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眠れる王女と、眠れぬ王子  作者: 八知 美鶴
46/102

46話

 回廊を走り抜け、中庭へと飛び込んだルキアは遠くにいるカルに向かって、息も切れ切れに叫ぶ。

「カル! 止まって、そっちは駄目よっ!」

 けれど遠すぎるのか、聞こえてないのか、カルは振り返りもせずただ温室へと歩き続ける。

「お…願…い……よ、カ………ル」

 焼け付くように胸が熱く、そのせいなか吐き出される息は白く、ルキアは胸を押さえ、もつれる足を必死に前に走らせる。

 あと少しでカルに追いついたルキアは、必死に腕を伸ばす。

「カル…」

 肩に手を伸ばした瞬間カルの姿はぼやけ、ルキアは倒れるように温室の中に転がり込んだ。

 途端、開け放たれていた扉は勝手に閉まり、ルキアはまんまと誘い込む罠にかかってしまったと悟った。

 急いで起き上がり、扉をこじ開けようとしたがびくともせず、ルキアは扉を背に温室の奥を覗くように目をこらした。

 が、無造作に伸びている植物で、奥がほの明るいぐらいしかわからない。

「なんてこと……」

 自分の軽率さを呪いたかったが、あの時はカルだと思ったし、部屋にも姿はなかった。

「だったらカルはどこに……」

 温室にはいないはずだ。

 でなければわざわざルキアをおびき寄せるために、カルの幻を見せる必要はなかったのだから。

 だが本物のカルがどこにいるかは、ルキアにはわからなかった。

「それでも……ここでなければいいわ。……けれど」

 自分が温室にいることは、誰も知らない。

 普段なら警備兵がいて、ルキアの姿を目にしたのならば声をかけるはずなのに、人の気配さえなかった。

 たぶん温室の主が何かしらの術をかけたのだろう。

 ルキアにカルの幻を見せたように。

「助けは……誰も来ないってことね」

 温室の主は、ルキアだけに用があるということだ。

 何のためなのか、ルキアにはまったくわからなかった。

「……同じ出身国だから……ってことじゃないわよね」

 いつまでもここで立ち止まっていても、答えは見つからない。

 ルキアは覚悟を決めて、恐る恐る歩き出した。

 ほの明るい場所へと……。


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