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いや、待て。
――違う――。
一つだけ、違う。
あの失恋は、人生の汚点ではない。
薄汚いのは、それ以外の全てなのだ。
何故だか、今はそう思えた。
確かに、あの失恋は、僕がロリコン化した要因の一つだろう。そういう意味では、悪い方向へのターニングポイントだ。だけど、真に問題なのは、一回の失恋でロリコン化する程の脆さだ。そして、その脆さを育んだのは、他ならぬ僕自身だ。
逃げ過ぎて、
生き延び過ぎた、
ツケが滞納しているのだ。
そして、そのツケはまだ払い終わっていない。
来し方の人生の上に滞納して、行く末の人生を呪っている。
呪われた人生が、僕の目前に立ちはだかっている。
『――そして、人生を克服しろ』
なるほど。
そう言うことだったのか。
***
体感時計は進み出す。
その瞬間、堪えきれず僕は駆け出した。
策も無く特攻するなんて自殺行為に等しいということは分かっている。それでも、穴家林さんに続かずにはいられなかった。この機会を逃すわけには行かなかった。散々滞納してきたツケを清算するチャンスは、今しかない、多分。
僕は人生を克服したい。
きっと、人生も克服されたがっている。
だからこそ、僕は今日、この帰れない通学路に導かれたのだ。
すぐに、追い付いた。
穴家林さんと異形の軍団が向かい合っている。
どうやら、異形達は穴家林さんの股間の光を警戒し、様子を伺っているらしい。
僕は彼の隣に並んで立った。
「フ……。やはり、来たか」
穴家林さんの股間の輝きは、先程より強烈になっていた。さながら、夜道で日向ぼっこをしているような感覚。それ程のぬくもりを、僕は覚えていた。
「はい」
異形の集団から、目を逸らさずに、僕は答えた。
「覚悟はいいか?」
穴家林さんは言う。
もはや、戦闘は不可避だ。
冒すのは――、
――死のリスク。
覚悟を決めた瞬間、不思議なことが起こった。
突如として、新たな光が発生して、目が眩む。
しかも、光の色は鮮烈なショッキングピンク。
何事かと思って、慌てて周囲を見渡してみる。
穴家林さんの輝きは純白のままで、その光に色は無い。とはいえ、他にショッキングピンクの輝きを放ちそうな、非常識な存在は見当たらない。
それもそのはずである。
輝いていたのは僕自身なのだ。
全身から光が迸っている。
特に股間からの輝きが著しかった。
「こ……これが、僕の曙光……」
理性よりも先に、魂が理解していた。
たちまち全身に活力が漲った。
穴家林さんが微笑み掛けた。
僕も笑顔で応えた。
この瞬間、我々は言葉を超越した世界で解り合った。




