表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/55

12

『ギショ!』

『ギッショ!?』

『ギショショ??』

『ボバエラ! ギンボォォイ!』


 異形達は狼狽のそぶりを見せた。

 接近してみると、益々気持ち悪い連中である。

 区別のため、便宜上ニックネームを付けるとすれば、『蜘蛛くも』と『彼岸花ひがんばな』と『蝙蝠こうもり』と『独楽こま』といったところか。


 不本意ながら、ここで、そのイカレたメンバーを紹介するぜ。


 まずは、『蜘蛛くも』。

 コイツは、おそらく腹を裂かれた一匹だろう。腹の傷口から手足が一対ずつ生えている。

 あしを合計すると8本になるので、蜘蛛と呼ぶことにした。もっとも、その姿は実際の蜘蛛よりずっとおぞましかった。

 仰向けでブリッジの体勢をとっている。

 元からあった二対の肢で体を支えつつ、アーチ状に体をしならせている。その状態で、腹から新生した二対のあしを闇雲に振り回している。

 4体のうちでは、フォルムと挙動が一番人間離れしていた。

 

 次に、『彼岸花ひがんばな』。

 コイツは頭を割られた一体だろう。もはや顔の無くなった頭部から細めの腕が生えて、彼岸花の雄蕊おしべのようになっている。それらが無秩序にワサワサと蠢く。

 頭部以外は一番人型を保っているといえる。

 しかし、個人的にはコイツが一番グロテスクに見えた。

 

 そして、『蝙蝠こうもり』。

 コイツは両腕を切り落とされた一体だろう。両肘から細めの腕が4本ずつ新生し、蝙蝠こうもりの骨組みみたいに広がっている。

 蜘蛛くもに次いで人間離れした体型であるといえる。

 空でも飛べそうな骨格だ。ビニールシートでも貼り付けて跳べば、滑空くらいはできるかもしれない。ぜひとも鳥人間コンテストに応募して、そのまま琵琶湖の藻屑となってほしいところである。

 

 最後に、『独楽こま』。

 コイツは胸を貫かれた一体だろう。胸と背中から太い脚が一本ずつ新生している。

 元からある両腕と、新生した二本の脚。それらを文字通り四方に滅茶苦茶に繰り出しつつ、独楽こまのようにクルクルと体を回転させている。常時、攻撃と防御を行っているような状態だ。攻防一体のクレイジースピンである。


 ……。


 覚悟を決めたとは言え、躊躇わずにはいられなかった。

 冒頭に述べた通り、僕は暴力沙汰とは遥か縁遠い生活を送ってきた人間なのだ。そもそも、どうやって格闘すればいいのかわからない。

 加えて、相手は揃いも揃って人間離れしたフォルムをしている。どのように攻撃を仕掛ければいいのか見当もつかない。全盛期のヒクソングレイシーでも、こいつらと組み手をするのは、文字通り骨が折れるだろう。


 いや、それ以前の問題なのだ。


『物理攻撃は無効』

『むしろ、逆効果』


 ならば、一体どうやって戦えばいいのだ?


 僕は再び臆病風に吹かれ始めた

 そんな僕の鼓膜こまくを、頼もしい声が震わせる。


「君に決めた!」


 突如として、穴家(けつげ)(ばやし)さんは高らかに宣言した。

 そして、蜘蛛くもに向かって突進していった。

 蜘蛛くもは素早い動きで退いた。だが、穴家(けつげ)(ばやし)さんのルパンダイブを回避するに至らなかった。それほどのスピードで、彼は迫って行ったのだ。

 腹から延びた4本の肢が穴家(けつげ)(ばやし)さんを捕捉しようと蠢いた。

 しかし、穴家(けつげ)(ばやし)さんはタコのような身のこなしでこれをかわす。そして、スルスルと肢と肢の隙間に身を滑り込ませ、あっという間に蜘蛛を拘束した。

 穴家(けつげ)(ばやし)さんはたった2本ずつの腕と脚だけで、8本の肢全てを封じ込んでいる。

 どういうコツがあるのだろうか。

 僕には到底真似のできない神業である。

 相手の拘束に成功すると、穴家(けつげ)(ばやし)さんは驚異的な速度で腰を振り始めた。そのスピードは凄まじく、腰の部分だけが二重(ダブ)って見える。その摩擦に耐えかねたのか、蜘蛛は『ンギョォォォオオオン』と悲痛な叫び声をあげた。


 ――ハートでぶつかって、

 ――人生を克服する。


 僕も負けてはいられない。

 根拠のない自信がふつふつと湧いてきて、僕を無謀な冒険へと誘った。


「君に決めたッ」


 僕も穴家(けつげ)(ばやし)さんをリスペクトして宣言した。

 そして、蝙蝠こうもりに向かって突進した。

 

 蝙蝠こうもりを相手に選んだのには理由がある。

 たしかに、両肘から先に4本ずつの腕が生えているためリーチは長い。しかし、その反面、一旦間合いに踏み込んでしまえば、攻撃を回避するのは容易そうだと考えたのだ。

 しかも、長すぎて多すぎる腕は、本来のフットワークを制限している。かえって両肩に負担が掛り、上半身の敏捷性も損なわれている。

 コイツなら、イケる。

 そう思ったのだ。


「おねがい、しまぁッス!」


 間合いに入った途端、僕はジャンピング土下座(・・・・・・・・・)を披露した。

 これには蝙蝠こうもりも想定外だったらしく、僕は難なく蝙蝠こうもりの足元で土下座することが出来た。

 空中で4・5発殴られた気がするが、着地時に両膝に覚えた痛みの方が強烈だった。


「おうふっ」


 余りの痛みに変な声が漏れる。

 両膝を抱えて、しばしの間アスファルト上を転がった。すると、何たる偶然か、僕は蝙蝠こうもりの背後に回り込むことに成功していた。

 このチャンスを逃す手はない。

 僕は自分でも驚くような俊敏さで、蝙蝠こうもりの背後から抱き着いた。

 かねてより、童女にたわむれかかるイメージトレーニングを積んでいた。その成果が、思わぬ形で発揮されたのである。

 しかし、接近したことがアダとなり、意外な形でカウンターを喰らってしまう。


「くっさ!」


 蝙蝠こうもりの素肌は、超絶に臭かったのである。

 なんというか、ザリガニと沢庵たくあんをドブ水で洗ってから生乾きにしたような異臭がする。下呂泉ゲロイズミスプラッシュ状態に陥るのは、殆ど確定事項に思われた。

 しかし、僕はかかる事態を克服することに成功した。

 目を固く瞑り、妄想力を極限にまで高め、悪臭を『女性特有の体臭』であると強く思い込んだのである。

 

 はたして、女性がこのような臭気を発するかは定かではない。純潔どうていの僕には知り得ない事柄である。しかし、純潔どうていだからこそ為し得る自己欺瞞でもある。

 未だ知らぬ女体の神秘に敬意を表し、僕はこの香りを『ファントム・フェロモン』と呼ぶことにした。


 たちまち、僕はファントム・フェロモンにメロメロになった。


 そして、天啓てんけいを獲得した。


 ――ひょっとしたら、この異形達は、元は女子小学生なのではないか――?

 ――帰れない通学路に迷い込んだ、JSの成れの果ての姿なのではないか――?


 やや無理のある推測である。

 推測以前の妄想ともいえる。

 帰れない通学路に迷い込むのは、女子小学生に限らない。男子小学生だったり、男子大学生だったり、サラリーマンだったりするかもしれない。

 

 それでも、僕は最高に興奮した。

 

 真実なんかどうでもいい。

 自分でそう思い込み、一人で昂ぶることが重要なのだ。


 ――我思う――。

 ――此処にJS在り――。


「Fuuuuu!」


 たちまち、意識が脳内HDDにアクセスする。自動的に、大量のロリロリデータが読み込まれ、ジュニアアイドルの動画像などが脳裏にランダム再生される。


 それらは僕が認識する現実の情報と忽然一体となり、ある種の錯覚を齎した。


 僕は今(・・・)

 JSに抱き着いて(・・・・・・・・)

 その体臭を(・・・・・)クンカクンカ(・・・・・・)しているッ(・・・・・)


 自然と腰が動き始めた。


『アッギョ?』

『ギャアアアァ!』

 我々の性欲を前に恐れをなしたのだろうか。化け物達は金切声をあげた。フリー状態の『彼岸花』と『独楽』は混乱したように右往左往するばかりで、一向に攻撃してこなかった。

 

 穴家(けつげ)(ばやし)さんは、白く輝く股間を化け物に擦り付けつつ、大きな声で、

裕子(ゆうこ)CHAAAAAANNNNN!!!!」 

 と、吠えた。


 僕もまた、

西野にしのサァアアアアアアアアNNNNNNNNNNN!!!!!!」

 と叫びつつ、ピンク色に輝く股間を化け物に激しく打ち付けた。

 

 股間が化物にぶつかるたび、閃光がカメラのフラッシュのように瞬く。

 やがて、閃光は持続的な輝きとなり、我々は強烈な光に飲み込まれていった。

 光の洪水の中で、異形達は溺れるように狂い悶えた。

 体中の割れ目から濃厚な体液が迸っていた。


 汚らしい。


 しかし、我々はその汚物シャワーの中で、少しも汚れることを知らなかった。

 我々の身体から発せられる光が、それらをたちまち浄化してしまうことが原因らしい。


 光と汚汁が飛び交う中で、何本もの手足が我々に襲い掛かった。

 しかし、それらはタイツの生地に触れた瞬間、雷に打たれたように弾き飛ばされた。

 幾本もの腕や脚が宙を舞い、灰となって消し飛んで行く。


 もはや、我々の腰つきを止めるモノは、何一つとして存在しなかった。


「ンぬぐぅうッ!」

 穴家(けつげ)(ばやし)さんが、低く野太いうなり声をあげた。

「ゥゥンッカハァッ!」

 僕が叫んだのも、ほぼ同時だった。


 一閃。


 一層強烈な光の中で、桃色の断末魔が響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ