23話
「結局聞きそびれしまったわ…」
ルキアは中庭を散歩しながら、疑問を口に出す。
「何故、クローブ国の王女は温室で自殺をしたのかしら。でも最初はお互い思い合っていたのに、どんな理由があって相手を憎むようになったのかしら…」
アルクは呪詛だといったが、歴代のクローブ国の王族に霊力の強い人間がいたのかしら?
それに和平のために王族同士の人質交換なんて、聞いたことがなかった。
しかも極秘で。
だが、アルクが言うのだから嘘ではないだろうし、単にルキアが知らないだけなのかもしれない。
「お兄様なら知っているのかしら…?」
オーク国に文献がが残っているのなら、クローブ国にもある気がする。
そしてそれは王位を継いだシエルだけ。
「…いえ、母様なら何か知っているかも」
前王である父が崩御し、兄が継承する間、母がクローブ国をまとめていた。
しかし母はクローブ国にはおらず、今はどこにいるかすらわからない状態だ。
となると、やはり兄に尋ねるしかないのだが、内容が内容なだけに書状にしたためることに躊躇いがある。
万が一この情報が自分のせいで漏れたりしたら、国交すら危ぶまれる可能性がある。
迂闊なことができないだけに、ルキアの苛立ちはつのる。
「自分の国が関わっているのに、何もできないなんて……」
歯がゆさに爪を噛みながら、ルキアは中庭を何度も歩き回る。
「…呪いなんて信じられないけど……でも王女と王妃の自殺。これ以降から病気が発症したのであれば、なにか病気解決の糸口が見つかるかもしれない」
そこで図書室があることを、ルキアは思い出した。
今までは温室で目新しい植物を採取しては、図書室で薬効などを調べていた。
だが凶華が現れたことによって温室は閉鎖になってしまった今、ルキアが次にやるべきことは王女がオークに嫁ぎ、亡くなるまでの文献を調べること。
そうと決まればすぐにでも行こうと、中庭を慌ただしく出ようとしたルキアは、同時に飛び込むように入ってきたカルにぶつかりそうになった。
「姫様!」
「カル! びっくりするじゃない、どうしたのよ」
「姫様こそ、どうしたんですか? そんなに慌てて」
「調べ物をしようと、図書室に行こうと思って。カルこそどうしたの? そんなに慌てて」
「ああ、そうでした! 姫様を探していたんですよ。今すぐこちらに来て下さいな」
「ええっー、カル! 私は急いでるのよ。だから…」
不服そうな顔をするルキアに、カルは意地悪な笑みを浮べる。
「いいんですか、そんなことをいって。図書室は待ってくれますが、レント様は待ってくださいませんよ」
「えっ、お母様が来ているの!」
仰天するルキアを見つめ、カルは嬉しそうに頷いた。
「はい、姫様にお会いするのをとても楽しみにしています」
「私だってすごく会いたいわ!」
そこでルキアは図書室で調べることよりも、直接母に疑問に答えてもらえばいいことに気づく。
母なら何か知っているかも知れない。クローブ国の王女のことを。
だけど……。
「話してくれるかどうか…」
「え? 何かおっしゃいました?」
「ううん、なんでもないわ。さあ、すぐにでも行きましょう!」
カルの腕を組み直し、ルキアは表情はにこやかに、けれど心の中で是が非でも答えを聞こうと唇を引き締めた。