47話
遅くなってしまった。
カルは足音を立てないよう気をつけながら、小走りでルキアのいる部屋へと向かっていた。
衣擦れの音だけが静かな回廊で微かに響き、カルは警備兵に見つからないよう影から影へと移動を繰り返す。
部屋まであと少しのところで、カルは異変に気づいた。
部屋の扉が大きく開いていたのだ。
「何故…?」
警戒しながら中に入り、カルは呆然とする。
自分の部屋と、ルキアの扉が大きく開かれ、締めたはずの応接間のカーテンが半分開けられていた。
「何……どうして…。! 姫様っ」
急いでルキアの部屋に飛び込むと、乱れた寝台にはルキアの姿はなかった。
「まさか……さらわれて…!」
カルは声を上げ、部屋中の扉を開けながら名前を呼び続けた。
だが返事はなく、カルは手がかりになるものはないかと必死に探す。
だが部屋の様子を見る限り、さらわれたというより慌てて出て行った感じだった。
「おかしいわ……外出したなら靴が一足ないはずなのに……まさか、裸足で出て行ったってことなの?」
何故、裸足で出掛けたのか。
拉致されたにしては、室内で争った形跡もないし、複数の足跡も見当たらない。
「……急いでいたってこと? だけどどうして……」
急ぐほどの用事がルキアにあるとは考えにくい。
「もしかして陛下に呼ばれた……?」
それならフィンソスがカルに教えているはずだ。
ほんの数時間まで一緒にいたのだから。
もしかしたらフィンソスにも内緒で、ルキアを呼び出したのだろうか。
だとしたらなおさら裸足で出掛けるなんてありえない。
いろいろ推測するが、どれも納得できず、焦燥ばかり募っていく。
「嫌な予感がする……早く姫様を見つけないと…」
ルキアが遠くに行ってしまうような気がして、カルは不安が押さえられない。
そもそも今こんなにカルが騒いでいるのに、衛兵の一人も駆けつけてこないことが、より一層カルを恐怖にかき立てる。
その時、カルははっと息を飲んだ。
誰かに呼ばれたように勢いよく後ろを振り返るが、誰もいない。
「誰なの……?」
それでもカルは誰かに呼ばれたような気がして、応接間の方に近づく。
と、外で何かが動くものが見え、カルは窓辺に近づき目を見開く。