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 ケツ毛?

 除霊?


 僕はリアクションをとれず硬直した。男の言動があまりにもシュール過ぎたからだ。もっとも、こんなイカレた空間に居ながら、今更、彼の言動に狼狽するのも変な話である。きっと、長谷田に見せつけられた衝撃映像が、僕の緻密な精神をトチ狂わせているのだろう。

 そんな僕をさて置いて、長谷田は、穴家林けつげばやしさんから奪うようにラケットを受け取った。

「ンだ、テメ、ゴルァ! 何が除霊だ!? どうしてくれんだよ? 変なとこ来ちまったじゃねーか」

 現役ヤンキー時代を髣髴とさせるヤンキー口調である。案外、彼女の方がこの環境に適応できているのかもしれない。シンディー・ローパー風の奇抜なファッションに身を包み、四方を威嚇しつつ街を徘徊していた頃の彼女の姿が、現在の黒髪セーラー服姿にオーバーラップした。

 たしかに、冷静に考えれば、穴家(けつげ)(ばやし)さんを怪しまずにはいられない。それでも、助けてもらった立場上、僕は一旦、彼を擁護する姿勢をとった。

「ちょっと、待て長谷田。とりあえずは穴家(けつげ)(ばやし)さんの話も聞いてみようよ」

「児玉がそう言うんならいいけどよ」

 長谷田はそう言って大人しく引き下がった。彼女にしては、妙に素直な対応に思えた。

 かくして弁明の機会を与えられた穴家林けつげばやしさんであったが、意外にも彼は、何ら言い訳をすることなく、自分の非を認めて詫びた。

「すまない。確かに、こんな事態になったのは私の力不足が原因だ」

 格好はふざけて見えるが、その言動に彼の誠実さを垣間見た気がした。

 しかし、長谷田は不服な様である。

「ンだ、テメ、ゴルァ! 責任取れよッ、予備校行けねーじゃねーか!」

 彼女は穴家(けつげ)(ばやし)さんの胸倉を掴み怒鳴った。

 全身タイツの生地が餅のようにニュウっと伸びる。それは、異様に伸縮性に富んだ素材であるらしかった。

 おそらく、彼女は生理的に穴家(けつげ)(ばやし)さんを受け入れられないのだろう。加えて、全身タイツの不思議な感触が妙にしゃくに障るらしく、彼女は「ハァ? なんだよこれ! ふざけんなよ!」と声を上げ、一層凄んで見せた。

「まぁまぁまぁ」と言って、僕は彼女の手を放させる。全身タイツに罪は無い。

 タイツはバヒュッという音とともに元の状態に収まった。特に弛んでいる様子もない。伸縮性だけでなく、形状記憶性も兼ね備えているらしい。そこはかとなくNASA的なハイテクさが伺え、僕は、少しだけその全身タイツが羨ましくなった。少なくとも、下半身裸である僕よりは、十分に紳士的な出で立ちであるともいえる。

 僕は、彼と、紳士的に向かい合うことに決めた。

 女の長谷田にはわからない、男同士の世界が、ここに確かに存在している気がした。

「で、僕たちはどうすれば良いんですか」

 穴家林けつげばやしさんも、僕の瞳のなかに、紳士特有の何か(・・)を見出したらしい。僕の方に向き直ると、ほんの少しだけ右の口角を上げて、ニヒルに微笑んだ。

「まずは君達に敵を知ってもらう必要がある。順を追って説明するから、とりあえず聞いてほしい」

 長谷田は右足を小刻みに揺らしながら、しきりに「チッ、チッ」と舌打ちを繰り返している。それでも一応は穴家(けつげ)(ばやし)さんの話に耳を貸す気にはなったらしく、それ以上暴力や暴言に訴える気配は無くなっていた。


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