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3

 午後二時ごろに帰宅する。

 月曜日この時間帯、母は陶芸教室に出かけている。大学生の弟も午後に必修科目があるから不在。高校生の妹は学校で、会社員の父は出勤中だ。

 皆、夕方までは帰ってこない。

 絶好の自殺日和である。


 念の為各部屋を見て回り、無人であることを確認。

 その後、とりあえず背広とワイシャツを破り捨て、上半身裸になる。そして、両乳首に油性マジックで集中線を書き込んだ。さらに吹き出しで「Click me!」とコメントを付け足した。笑いの神が降臨したのを感じる。しかしまだ足りない。全然足りない。もっと笑いの神に愛されなければ、遺族の悲しみを凌駕出来ない。


 笑いに貪欲な俺は台所に向かった。

 冷凍庫を開き、ミックスベジタブルを開封する。グリーンピースを取り出し、(へそ)に詰め込み「ぼくシウマイ」とつぶやく。

 自分のハイセンスさに驚愕し、神の慈愛を確信する。だが、まだ足りなかった。もっともっと、笑いの神の祝福が必要だった。


 次に俺は妹の部屋に向かった。

 カギの掛かったドアノブを頭突きで破壊。額から鼻梁びりょうに一筋の血液が滴ったものの、無事入室を果たす。そのままクローゼットに直行し、冬用の制服を引っ張り出す。物足りなさを覚えた俺はタンスの中の下着も拝借。妹の下着の上に纏うJKコスは納得の着心地であった。

 徐々に欲求が満たされて行くのを感じる。しかし、まだ足りない。俺が個人的に満たされても仕様が無い。もっともっと、絶対的な歓喜を纏う必要があった。


 JKコスのまま母親の部屋に向かう。化粧台の引き出しを開けると、数本の口紅が目に留まった。反射的に鼻の穴に突っ込もうと手を伸ばす。貧乏性な俺は無意識のうちに一番安そうなモノをチョイス。しかし、良く見るとそれは俺が学生時代にプレゼントしたものだった。未使用らしく、新品同然だった。流石にそれを使うのは気が引けた。そんな程度で気後れする我が未完成の魂を恥じる。克己の念を込めて、今度はあえて最も高価そうなモノを2本選択し、両鼻穴に突っ込む。死に臨みつつも、向上心を忘れないこの俺を、母も誇ってくれるだろう。

 鏡に映る自分の姿を見て「まずまずの仕上がりだ」と思う。


 若干酸欠になりハイになった脳味噌が『弟の部屋に行け』と次なる啓示を告げる。


 弟の部屋に侵入した俺は、とりあえずベッドの下を漁った。健全な男子の癖に、エロ本の類は一つも見つからなかった。代わりに奇怪な形状をした謎アイテムを多数発見。使用方法は全く想像できないが、とにかく特殊な装備であることは間違いない。はたして、何処どこ如何どうする為に、こんなフォルムになっているのか……知的好奇心が尽きない。だが、これ以上推理を重ねると、弟が抱える闇の深さを思い知ることになりそうだ。(兄さん)は複雑な気分でベッド下から這い出した。

 気持ちを切り替えて机の中を物色する。すると、再び予期せぬ物体を発見する。丁度、ズッキーニ程度の太さの円柱で「ギガンティック☆ドラゴン」と記されている。もっとも、コイツの使用方法は容易に想像できた。

 花火だ。

 それも、打ち上げ型の。

 子供の頃、弟はこのテの花火が大好きだった。そのクセ怖がりで、自分で火を点けることが出来ず、よく俺に「火を点けて」と頼んだものだ。懐かしく思いつつも、とりあえずそれをケツにブチ込んでみる。凄まじい痛みとともに切れ痔の発症を確信した。だが、どうせ死ぬ身なので些細なことは気にしない。


 千鳥足で父の部屋に向かう。

 父のPCを起動するとパスワードの入力の画面が出る。適当に自分の誕生日を入力したら、問題なくログインできた。そこはかとない家族愛を感じる。その愛にしっかりと応えるべく、必ずファンキー自殺を遂げてみせるという決意を固くする。とりあえず、個人用フォルダのメールを確認すると、商売女からのメールが入っていた。なので、俺の子供時代の写真と、花火が()さったケツの写真を添付して返信しておいた。


 笑いの神からの更なる祝福を求め、俺は再び妹の部屋に戻ることにした。

 白状すると、先ほどは妙に遠慮してしまい、思いの外ハッスルできなかったのだ。しかし、末っ子とは言え甘やかすのは良くないことである。ここはあえて徹底的に、完膚なきまでに、兄の威厳を誇示しておく必要がある。いっそのこと、フィニッシュ(絶命)は彼女の部屋で迎えるのが良いかも知れない。

 そう思いつつドアを蹴破った。


 そこで、予想外の事態。


 妹が帰宅していたのである。


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