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眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
51/102

51話

<貴方が十分成長するのに合わせて、ゆっくりと種を育て、そしてここへ呼ぶために、どれだけわたくしが労力をさいたか、わからないでしょうね>

「な…んで……すって…」

<あの出来事があって、和平は崩れてしまったわ。けれど、あの方のおかげで断絶だけは避けられた。けれどわたくしの祖国から妻を娶ることは、二度となかった。かろうじて、交易という細い糸でつながれた国交関係。それが何世代も続き、やがてあの事件のことは薄れていった。そして白薔薇だけが残り、不吉を呼ぶ花となってしまった。わたくしは絶望したわ。だって、同族でなければわたくしの力は十分に発揮できないのですもの>

 じっとルキアを見つめながら、彼女はすっと目を細めた。

<だから再びオークがクローブから妻を娶らせるために、呪いをかけたの。それがなんなのか、ルキアならわかるはずよね>

「まさか……春眠病」

<そう。けれどもただ呼ぶだけでは意味がないの。器には条件があるから。私と波長が合わなければ、同族でも器を支配することはできないもの。だから待ったわ。長い年月、条件に見合う器を、ね。そして貴方が生まれた>

 じっくりと舐めるようにルキアの全身を眺め、彼女は満足そうに微笑む。

<綺麗だわ、ルキア。亜麻色の髪も、翡翠色の瞳も、生前のわたくしにとてもよく似ている。……そう、アルクもあの人によく似ているわ。ふふっ、それがどういうことかわかる?>

 無言のままのルキアに、彼女はさして気にした様子もなく話を続ける。

<実が熟したということよ。種を植え付け、バラバラになってしまったあの人の欠片を、何世代もかけ、子孫達が命をもって集めてくれた。わたくしたちは再びここで出会うのよ>

「なんで……すって。そんなことのために……命を奪っていったというの!」

<そんなこと? 何も知らないくせに軽々しく口にするなんて許さないわ。それに死んでいった彼らは、あの人を甦らせるという礎をつくってくれた。無駄な死じゃないわ>

「無駄死によ! あなたの利己的な思惑でクローブやオークを苦しめる権利なんてな…!」

 言葉が終わる前に鋭い痛みがルキアの頬をなぶった。

<口が過ぎるわよ、ルキア。痛い目にあいたくなければ黙っていることね。それに無駄死になんていうけれど、その気になれば呪いんて面倒なことをしなくても、すぐに王家の血を絶やすことなんて簡単なのよ。それを今まで生かし、尚且つわたくしのために役立たせてあげるのだから、感謝してほしいくらいだわ>


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