39話
ずっと国のためだけに生かされ続けたルキアは、これからもそれだけをよりどころに生きていくしかない。
今のままでは。
教えてあげたいと、カルは強く思った。
責任や役目以外の、同い年の少女達がしている当たり前のことを。
たとえそれが限られたものだとしても。
カルはそっとルキアに近づき、じっと瞳を見つめた。
「ルキア様は少し、羽目を外した方がいいと思います。もっと楽しいことや嬉しいことを学ぶべきなのです」
「嬉しいことや楽しいこと? ……そんなことわからないわ。それに私は…」
「私が教えて差し上げます」
きっぱりと言い切るカルに、ルキアは戸惑いを隠せない。
「だけどあなたはここを立ち去るのでしょう? そんな短い時間で教えられるものなの?」
「いいえ、ルキア様。わたしは何処にも行きません。ルキア様が幸せになるのを見届けるまで、私はずっとお側におります」
カルは立ち上がると、ルキアの前で正式な礼をとる。
「私の名前はカルスティーラと申します。けれどこの名は亡き母と共に埋葬しました。もし正式にルキア様の侍女に召し上げていただくのならば、今後はカル、とお呼び下さい」
「カル……。あなたは私の侍女になりたいの? 友達ではなかったの?」
「もちろん、ルキア様が望む限り友達です。けれど他者から見れば私達のことを友人関係だとは思わないでしょう。ですから侍女としてお側にいることが賢明なのです」
「そう、ね。確かにカルの言うとおりだわ。だけど、お母さま達がなんと言うかしら?」
「それは……大丈夫だと思います」
そう、たぶんレクシュ様は私の心を開かせるために、ルキア様に会わせたのだ。
もしかしたらルキア様の心の壁をも、壊せるのではと考えたのかもしれない。
ただ私がルキア様の侍女になることまでは、予定外だったのかもしれないが。