殺される夢。

 痛みはなかったが、レイールの感情がまるで自分のことのように感じられ、目覚めてもなお生々しい感情がルキアの中で燻っていた。

 顔を洗って気分をすっきりさせようと起き上がろうとしたが、筋肉痛に、ルキアは再び寝台に倒れ込んだ。

「どうして……」

 口に出した瞬間、ルキアは昨夜の出来事を思い出した。

 身体をひねって窓に視線を向けると、カーテンの隙間から淡い光が部屋の中に差し込んでいた。

「もう……朝…なの?」

 外の様子を確認したくてルキアは上半身を起し、足に包帯が巻かれてていることに気づいた。

「どうして包帯……! そうだわ私……裸足で部屋を出て……」

 カルの幻を見せられ、レイールの罠にはまってしまった。

 そして……。

 レイールにされたことを思い出し、ルキアはすぐに胸触れる。

 と、寝間着を通して、皮膚が盛り上がっている感触が指先に感じられた。

 さっと顔が強ばり、ルキアは足の痛みを堪えながら、寝台から転がり落ちるように降りる。

 膝立ちでよろめきながらなんとか鏡台の前まで来ると、ルキアは恐る恐る寝間着をずらし、愕然とした。

 心臓がある位置よりやや上に、薔薇の刻印が押されていたのだ。

 それは生きているかのように心臓の鼓動に合わせて脈打ち、ルキアに嫌でも昨夜のことが現実だと突き付けていた。

「なんてこと……」

 やはりアルクの命を、レイールはルキアに刻み込んだのだ。

 刈り取るために。

 青ざめた表情で胸の薔薇を凝視していると、背後で扉を叩く音が聞こえ、ルキアは素早く寝間着を整えた。

「……! 姫様、お目覚めになったんですね!」

 様子を見に入ってきたカルは、ルキアが鏡台の前で呆然としている姿に驚き、すぐに駆け寄ってきた。

「よかった! 心配しましたよ。夜中に寝間着で飛び出すなんて。追いかけたら、温室で倒れた時は驚き…」

 バシッと激しい音が室内に響く。

「召使い程度がこの私に触れるなんて、無礼にもほどがあるわ! しかも気安く名を呼ぶなんて……いったいどういう教育を受けてきたのっ」


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