22話
硝子を通して月光が、白薔薇を青白く輝かせる。
辺り一面に漂うのは濃密な甘い香りと、掘り返された土の匂い。
暗色がかった土色に、はらりと薔薇の花びらが落ちる。
だがその前に、花びらと同じ色をした手が、優雅にすくい取る。
そっと唇に押し当て、彼女はくつりと笑う。
『……無駄なことを』
優雅な仕草で花びらを地面に落とすと、その場所から数十本白薔薇が地面から生え、再び大輪の花を咲かせる。
優美な肢体に白い衣装を揺らめかせながら立ち上がると、白金の髪をかき上げ、青緑色の瞳を細める。
『わたくしは滅びぬ。王族の血が絶えるまでは。裏切り者はそこで見てるがいい、オーク国の末路を』
深紅の唇が半月を描き、酷薄な笑みをたたえ、輪郭すら曖昧になりつつある相手を見返す。
『結局、時間を延ばすことしかできなかったわね。貴方とわたくしでは想いの違いがこれでわかったでしょう?』
『………』
必死で何かを訴える相手は輪郭さえ曖昧で、かろうじて女性だということはわかった。
その女性を見やり、彼女は嘲りの言葉を囁く。
『何も聞こえないわ。貴方の言葉は嘘ばかり。もう二度と、騙されないわ』
そう言い捨て、彼女は目蓋を閉じると、白薔薇にとけ込むように消えた。
それを追いかけるように彼女の場所に佇むと、女性はすすり泣きながらその場にうずくまり同じように消えてしまった。