32話
母が亡くなってから自分達がどんな風に暮らしていたのか、そしてクローブ国の王妃に助けられたが、母が亡くなったことで、誰も信じることができなくなった。
そんなカルに、ある日王妃は次期国王であるシエルを紹介し、会わせたい人がいると言って、城の奥へとカルを連れて行った。
城の北側の塔で、階段を上り、最上階の部屋に案内された。
最初自分がここに幽閉されるのかと怯えたカルだったが、部屋の中は天窓によってたくさんの光が差し込む部屋だった。
そこで、カルは一人の少女を紹介された。
亜麻色の髪と翡翠の瞳を持つ十歳くらいの少女で、名をルキアといい、クローブ国の王女だという。
隔離された部屋にいることに驚くカルだが、もっと驚いたのは部屋には上質だけれど機能的な家具類以外は何もなかったのだ。
おまけに色白の肌と同じ無地だけれど上質な衣装を身につけ、微笑んではいたものの瞳は笑ってはいなかった。
その瞳がカルを捕らえたとき、何故だが同じ痛みを持っていると感じたのだ。
これがカルとルキアの最初の出会いだった。
カルはすぐに視線をそらし、動揺を隠した。
同じ痛みを抱えているなんて、そんなわけなどない、と自分の気持ちを振り払った。
「久しぶりね、ルキア。元気にしていた?」
「ええ、お母様。お兄様もお変わりないみたいでなによりです」
「うん。ルキアも元気そうで安心したよ」
「はい。…今日はお客様が一緒なのね」
「ええ、そうよ」
レクシュはカルの肩を抱くと、ルキアに紹介した。
「彼女は最近、とても辛いことがあって、今はこの城で療養しているのよ。ルキアならいい話し相手になるんじゃないかと思って、連れてきたのよ」
辛いこと、確かにその通りだ。
だが、そんな理由でルキアが自分の話し相手になるとは思えなかった。
そもそも一国の王女が自分の痛みを共有できるとはとても考えられない。