36話
心に思っていたことをずばりと言い当てられ、カルははっとしたようにルキアを見た。
「死が唯一の救いだとでも言うの。あなたは間違っているわ」
静かな口調だけれども、怒りを含んだ瞳でルキアはカルを睨みつける。
「死ぬのは簡単よ。だってすべてを投げ出せばいいんだもの。だけど私に言わせれば、そんなの卑怯でずるい逃げ方だわ」
「あ、あなたに私の何がわかるって言うのよ! あんな辛い、それこそ死んだ方が楽って思えるくらい酷い目にあったことがないから、そんなふうに簡単に非難できるんだわ!」
怒りを爆発させるカルを、ルキアも怒りを抑えた口調で切り返す。
「あなたの気持ちなんて知らない。だけど、私も死んだ方が楽だと思ったことは何度もあるわ。春眠病になって、最初の数ヶ月は激しい発作に襲われた。あなたにわかる? 花粉を吸い込まないよう、もがき苦しむ私の頭に布袋をかぶせ、暴れる身体をベッドに押さえつけられる惨めさ。発作が起こるたびにそうされたわ。酷いときには、意識が飛びそうになるのを防ぐため、何度も背中を叩かれたわ。食べたものを寝台に吐き散らして、意識が元に戻るまでそんなことをされて、汚臭の中でのたうち回ることが、死にたいほど屈辱的だとは思わない?」
「……」
「発作が治まると、毎回シーツを取り替え、汚臭まみれの私の身体を洗う侍女を見ながら、こんな屈辱的な思いをするくらいならいっそ、死んだ方がみんなの手を患わせなくていいんじゃないかって何度も思った。だけど医師達の話を偶然聞いてしまって、そんな必要はないって思ったの。……私は春眠病の末期症状ととてもよく似ているんですって。だから私が死のうって考えなくても早いうちにそうなるだろうって囁かれたわ。私はそれを聞いて安堵したの。だけど、お母さまは違った。必ず治してみせると、何度も私に言って、ありとあらゆる治療薬を探し出しては、試していった。お母さまが一生懸命がんばってくれたおかげで、今では病状が前ほど酷くならなくなったわ。そして私も、死ぬことより生きることを強く願うようになった。初めはお母さまも仕事が大変なのに、私の病気のことまで気遣ってくれて……でもよく考えたらお兄さまの治療のためなんだって思ったら悲しくて頭にきたわ。だけど、お兄さまはクローブ国にとって大事な後継者だもの。間違った治療をして悪化させたら大変だわ。それを考えれば私なら間違った治療をしたとしても何の問題もないもの」