報告書
捜査状況報告書
二〇五七年 七月一日
陰察庁特別捜査部部長 司法陰察員
榊 正英 殿
関東管区陰察局犯罪捜査部 司法陰察員
坂下士郎
蟲怪奇事件 につき捜査した結果は次の通りであるから報告する。
記
五月二一日にて、西新宿グランズドーム前にて蟲が倒れた原因は未明。現場にいた鑑識官と情報官の推測に寄るに、少年Aが持ち込んだ妖刀と思しき刀が鍵となっている模様だが、その行方もまた不明。代わりに折れた錆刀を現場付近で発見。消えた妖刀は凡そ二メートル弱の大太刀。黒い刀身に紅い柄、鍔無し。反して見つけた錆刀の長さは一メートルと判明。刀身に残った僅かな妖気の名残から、消えた妖刀と同一の可能性あり。鑑識課にて現在調査を行っている。
他にも崩れた蟲の死体から心臓と思しき部位も発見。心臓は解剖の結果――大きさ、造形からして人間のものと判明。左心室には粒子を発見。心臓の構造と其処に繋がっていた霊脈の名残から、恐らく『蟲の本体』だったものと思われる。
蟲に寄生された被害者の数は二三八名。「第二段階」まで変容していた寄生体に微かに名残はあるも、全員元の形態へと正常化していた。この理由もまた不明である。
意識を戻した者から事情聴取するが、蟲に対する記憶は朧げであり、真相についての明確な手掛かりは掴めず。だが蟲に寄生された被害者全員が、カプセル型の薬を服用していたことが判明。カプセルの色は白。直径一センチの模様。
尚、事件の第一容疑者である『加佐見徹』は未だ行方知れずではあるが、グランズドームから凡そ三〇〇メートル離れたIOビルの屋上で呪術痕と指紋を検出。鑑識の結果――加佐見徹のものと一致。
加佐見徹の目的は未だ不明。引き続き捜査課で調査にあたる所存である。




