48話
「姫様!」
よほど急いでいるのか、寝間着を翻えしながら走っている姿が見えた。
しかも腕を伸ばし、誰かを呼んでいるようだった。
カルはもどかしげに窓を開けると、風に乗って流れてくるルキアの声を聞いて、呆然とした。
「どうして……私の名前を呼んでいる……?」
ルキアの追いかける先には誰もいないのに、ルキアはひたすらカルの名を呼びながら追いかけていた。
そして向かっている先は、温室だった。
「そんな馬鹿な……! 姫さ…うっ」
突然喉が締め付けられたように、カルは息ができなくなった。
その場にしゃがみ込むと、同じように息ができるようになった。
「な…んで…どうして声が……」
再び立ち上がり窓の外からルキアを目線で追いかけると、すでに温室へと消えてしまった。
「追いかけなくては……」
でないと大変なことが起こってしまう。
どうしてなのかはわからなかったが、カルの勘が急げと告げる。
一瞬、フィンソスに連絡するべきだと脳裏の片隅をよぎったが、すぐに時間がないと頭を振る。
今は一刻も早くルキアに追いつかなくては…。
それだけを考え、カルは温室に向かって走り出した。