表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
50/102

50話

「私の身体を乗っ取るだなんて……そんなことできるわけ…ないわ。それに……それにこの薔薇がアルクの命だなんて……そんなの、信じられない」

<試してみる?>

 くすくすと笑いながら、彼女は薔薇の中でも大きくて、そしてまだ開花していない蕾にそっと手を触れる。

 と、茎を折ったわけでもないのに蕾は彼女の掌に落ちた。

 綺麗に切られた茎からは、深紅の樹液がぷっくりと雫を作り、ゆっくりと地面にしたたり落ちていく。

<これはアルクの血よ。見て、とっても綺麗だと思わない? 白く汚れを知らない花びらに、命を感じさせる紅。そして>

 ゆっくりとルキアに近づいてくる姿に、頭の中で警告が鳴り響く。

 早く、早く逃げなければ、と。

 強く香る薔薇の香りと、ゆっくりと手を伸ばしてルキアに触れようとする細い指先。

 触れたら囚われてしまうと感じたルキアは、逃れようと後ずさりしようとするが、いつのまにか足には薔薇の蔦がからみつき、戦くルキアに向かって上へと伸びていく。

 青ざめながら必死で振り払おうとするが、身体が硬直したように動かず表情だけが恐怖に彩られていく。

<無駄よ。ルキア。あなたは私のもの。大丈夫、あなたの身体は傷つけないわ。だって…>

 いつのまにか側まで近づいた彼女は、やさしくルキアの頬を撫でる。

 薄ら寒くなるような温い感触に、ルキアの瞳孔は開き、浅い息を何度も繰り返す。

「私…は……貴方のも……のなんかじゃ…ない」

 蔦に絡め取られ、恐怖で失神しそうになるのを、かろうじて保ちながら吐き出すルキアだが、彼女は一笑しただけだった。

 優雅にルキアの回りを歩きながら、彼女は歌うように囁く。

<わたくしはね、ずっと時が満ちるのを待っていたのよ。貴方には想像できないしょうけれど、それはそれはとても長い時間だったわ。だけど待った甲斐があった>

 一周して再びルキアの前に立った彼女は、心底嬉しそうに微笑む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ