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眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
48/102

48話

「姫様!」

 よほど急いでいるのか、寝間着を翻えしながら走っている姿が見えた。

 しかも腕を伸ばし、誰かを呼んでいるようだった。

 カルはもどかしげに窓を開けると、風に乗って流れてくるルキアの声を聞いて、呆然とした。

「どうして……私の名前を呼んでいる……?」

 ルキアの追いかける先には誰もいないのに、ルキアはひたすらカルの名を呼びながら追いかけていた。

 そして向かっている先は、温室だった。

「そんな馬鹿な……! 姫さ…うっ」

 突然喉が締め付けられたように、カルは息ができなくなった。

 その場にしゃがみ込むと、同じように息ができるようになった。

「な…んで…どうして声が……」

 再び立ち上がり窓の外からルキアを目線で追いかけると、すでに温室へと消えてしまった。

「追いかけなくては……」

 でないと大変なことが起こってしまう。

 どうしてなのかはわからなかったが、カルの勘が急げと告げる。

 一瞬、フィンソスに連絡するべきだと脳裏の片隅をよぎったが、すぐに時間がないと頭を振る。

 今は一刻も早くルキアに追いつかなくては…。

 それだけを考え、カルは温室に向かって走り出した。


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