35話
そんな様子を素早く感じ取ったルキアは苦笑すると、勝手に話し出した。
六歳の時に春眠病にかかったこと、それが直系の王族しかかからない特殊なものだということ。
シエルよりもルキアの方が重度だということ。
そのために隔離され治療していることを、ルキアは淡々と話した。
「……最初は私も健康だったのよ。外にも出られたし、小さいけれど自分だけの庭園もあったの。だけど、発病して外界から隔離されて、お兄さまやお母さま達と離ればなれになってしまった。そしてお父さまは……」
そこで言葉を濁すと、ルキアは窓の外をぼんやりと眺める。
「お母さまは、お兄さまが即位式を迎えるまで、王の代理として就いたの。そしてもうじき、お兄さまは戴冠式を執り行うわ。それでもしばらくはお母さまが後見人として、お兄さまを支えると思うけれど……そうなったら私はきっと、どこかへ嫁がされると思うわ」
悲しさと諦めの混じった口調で話し終わると、カルに向かって苦笑する。
「あなたも災難ね。こんな時期にここへ来てしまって」
「私は……」
「あなたがここへ運び込まれたとき、城中が大騒ぎしていたみたい。侍女達の噂話だけど、ずいぶんと反対する人が多かったみたい。素性の知れない人間を、この大事な時期に城に入れるなんて非常識だって、お母さまに苦言してたみたい。でも、お母さまもお兄さまも反対を押し切って、あなたを受け入れたみたいね。死にかけている人間を、放っておくことこそ非情だって、ね。あなたはとても幸運だったのよ」
「……知らなかった」
そんなことがあったのに、母と自分を丁重に扱ってくれたのに私は……。
感謝してるし、また申し訳ない気持ちもあったが、カルは俯く。
「私は……放っておいてほしかった」
目的を失い、帰る国さえなくなったカルは、死だけが唯一の安らぎだと思っていたからだ。
「死にたかったの?」