4
ケツ毛?
除霊?
僕はリアクションをとれず硬直した。男の言動があまりにもシュール過ぎたからだ。もっとも、こんなイカレた空間に居ながら、今更、彼の言動に狼狽するのも変な話である。きっと、長谷田に見せつけられた衝撃映像が、僕の緻密な精神をトチ狂わせているのだろう。
そんな僕をさて置いて、長谷田は、穴家林さんから奪うようにラケットを受け取った。
「ンだ、テメ、ゴルァ! 何が除霊だ!? どうしてくれんだよ? 変なとこ来ちまったじゃねーか」
現役ヤンキー時代を髣髴とさせるヤンキー口調である。案外、彼女の方がこの環境に適応できているのかもしれない。シンディー・ローパー風の奇抜なファッションに身を包み、四方を威嚇しつつ街を徘徊していた頃の彼女の姿が、現在の黒髪セーラー服姿にオーバーラップした。
たしかに、冷静に考えれば、穴家林さんを怪しまずにはいられない。それでも、助けてもらった立場上、僕は一旦、彼を擁護する姿勢をとった。
「ちょっと、待て長谷田。とりあえずは穴家林さんの話も聞いてみようよ」
「児玉がそう言うんならいいけどよ」
長谷田はそう言って大人しく引き下がった。彼女にしては、妙に素直な対応に思えた。
かくして弁明の機会を与えられた穴家林さんであったが、意外にも彼は、何ら言い訳をすることなく、自分の非を認めて詫びた。
「すまない。確かに、こんな事態になったのは私の力不足が原因だ」
格好はふざけて見えるが、その言動に彼の誠実さを垣間見た気がした。
しかし、長谷田は不服な様である。
「ンだ、テメ、ゴルァ! 責任取れよッ、予備校行けねーじゃねーか!」
彼女は穴家林さんの胸倉を掴み怒鳴った。
全身タイツの生地が餅のようにニュウっと伸びる。それは、異様に伸縮性に富んだ素材であるらしかった。
おそらく、彼女は生理的に穴家林さんを受け入れられないのだろう。加えて、全身タイツの不思議な感触が妙に癪に障るらしく、彼女は「ハァ? なんだよこれ! ふざけんなよ!」と声を上げ、一層凄んで見せた。
「まぁまぁまぁ」と言って、僕は彼女の手を放させる。全身タイツに罪は無い。
タイツはバヒュッという音とともに元の状態に収まった。特に弛んでいる様子もない。伸縮性だけでなく、形状記憶性も兼ね備えているらしい。そこはかとなくNASA的なハイテクさが伺え、僕は、少しだけその全身タイツが羨ましくなった。少なくとも、下半身裸である僕よりは、十分に紳士的な出で立ちであるともいえる。
僕は、彼と、紳士的に向かい合うことに決めた。
女の長谷田にはわからない、男同士の世界が、ここに確かに存在している気がした。
「で、僕たちはどうすれば良いんですか」
穴家林さんも、僕の瞳のなかに、紳士特有の何かを見出したらしい。僕の方に向き直ると、ほんの少しだけ右の口角を上げて、ニヒルに微笑んだ。
「まずは君達に敵を知ってもらう必要がある。順を追って説明するから、とりあえず聞いてほしい」
長谷田は右足を小刻みに揺らしながら、しきりに「チッ、チッ」と舌打ちを繰り返している。それでも一応は穴家林さんの話に耳を貸す気にはなったらしく、それ以上暴力や暴言に訴える気配は無くなっていた。




