40話
それでもきっとレクシュ様はルキア様の侍女になることを許してくれるような気がした。
「もしルキア様付きの侍女になったとき、一つお願いがございます」
「何かしら?」
「ルキア様のことを、姫様と、呼ばせていただきたいのです」
「? 別に構わないけど……理由を尋ねてもいいかしら?」
「親しみと……私の手で姫様を甘やかせたいのです。……いけませんか?」
優しい笑みを浮べるカルに、ルキアもくすりと笑う。
「面白いことを言うのね、カルは。いいわ、カルだけにその呼び名を許すわ」
初めて子供らしい笑みを浮べるルキアに、カルはもっとたくさんその笑顔を絶やさないよう誠心誠意で仕えようと心に決めた。
これがカルがルキアに出会い、侍女になろうと決めた全てだった。
全ての話を聞き終わったフィンソスは、怒りと悲しみの入り交じった表情で、カルを見つめていた。
「そんな……ことがあったなんて」
震える声で呟くフィンソスに、カルは自嘲気味な笑みで答える。
「もう、過去のことだわ。……いろんなことがあったけれど、姫様に感謝してるの。理由はどうであれ、再び祖国に戻ってこられたんだもの。そして母の遺言を果たすことができた。やっと肩の荷がおりたわ。これでもう、心残りはないわ」
「心残りがない? 違うな、私達の関係はまだ続いている」
「父の遺言のことを言っているの? あれは…」
「違う。男爵の遺言は関係ない」
「だったら…」
眉をしかめるカルに、フィンソスは真剣な表情ではっきりとした口調で言葉を発した。
「今でも私の気持ちは変わらない。……愛しているんだ」
「! フィンソス…」
「身分も、過去も私には関係ない。君が去っていったあの時、私は追いかけることができなかった。陛下に仕える者として、勝手な行動は許されなかった。……だが、私が何もせずにいたと思うのか?」