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俺姫(仮)  作者: hao
3/3

おどろきの吸引力、非日常への入り口


―――都内某所




「暑い…だるい…眠い…」



「うるさい!!ちょっと黙てて」



「眠い…眠い…帰る」



「うるさいって言ってるでしょっ!!」



「…」



現在進行形で自転車を鬼の形相でこぐ少女の気迫に負け

俺は思わず黙り込んでしまう。

そもそもなぜ俺は幼馴染の自転車の後ろに

乗せられ炎天下の中二人乗りをしているのか…



「ひなぁ…今のご時世二人乗りは禁止なんだ…」



俺は思っていたことを言い終える前に体に激痛が走った。



「かはっ」



腹を見ると幼馴染の肘が俺の右わき腹にめり込んでいた。

見事に幼馴染の肘鉄が俺にクリティカルヒットしていたのである。



「あんたが今日の試合に出るかでないかで私の一日が変わるの!

パパに引きずってでもつれて来いっていわれてるのよ!!

…昨日集合時間何時って言ったっけ?」



「…10時」



「肘鉄まだ足りない?」


「午前7時30分集合です!!」


「今何時?」


「はっ…8時?」



次の瞬間左のわき腹に激痛が走った



「いってぇえええ」


「現在9時30分…試合開始30分前よ!!」



今日は運動部の新人戦があった。

隣駅の体育館で行われるらしい



「あんた、空手部のエースでしょうが!」


「…幽霊部員の間違いな」



実際、ほとんど部活には参加せずほぼ帰宅部のような状態だ。

空手部に入部した理由もこの幼馴染の父親が臨時監督を

務めていたがために脅されて泣く泣く入部させられた。



「…暴力一家め…絶対俺よりひなのほうが強いっての

俺の代わりに試合出ろよ、お前ならばれねぇよ」


「そんなに今日命日にしたいの?」



幼馴染の一言に背筋が凍る



「迎えに来なかったひなも悪い」


恐怖のあまり話をそらす



「そう!それ!私が迂闊だった!

6時に連絡した時起きてたから信じて一人で学校行ったら

鬼の形相でパパに迫られて…ゆきちゃんがいない!って…甘かったわ」



「そりゃね、6時までゲームしてて電話の後寝たからな」


「…そういう男だったわ…」



どうやら呆れているらしい



結城優希ゆうきゆき、15歳、男。

趣味がゲームの至って普通の男子高校生。

他の奴と違うところがあるとするなら

―――俺には両親がいない。

雪の日、捨てられていたところを運よく幼馴染の祖母である

結城咲子ゆうきさきこに拾われ

彼女の経営する結城孤児院へ引き取られた。

その際、ボランティアとして空手や格闘術を教えにきていた

幼馴染の父に鍛えられた。その後、親戚と名乗る老人に引き取られ

現在はその老人の孫と三人で暮らしている。


と、まぁフツウだろう。


今、鬼の形相で自転車をこいでいる幼馴染の日向とは

孤児院の時から一緒で頼んでいないのに世話を焼いてくる。

よくあるエロゲ―だと『幼馴染ルート』なんてものが存在するが

そんなのは幼馴染のいない奴らの妄想で

無論、俺の中には存在しないルートだ



「あっ…」



ひなの声と同時に自転車が急停車した


予想外の急停車にバランスを崩し自転車から落ちてしまう。



「いってぇなぁ!なんで急に止まるんだよ!?」


「うるさいなぁ…靴紐解けたのよ、危ないでしょ!」


「…あっそ」



せめて声かけてから自転車止めろよ…とこいつに言っても

効果がないのは15年で学習済み、こういう場合は何も言わないのが吉。

女に言い返すとろくな事は無い。



「アノ…」



声のする方へと振り向くと

金髪の端正な顔立ちの外人が二人いた。

欧米出身者か?

身長はゆうに190程ある気がする、日本の平均身長の俺が小さく見える。



「そ、ソーリー…アイキャントスピークイングリッシュ」



幼馴染はおそらく”英語”を使いたかったのだろう。

気持ちはすごく伝わったが、否めないカタカナ具合に

思わず他人のふりをしてしまう。

幸いなのは意味合いとしては合っている事だった。



二人のうち一人がひなを指さした


「ユーキー?ユーキー?」


「ユーキー?ゆうき…結城?私?yes yes!!」


『ユーキー、見つけた』


「??」



さっきまで”ユーキー”しか言わなかった外人が

いきなり日本語を使った。

二人は頷きひなを抱える



『姫様、我等迎えに参りました、帰りましょう』



――――姫…様!??



「ちょっといきなりなんですか!!うぇいと!言葉わかんない!何?なんなの!?」



その外人は暴れる幼馴染を涼しい顔で抱えていた。

余りに非日常的光景に俺は傍観する事しかできなかった。



「ゆきちゃん!」



何が起こったのか、俺の脳内処理では追いつかない。

ひなが俺の名前を叫んだ瞬間、目の前が真っ白になった。

目が開けられないほどの光に包まれ

次に俺が見たものは空間にぽっかり空いた異質な白い渦だった。



―――ひなが…”消えた!?”



3人がいた場所に異質な白い渦が存在していた。

逆にさっきまでいたはずの人間が一瞬にして消えてしまっていた。


あまりにも現実味のない出来事すぎて何が起こったか理解し得ない

ひなは?あの外人は?この白い渦は…?


俺は一つの案に辿り着く。



「夢か…夢だよ…な?そうだ夢だ、帰ろう」



俺は鞄をつかみその白い渦から逃げようとした


こういう場合、ゲームやアニメでは

消えた幼馴染を助けに行くのがセオリーだろう…


―――だが、しかしっ!!

俺にはどこぞの主人公の勇者みたいな度胸も力もない


つまりだ!こんな状況で

ただのモブに出来ることは……無いっ!!

正解は”逃げる”だっ!!


…が、そんな思いも虚しく



ゴォオオオオッ



白い渦が辺りの物を吸い込みだした。



「え、ちょっと!?ま、まてって!!」



目の前でさっきまで二人乗りをしていた自転車が

その渦に吸い込まれ跡形もなく消えた。



――――これに吸い込まれたら、俺は終わるっっ!!



得体の知らない渦へじりじりと吸い込まれる。

必死に走る…走る……走るっ!!



その光景を表すなら、ランニングマシーンの速度を

最高速にして走っている感じだ。



「ざけんなっ!!なんだよこの驚きの吸引力ぅうううう」



このふざけた状況、ふざけなきゃやってらんねぇぇえっ!!


己の足に限界を感じつつ、俺は我武者羅に走り続けた

…が、次の瞬間体がふわりと浮遊感に包まれた。


つまり俺は…”浮いている”のだ


おれの全力の走りは空を切り…



「ふっざけんなぁああああああああああ」




――――――その渦は俺を飲み込んだ







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