表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/55

6

 時刻は深夜。

 場所は帰れない通学路。

 全身タイツの男が二人、並んで仁王立ち。

 一人はサラリーマン霊媒師。そして、もう一人はロリコン大学生。

 決戦に備え身構える我々の姿は、さぞかしシュールなものだっただろう。


「来るぞッ」


 穴家(けつげ)(ばやし)さんが睨みつけた。

 僕も目を凝らして前方を確認した。しかし、目前に続く無限の小道の先には、途方もない暗黒が立ち塞がっている。通常人の視力では、とても気配の正体を視認するに至らなかった。

「み……見えないっす……サーセン……」

「ビギナーは生地を透かしてみると良い。」

 僕は言われた通り、額の部分の生地を鼻先のあたりまで伸ばし、目を覆った。

 すると、徐々に視界が開けて行った。

 やがて、ぼんやりと異形の姿が明らかになってくる。

 ピンホール眼鏡的な原理なのだろうか。それともNASA的なハイテクなのだろうか。はたまた、オカルト的な効果なのだろうか。その仕組みは不明である。しかし、とにかく事実として、視力が飛躍的に向上していった。

「スゲー」

 見える。

 どんどん、見える。

 視覚の明確度が上がってくる。


 それに伴い、覚える違和感が増長した。

 

 ――何かがオカシイ。


 いや、最初っから最後まで全部オカシイのは百も承知だ。

 だが、何と言うか、オカシサさの感触が異なっている。


 どうも、出鱈目な動きに見える。


 それが、違和感の根源だった。

 曲がりなりにも、『奴ら』のフォルムは人型だった。そう記憶している。

 頭と、

 体幹と、

 四本の肢。

 それらで成り立っていたはずだ。しかし、視界に映るその挙動は、そうした記憶とは整合し得なかった。


(こんな動きは見たことない)


 奴らは走っていなかった。

 とはいえ、歩いている訳でもなかった。

 珍妙不可思議な挙動で、ソレは迫ってくる。

 それでいて、追撃のスピードは凄まじく見える。

 集中して目を凝らすと、奴らの形状の詳細が把握できた。

 実に、不穏な事実が判明した。


「手、手足が増えてますよ!? あいつらッ」


 視覚的なおぞましさに磨きがかかっている。

 穴家(けつげ)(ばやし)さんに付けられた傷口や切断面から、新しい腕や脚が伸びている。

 それらを闇雲に動かしながら、アスファルトの上を這っているのだった。

 ネットでたまに見かける『ホモォ』のアスキーアートをグロテスクかつ凶悪にしたような戦慄のヴィジュアルである。

 僕は震え上がった。

 対照的に、穴家(けつげ)(ばやし)さんは落ち着いている。

 というか、落ち着きすぎている。

 なんか、準備体操とかしてる。

 Y字バランスとかしてる。

 ストレッチではない。

 もはや、パフォーマンスの域に達している。

「なあ、下呂(げろ)(いずみ)君」

「な、何ですか?」

「一つだけ、これから、君に要求したいことがある。聞いてくれるか?」

 とても恐れ多くて拒絶できなかった。

「はい……何でしょうか……」

 彼はY字バランスのまま僕に向き直ると、言い放った。

「克服してくれ」

 一体、何を克服しろと言っているのだろうか。

 そう思い、言葉に出して問いかける。

「恐怖を、ですか?」

 彼は静かに首を左右に振った。

 そして、告げる。


『人生を、だ』


 言って、彼はニヒルに微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ