45/102
45話
これは自分を温室に向かわせるために、見せている罠なのだと言い聞かせる。
それでも凝視してみるとやはり本人のような気がして、ルキアはカルの寝室に向かって走り出した。
「カル! カル、いるんでしょ! ねえっ、返事をして!」
普段なら決してしないほど乱暴に扉を叩き、中にいるカルの安否を必死で確認する。
しかし返事もなければ、人がいる気配がしない。
不安と恐怖で、ルキアは扉を勢いよく開けた。
「そんな……」
暗い部屋には誰もいなかった。
よろめくように後退り、ルキアはすぐに応接間の窓に走り寄る。
中庭にはやはり、カルが温室へ向かって歩いている。
しかもよく見ると、足下がおぼつかないのかふらふらしていた。
まるで光に誘われる羽虫のように、カルはゆっくりと、確実に温室へと向かっている。
「ダメよ、あそこに行っては駄目! ……止めなきゃ、早く!」
今ならまだ追いつく。
ルキアは身を翻らせると、部屋を飛び出した。