4月1日のフォアシュピール・2
少年が纏う風を感じる。
「ぁ‥、やっぱり。来ると思った。」
「‥よぉ。色魔男。」
此処は校庭。
「さっきは、色々やらかしてくれて。」
「いえいえ。どういたしまして。」
風に撫ぜられた木々が鳴く。
「逝かせてやるよ‥!」
「おいでよ。全力で‥‥!」
十六夜は「特殊能力」を潜在的に持っていた。
しかし、この力は、「器」を与えなければ意味がない。力を発揮できない、役立たずだ。
「器」は「特殊能力」の属性とシンクロ性のある魂を持つ躯で成っている。
「オレの特殊能力の属性は、「風」。器として生きるは、尾長鳥のヲート。」
十六夜の利き手に風が渦巻く。
「ヲート装備!」
美しい羽と十字のエンブレムが彫られた装飾品の様な、それを構えて対峙する。
「‥これがオレの武器、自動式拳銃だっ」
「風、かぁ。じゃあ、おれも教えてあげる。」
ピチャピチャと空気中の水分が、椿姫の手で形を成していく。
「おれの属性は、「水」。宿る魂は熱帯魚、レッド・ソードテール。名はツルギ。」
水から形成された白鞘型の刀の切っ先を、十六夜に向け微笑む。
合図だった。
一気に間合いを詰めた椿姫の刀をバレルで受けると、腕に力を入れて刀を払う。数歩跳んで相手が態勢を整える隙に、銃口が火を吹いた。
「っと、」
ひらり。
まるで舞うように。銃弾が捉えたのは、彼の足元まである道行コートの裾だった。
「危険だよぉ。それ。」
「お前が言うな。」
ガキンッと再び切り結ぶ音。
『好戦的だな。』とつくづく感じる。‥何度目かの切り結びの直後、
「ぐぅ‥‥っ」
椿姫の空いた左手で、腹を殴れる。
「武器だけが戦闘力、じゃないでしょ?」
そんな椿姫の白い頬を赤い血が、一筋流れていく。
「あはは!確かに今、斬られたと思った。」
視線は十六夜の左手、握った指と指の間に挟まれたシルバーナイフへ。
「保険。」
「なるほど。それがヲートくんの「羽」だね。」
「あぁ!」
ヒュッ、ヒュッと続けざまにナイフを投げ飛ばす。
拳銃を押さえていた刀で払い落とす。その一瞬に照準を定め、トリガーを、
「そこまで!!」
突然の制止の声が、響く。
「存在、忘れちゃってました!学校長先生。」
椿姫が軍服で口許を隠すお決まりのポーズで笑い、言う。
そんな彼と、どこか不満げな十六夜の間に入り、武器を下げさせて、
「君達が刃を交えると、宛ら実戦の空気だね。いやぁ、実戦シュミレーションお疲れ様。」
そして、見学していた周りの生徒、教官達から歓声と拍手が沸き起こる。
‥‥どういう事か、というと。
講演会を滅茶苦茶にした兄弟、十六夜としては売られたケンカ?だったが。‥‥彼等2人に科せられた「お仕置き」が、このシュミレーション戦闘だった。
「イザ、本気だったでしょ?」
「‥まぁな‥、」
「ふふふっ、本気のイザに、おれは実力の半分も出してないけど!」
「‥‥。」
静かに、堪忍袋の緒が切れた。
「一言余計だ!!」
ぎゃおぎゃお噛みつきそうな弟を、楽しそうな兄が更にからかう。
「椿姫。」
「?はい。」
学校長が、昔を思い出すように校舎から、彼へと視線を移す。
「先程の講演会、君らしいと思ったよ。この学園の第一期生の君が卒業してから3年しか経っていないのに、随分と懐かしく感じる。」
「ええ。」
「立派に成長して、私も鼻が高いよ。」
それから、と。
「十六夜。」
「‥はい。」
「君は才能だけじゃなく、努力も惜しまない勤勉性を持っているね。本当に、これからが楽しみだ。」
2人を、その目に映し。
「傲りを持たず、自分に素直に。」
「「己の武器は護りの刃。」」
学校長の教えが、兄弟の心に在る証。
「ほら。」
「自分で立てる。」
‥‥春の柔らかな午後の陽射しの中の再会が、運命に飲まれていく境界線を越えること。知っていたのだろう。
ー「ゴースト・オーグ」を目指し、鬼を殺さなければいけない宿命を背負った、十六夜には。
なんちゃって戦闘シーンですが、少しでも雰囲気が伝われば良いと、思っています。 笑