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眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
55/102

55話

 そしてアスターも彼女を必要としており、二人は徐々に親しくなり、やがて愛し合うようになった。

 愛され、必要とされ彼女は新しい居場所を見つけたのだ。

 たとて名目ばかりの妃だと、オーク国の者達に言われ続けても、彼女はは気にしなかった。

 アスターの病気は治りつつあったが、彼女には一つだけどうしても叶えられない望みがあった。

 それはアスターの子を産むこと。

 幼少期に熱病にかかり、子はなせないと宣告された。

 修道女のときは悲しかったが、子を成すことなどないと思っていたから、気にしないようにしてきた。

 けれどアスターの妃となった今、それが彼女の心に重くのしかかっていた。

 アスターに正直に話すと、苦しんでいる私を慰めてはくれたが、がっかりしたこともわかっていた。

 彼女は祈った。

 どうか一度だけでもいい、奇跡を……と。

 そしてやっと待ち望んだことが起きた。

 嬉しかった。

 新しい命が誕生したことを。

 なのに……なのに……。

 新たな涙が、彼女の瞳から流れ落ちる。

 悲しみと絶望のまま意識が離れそうになる彼女は、力強い腕に抱かれてかろうじて意識を取り戻した。

 青ざめ、苦痛に顔を歪ませるアスターの顔が映ったが、何を言っているのかわからなかった。

 音は聞こえなかったが、自分の名を呼んでいるのは唇の動きでわかった。

 レイール……と。

 彼女、レイールはアスターに言いたかった。

 二人が待ち望んだ子供ができたことを、伝えたかった。

 それが二度と叶えられることはできない、それが悲しくてレイール涙を流すことしかできなかった。

 そこにアスターと同じ表情で涙を流している女性、セリアの姿がレイールの視界に入った。

 レイールに寄り添うように座り込むセリアの姿とアスターの姿に、レイールは漠然とした怒りに駆られた。

 二人はとてもお似合いだったから。

 レイールが現れなければ、オーク国の貴族達はセリアが王妃になるだろうと囁いていたから。

 そう、私を刺した男……テイラも。

 そして……やっとテイラのいった言葉が理解できた。

 自分はただの名目上の王妃なのだと。

 後継者はしかるべき身分の……たとえば目の前にいるセリアが産むべき者なのだと。

 自分はただアスターの病だけを治すためだけに寄こされたのだ。

 なのにアスターに優しくされ、愛していると言われて、私は有頂天になって周りが見えなくなっていたのだ。

 誰にも必要とされず、居場所もなかった哀れなクローブ国の王女に、少しだけ優しくされただけだと、テイラは言っていたのだ。

 違う! と、もう一人の自分が大きく反発するが、セリアがアスターに言った言葉がすべてを打ち消した。

<陛下を愛していました……ずっと昔から>

 抱きしめ合う二人の前で、私は殺された。

 アスターの腹心の部下に。

 これは私を殺すことを予定に含めた、セリアの告白だったのだろうか。

 私が死ねば、セリアはアスターの妻にと、周囲から望まれるだろう。

 だって、アスターにはまだ後継者がいないのだから。

 いや、後継者はいたのだ。

 まだこの世に存在しなかっただけで。

 苦痛に歪み、涙をにじませているアスターの表情、これも演技なのだろうか?

 どれが本当で、どれが偽りだったのか。

 ただ一つわかっていることは、子供を殺されたこと。

 そして自分の命が消えかかっていることだけ。

 ……何よりも、セリアの裏切りが許せなかった。

 孤独に耐えていた私に近づき、優しい言葉で親友になろうといってきた女。


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