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神は堕ち、そして  作者: 賢河侑威
プロローグ
8/9

かぐや姫 7

 気が付けば五軒もコンビニを回っていた。その間、カグヤは何も買わず、トイレに入るだけだった。一体何をしようとしているのかハナには全く分からなかった。


「お願い……もうお腹ぺこぺこ……」やっと付いて回っているような状態のハナは膝に手をついて息をついた。羊の毛を連想するような髪の毛が垂れ、むっとしてそれを戻す。


「わかりました。次で終わりにしましょう。私もお腹がすきました」カグヤも悲しそうな顔で腹をさすった。


「今度のは本当でしょうね?」耳に髪の毛を掛けながら、ハナが言う。微かに語尾が強くなる。


「本当ですよ。ほら、もう見えてきました」カグヤは近くのコンビニを指さして言った。


 ハナは飛びつくようにコンビニに入ると、ショウウインドウを見つめた。商品に関する情報や、その口コミが現れた。カグヤは今までと同じようにトイレに駆け込んだ。口コミにはあんまんが美味しいと書いてあった。


 あたしは肉まんが食べたいんだけどなぁ。


「じゃあ……あんまん2つ」カグヤが帰ってくるころにはハナの手元にはほかほかのあんまんが握られていた。


「これ食べて帰ろ」ハナは微笑んで、あんまんをカグヤに渡した。


 熱っ、と言いカグヤはあんまんを受け取った。「ありがとうございます」


 カグヤは興味深くあんまんを眺め、ほおばるハナを見つめた。


「どうしたの。食べなよ」甘いあんまんにさっきまでの疑心暗鬼などすべて吹き飛んだようにハナが微笑む。


「ええ、いただきます」カグヤは小さな口で齧り、少し涙ぐんだ。「美味しい……」


「泣くほどじゃないでしょ」ハナが笑うのを見て、カグヤも静かに微笑む。少しぎこちなかったが、だいぶ柔らかく微笑むようになった、とハナは思った。


 気が付けば疑う心は何処かへ消え去っていた。


「さ、帰ろう」


 カグヤは静かに頷いて従った。ハナはぼんやりと掲示板にあんまんが美味しいというレビューを乗せた。





 淡々と死体が増え続けた。誰が何の目的で死体の山を作っているのかは不明で、そのニュースはハナの耳にも届いた。子供が砂の山を作って、無意味に壊してしまう情景を思い起こさせた。


 犯人像、動機などが一切不明で朝のニュースはその話題で持ち切りだった。


 ハナの通う大学でもその噂は拡散し、ネット上で語られていた。


「ねぇハナ。今日、ハナの家に行っていい?」ハナたちもその学生の一部で、ハナの友人は怯えてかハナにお泊り会を持ちかけてきた。


「え……あ、だめ。家の中、凄く汚いし」ハナはカグヤの事を思い出して言った。


「えぇ……」


 一人暮らしの友人はがっくり肩を落とした。仕方がなかった。あの少しおかしな同居人の事を知られてはならなかった。あいつの存在が知れたら、私は……ハナは考えるだけでゾッとした。


「短髪の長身なんでしょ、そんな奴何処に出もいるっての」友人の一人が笑顔でゾッとすることを言う。ハナは思わず身震いした。


「国籍推定日本、年齢、性別、経歴すべて不明って何にも分からないんじゃん!」


「男かもしれないって噂じゃん」


 ハナは少しぎくりとした。


 友人二人は怪談話をするように犯人の話をしていた。


 正直、ハナはそのニュースにうんざりしていた。正直、うるさいなぁ……。ハナは表示された「オススメニュース」とそれに付随した掲示板を見て思った。


「あーあ、彼氏でもいればなぁ」友人の一人がぼやく。


「無理だよね」ハナはぼんやりと呟く。


「ハナは小さい頃からほんと男っ気なかったからね」


 ハナは幼馴染の言葉を聞き、笑った。しかし、その先に言葉は出なかった。


「でもさぁ、美里は家近いんだし、お父さんにでも来てもらえばいいじゃん」


 ハナの表情を汲み取ったのか、友人が話し出す。


 お父さん、娘に頼られると喜ぶよ、と笑う。


「あんたさぁ、このご時世で五〇代のおっさんが犯罪者止められるわけないでしょ。お父さんを呼ぶくらいなら、適当に無人警備機械でも雇うわ」


「ペットみたいな無人警備機もいるんだし、かわいいから警備ついでに買えば?」


 お父さんなんて役立たずよ、と言う声にハナは静かにため息をついた。そうか、父親は私を守れないのか。


 読んで頂き、ありがとうございます。

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