第Ⅱ夜ー親友だから。・1
「‥い、おいっ」
「はへ?」
「授業終わり。」
「あ!あー、また寝ちまったぁ!」
机に涎を垂らしながら爆睡していた昼は、ガバッと起き上がり頭を抱えて、唸った。
「最近、良く寝れてないのか?」
「いやいや!睡眠の質は上々だぜ?昨日だって椿姫サンのあんな姿や、こんな‥‥っイタ!」
脳天に伝わる、本の角攻撃のハンパない痛さに涙目で、
「反撃だー!!」
「止めろ!馬鹿!」
「へへーん!‥ん?」
脇腹を擽っていた両手が止まる。
「「ゴースト・オーグ入隊推薦書」?」
「あぁ。別にこれは‥‥。」
「推薦?」
通常なら1年後の卒業試験で、合格点を出さなければ入隊出来ない。それも、確率は2/10程度と低い。
「すげーじゃん!」
「そんなんじゃない。」
「俺も、本腰入れて頑張らねば!‥で、その推薦面接っていつ?」
言いづらそうに、言い淀む。
「今月末‥。」
「え‥、」
今日が4月の第2週の水曜日だから、単純計算で後、約3週間しかない。
「合格したら、即日入隊‥らしい。」
「えーと‥‥、そしたら、‥」
そうしたら。
励まし、学び合ってきた親友と、別れなきゃ‥‥?
「エリートだもんな。絶対、合格するよ‥。」
そうなったら、‥俺は?
「昼、オレはエリートなんかじゃない。」
「なーに言ってんだよ!」
ポンと十六夜の肩を叩き、
「先、寮戻ってるな。」
「待てよ!」
しかし、彼は振り返らなかった。
朱く染まる放課後の教室に1人きり。
ーもし、合格したら。
ついさっきの昼の顔がチラついて。
「オレだって‥っ」
「一緒に、卒業してぇよ‥。」
『なーんて‥。‥‥、』
学園に隣接する男子寮の門を潜り、生徒手帳の役割も持つ認証カードで、203号室の鍵を外す。暗い室内。でも、電気を点ける気には、ならなかった。‥ぼふっと、パイプベッドの下段にダイブする。
『何だろな‥‥。この気持ち‥。』
親友が、目指す部署への入隊に大手をかけている事が、あと1歩の所に居ることが
「嬉しいのに、」
同時に渦巻く、深く沈んだ感情。
知らないふりをしていても、分かっていた。この感情の正体は‥‥、
「嫉妬、かな‥。」
言って枕に顔を埋める。
アイツは、親友でライバルで、‥‥あの時から‥。
「仏頂面だから!分かり易いぜ?」
1年前の士官学校入学式から、1ヶ月。
俺は、中学校時代からのダチグループの中に居た。
別に新しい「友達」なんて、作るの、‥‥メンドイし。
『意味無いし。』
‥そんな事を頭の片隅で考えていた時に、「仏頂面で、いっつもつまんなさそうな顔した、ぼっち生徒」の話題が出て。
「あ。」
『まぁた1人。』
食堂で、1人黙々と、
『ってか、ここ数日間同じメニューじゃね?アレ。
』
気付けば。
ソイツの事を目で追っていた。興味を引かれたんだ。アイツがどうして、孤独を「好む」のか。
「何で?」
「は?」
疑問に思ったなら、聞かずにはいられない性分なもので。
ストレートに本人にお尋ね中。
「だからさ、何でワザと1人で居るのかって!」
「意味分かんねぇ。‥じゃあ、逆に聞いてやるよ。」
翳りが落ちた目に、俺が映った。
「お前は何で、笑いたくない時も「ワザと」ヘラヘラしてんだよ。」
「え‥?」
ー沈黙。
その間に、アイツは背を向けて。
「自分だって、答えられないんじゃねぇか‥。」
遠ざかる背中を、俺はただただ見送るしかなかった。
「小鳥遊十六夜。士官学校始まって以来の戦闘センスを持ち、潜在的特殊能力解放値はこの1ヶ月で、早くも50%を超えている有望株。」
『‥‥だから、一線引いてんのかなぁ‥?』
演習担当の教官に何回も掛け合った結果、教えてくれた情報。
『センセ、あざっす!‥教えて貰っておいてなんだけど、も少し口は堅くした方が良いですよーっと!』
こっちだって、ダメ元で聞いていただけなんですから!
「ま、貴重なじょーほーってコトで!」
俺は意気込んで、
「いざ!小鳥遊十六夜の元へー!」
あの頃のアイツは、定期試験以外は殆どサボリ。
「俺も、今日は不真面目サン!っと!」
という訳で、サボリの聖地、屋上へと続く階段を上がり、勢いよく扉を開け放つ。
5月初旬の晴れた青空が、目に飛び込んでくる。
「眩し‥。」
爽やかな風に吹かれながら、お目当ての人物を視線で探す。
「ん?」
何やら、低い呻き声が下の方から聞こえると思って、扉を回り込むと。
「いってぇ‥。」
デコを赤くして押さえながら、しゃがみ込む、
「お!小鳥遊!!どうしたんだ?」
「ど」
「?」
「どの口がそれを言うかァ!」
キレた。
「す、みま、‥せ‥、」
ガクガク揺さぶられながら、何だか。
「このノリ、好きだなー‥!」
「あ?!」
全然と言っていいほど喋ったことないし、友達なんて関係でもなかった。
‥‥けど。
「はー、マジごめんな?」
「もう、いい。」
「んじゃ、仲直りな!」
「‥お前、誰にでも愛想振り撒いて、疲れねぇ?」
ポツリ。
不意にアイツが呟いた。
「んー?別に愛想じゃないよ。」
「じゃあ何で、笑ってられるんだ。‥いつも‥。」
「それは俺が、ポジティブだから。」
深い意味もなく、自分が思っている事を素直に言った。
「だって俺、「昼」だぜ?太陽みたいに明るくいたいじゃん!!」
「っ」
‥後から聞いたけど、この言葉は「十六夜」にとって、衝撃的だったらしい。
「お前、変なヤツ。」
「多少?は自覚してる。」
へへっと笑って。
「小鳥遊は?1人が好きなのか?」
「‥‥またそれか‥。」
「小鳥遊だって、聞いたじゃん。」
アイツは遠い目で。
「この先、軍人になって、戦い続けて死ぬ最期まで。1人でいた方が‥辛くない。」
「‥。」
「裏切られて、傷付いたり恨んだりするのは、そいつを信じて慕ったり、恩を売った見返りをどこかで期待するからだ。」
「そんな事、ないと思う。」
グッと奥歯を噛み締めたのが分かった。
「お前に!何が分かるってんだよ!!身近な‥っ」
言いかけて思い留まり、口を噤む。
「‥‥じゃあさ。」
伝える。
「‥「俺」で試してよ。」
「なに‥、」
「俺は絶対、裏切らないし、逆の事をされても恨んだりしないって証明する。約束!」
‥‥少しだけ。
「俺と友達になって下さい!!」
深い海色の眼に灯った光。
「‥バカかよ。お前。」
「あ、ひどー!それにさっきも言ったケド、俺の名前は、」
「昼!!」
「‥十六夜‥?」
パチッと部屋の電気が点く。
「お前、電気も点けないで‥‥、」
「あ、‥ゴメン‥。」
「昼。」
十六夜は、真剣な表情でベッドサイドまで歩むと
「オレ、決めたよ。」
「どうしたよ?‥何、」
茶化そうと、いつもの振りをして顔を上げる。
「オレは、推薦面接、受けない。」
「!何言って‥、」
自分に同情してるからとか、そんな事じゃないと瞳が物語っていた。
「ただオレは、お前と。親友と歩んでみたいんだ。
」
1人でいる方が楽なのは、今も同じ。
他人を信じられないのも、変わらない。
でも。
意固地になっていた、あの頃に手を差し伸べてくれた昼を。
「頼らせてくれ。笑って他人の隣に居てみたいって‥お前と一緒にいて、思い始めたんだ。」
「十六夜‥‥」
「だから、一緒にここから卒業して、そこをスタートラインにしたい。」
‥‥その時。
バタバタと騒がしい足音と大声が、通路から聞こえてきて。
「何かあったのか?」
十六夜が扉を開き、校庭に向かう生徒に声をかける。
「窓から見てみろ!本物だ!」
言われて、昼と共に窓際に駆け寄る。
「あれは‥‥!」
う、打ち終わった‥‥!
スマホさん、頑張ってくれてありがとう‥!
そして、一話一話が長い上に、今回は特に中途半端な所で次話に続く‥そんな小説を呼んで下さっている方々!ありがとうございます!昼中心話、宜しければ、もう少しお付き合い下さいませ。