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救済の閃光~あなたの後光はどこから? 私は股間から~  作者: しょんぼりぼんぼり
第3章 達磨さんが転んだ時空(青春砂漠 前篇)
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6 爆竹少女の炸裂④

(――今なら、応えられるかも――)


 5年間のブランクを経て、彼女はそう思った。

(――大切な人――)

 そう言うと必要以上にロマンチックになってしまう。やはり言葉にするとウソっぽく、ヤスっぽくなってしまう。

 しかし、その評価自体は真実だった。紛れもない、彼女自身の価値判断に基づく正当な評価だった。

 少なくとも彼女にとって、彼は重要な人間だった。それは無論、勉強を教えてくれるからという理由もある。幼馴染だからという理由もある。だけれども、そうした理由付けはあまり意味をなさない。利害関係とか友情とか恋愛感情とか、そういうカテゴライズは無為なのだ。

 無駄で、無用で、無粋なのだ。

 そう思えるほどコアな部分に、彼女は彼を位置付けていた。

 そんな、彼。

 児玉こだま物知ものしり


 ソイツが、目前で肛門に氷を詰め込んでいる。


 あえて言うまでもないことだが、肛門に氷を詰め込むなんて普通じゃない。そんなことをする奴はとんでもない変態か、重度のイカレポンチである。

 異常である。

 狂気である。

 廃人である。

 ケツ穴廃人である。


 もはや、一個の人格が失われたに等しい状態と言える。

 

 ――逸脱している。

 ――規範から逸脱してしまっている。

 教室で爆竹を炸裂させるくらいに――。

 同級生をナイフで刺殺するのと同じくらいに――、


 そうした少年の逸脱が、少女には我慢ならなかった。


(――彼を正さねばならない)

 それは透明な思想だった。

(――彼を正すにはどうすべきか)

 彼女は自問する。


(彼の理性に訴えて諌めるべきか――。

 彼女自身の感情をぶつけて彼の心を揺さぶるべきか――。)


 彼女は自答する。


(いずれも、NOだ。)


 それは、衝動だった。

 その衝動は爆竹事件で覚えた衝動に近しかった。理論で説明するのに適さない、とらえどころのない、どこまでも透明で、それでいて強烈な衝動だった。そしてその内心の契機が、持ち前の加虐的瞬発力と相まって、暴力の形で外界に発露する。

 爆竹事件の時と、まったく同じである。

 唯一違うのは、彼女がその衝動を認識しているということだけだ。


 彼女の回答は『逸脱』――。

 ――自分自身が、彼以上に逸脱(・・・・・・)してみせること。


 いつだって、逸脱するのは長谷田はぜた薬火やっかの役割だった。

 それを正すのが、児玉こだま物知ものしりの役割だった。

 

 彼が逸脱してしまった今でも、その構図は変わらない。

 彼女が逸脱し、彼が正す。

 彼が逸脱しているなら、


(私も逸脱してやればいい!)

 

 彼女は逸脱への衝動に、身を委ねた。

 スマホとストップウォッチを放り投げる。

 ネコババしたラケットを強く握りしめたままフェンスをよじ登る。

 スカートが捲れ上がり、パンツが丸出しになるのもお構いなしだった。

 フェンスを乗り越え、彼女は少年を見据えた。

 彼は相変わらず「チャージ」に夢中であった。「池田ァ! 今何秒!」などと意味不明の言葉を喚いている。ヒップを強調するグラビアアイドルみたいな姿勢で、彼女に向けて尻を突き出しつつ、氷を挿入している。

 彼女はラケットを構えた。もっとも、フォアハンドやバックショットの構えをとったのではない。フレームの部分を小脇に抱え、グリップの部分を前に向け、姿勢を低く落とす――いわば、自動小銃を連射するランボーの様にラケットを構えたのである。

 そして、尻目掛けて突進していった。


 かくして、少女は炸裂した。


「コォォダァァァマァァアア!」


 その声は、もはや野生動物の咆哮であった。

 獣の加速度と少女の体重を伴ったグリップの底部は、少年の肛門にジャストミートした。彼女の体重があと2キロ重かったら、彼女のスピードがあと2キロ早かったら、少年の肛門括約筋は断裂してしまっていたことだろう。その衝撃は相当のものであったらしく、少年は「んぼぉッ」と短く叫び、前のめりの姿勢でプールの中に落ちて行った。


(まだ足りない。

 もっともっと、逸脱しなければ、児玉の狂気に対抗できない)


 彼女はプールサイドから跳躍した。

 そして、彼の側頭部に足の甲を叩き込んだ。

 強烈な跳び蹴りである。


(キュウ)ッ!」


 少年は白目を剥いて水中に沈んで行った。その頭部を、少女は長くしなやかな脚で絡め取る。そして、太腿で少年の頭蓋をガッシリとホールドした。

 少年はゲンゴロウのように尻だけを水面に浮かべ、ガブガブともがき苦しんだ。しかし、20秒も経つと、少年の動きは鈍くなり、浮かんでくる気泡の数も少なくなっていった。

 やがて、彼はみっともない体勢のまま痙攣し始めた。

 逸脱バトルの雌雄は、この時点でほぼ決しているといえる。

 それでもなお、少女の逸脱は続いた。

 

 スパーン!


 小気味よい音が響いた。

 スパンキングである。


 池田は眼下で痙攣している少年の尻を、しこたま打ち据えた。

 両手で、何度も。


 もはや、ケツドラムである。


 彼女が尻を打ち据えるたび、尻からは氷が飛び出した。

 氷は放物線を描いて闇夜を舞った。


 さながら宝石のように、氷はキラキラと輝いていた。


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