42話
それを口に出すと、フィンソスは静かに首を横に振った。
「いや、それは違う。ルキア殿を妻にと望んだのは、実はアルク陛下のお父上、前国王の遺言だったんだ。これは最近まで陛下には知らされていなかったんだ」
「なんですって? ……何故なの?」
驚きと困惑の表情を浮べるカルだが、フィンソスも同じような表情で返した。
「わからない。そもそもその遺言自体が、とても奇妙だったと父が言っていた。クローブ国の王女を次期国王の妻にすること。王女がオーク国へ来るまで、アルク王子に口外してはならないこと。……これは憶測だが、陛下の病状と、ルキア王女の病状が関係しているかもしれないと、私を含め他の臣下達も思っている。ただ……なぜ陛下に話してはならないのかが、未だにわからないんだ」
「そう……そんな遺言があったのね……。もしかしたらシエル陛下もそんな考えがあって、ルキア様を嫁がせたのかもしれないわね」
「二人の共通は、睡魔と不眠、だからな。ただ……どうしてそうなったのかはまだ不明だが……」
「ええ。その原因を探すために、シエル陛下や王妃様が懸命になって見つけ出そうとしているわ。そして……あたしも」
「君が?」
「ええ。あたしは医師ではないけれど、姫様の側でお世話をしたり、病気の不安を少しでも取り除けたらいいと、そう思いながら仕えているの」
ゆっくりと立ち上がり、カルは悲しげな表情を浮べてフィンソスを見下ろした。
「だから、あなたの申し出は受けられないわ」
「! カルスティーラッ」
勢いよく立ち上がると、フィンソスはカルの両肩を掴んだ。
「私の気持ちを知っていても、なお否定するのか?」
カルはそっと目蓋を伏せると、軽く顔をそむけた。
「……いいえ。こんなあたしを今も思っていて入れてくれて、とても嬉しいわ。だけど…あたしにも譲れない気持ちがあるの」
決然とした表情で、カルはゆっくりとフィンソスに向き直った。
「あたしは姫様に仕えるとき、自分に誓ったの。姫様の病が治るまで、何があっても側を離れない、って。……フィンソスの申し出を受けることは、その約束を破ることになるわ」