34話
扉の前で止まると、ルキアはゆっくりと振り返った。
その表情にカルは胸を締め付けられた。
悲しみ、怒りそして諦めに近い表情は、幼い少女が浮べるにはあまりにも不似合いすぎた。
「お母さまとお兄さま、そして私が背負っているものが、あまりにも違うからよ」
吐き出された言葉は幼い少女の声音にしては重く、カルをひるませるのに十分だった。
「いらっしゃい、そしたら貴方の知りたいことを教えてあげる」
そう言って、ルキアは部屋に入っていってしまった。
閉めようかどうか迷っている侍女が、困惑と苛立ちが入り交じった視線をカルに投げる。
数秒悩んだ末、カルはゆっくりと歩き出した。
自分の素性を話す気はなかったが、ルキアの話を聞いてみたいと思ったからだ。
そしてあの表情。
何不自由なく暮らしているのに、病を患っているだけで何故すべてを悟ったかのような顔をするのか知りたかった。
扉が閉まる音を背中で聞きながら、カルは後には引けない何かを感じた。
入った瞬間のカルの第一印象は、光の部屋だった。
壁一面の硝子板と、天窓から差し込む光で室内は明るく、まぶしいほどだった。
目が慣れると、ルキアの室内は寝台と机、そして小さなクローゼット以外は何もなかった。
床に引かれた絨毯の上に数個の大きなクッションの一つに、ルキアは座って待っていた。
カルが入ってくると、当然とばかりにクッションの一つに座るよう促す。
「何を聞きたいの?」
クッションに腰を降ろしているルキアは、幼くてか弱い存在に見えるのに、カルを見つめる瞳は、すべてを見透かすほど深い色合いをしていた。
まるでカルよりも年上だと感じてしまうルキアの存在に、カルは何をどういえばいいか躊躇ってしまう。