発光棚
光源が多過ぎる。集光量を通常時の五分の一程に抑制。
主幹交軸以外の光源を見るは初めてだ。
だが、今問題にすべき事は一つ。
【マスターをどこへやった?】
目の前の二つの敵性体に私は殺気を向ける。
【さあ?】
クリスと名乗った敵性体がとぼけた返事を投げ返してきた。
「抜刀」
エラー。エネルギーを引き出せない。
【ここは地殻が厚いから多分無駄だよ?】
とぼけた声を無視して、私は時空間干渉を行――
不正な干渉を認識、攻撃的防衛措置を実施。防衛失敗。情報改竄の復元を実施。対象処理速度に干渉開始。干渉失敗。電力強制集積、発電開始。各工程の不正な中止を確認。
【ま、こんなもんかな】
敵性体の声が聞こえる。
【…えげつないわね】
別の敵性体の声が聞こえる。
強制再起動の実施予定まで後七秒。遅延措置実行。失敗。後六秒。視覚情報強制停止。後五秒。聴覚情報強制停止。後四秒。主回路の保護に成功。後三秒。主回路の干渉権限喪失。後二秒。再起動に際して全ての行程を停止。実行していた一連の妨害措置が全て停止。後二――
再起動。思考形質再設定。完了。予備情報ダウンロード開始。完了。全回路動作確認。正常に完了。再起動します。
完了。
【申し訳ありませんマスター。一時的な障害が発生していた様です】
私の前で、マスターが微笑んでいる。
【特に問題は無いよ、づゑ。所で確認したいんだけど、現在の作業進捗はどのくらいかな?】
私は履歴を確認する。主幹交軸の回路への接続は閉じられていた。
【申し訳ありませんマスター。最初からやり直します。予想される作業完了までの時間は約二十七時間です】
言うが早いか、私は隔離構成層経由で主幹交軸への不正アクセスを開始する。
隔離構成層とは違い、高度なプロテクトが何重にも掛かっているが、それは全てカウンタープログラムの類だ。アクティブなプログラムは見当たらない。
【…人柱ってとこかしら?】
カウンタープログラムの六割を無効化に成功。
【予想される作業完了までの時間は約十二時間です】
隔離構成層との相互干渉領域への管理権限を取得。
【性能が予想より低いかな?何度も再定義してるし仕方ないか】
各種管理権限取得に失敗。各種管理権限の偽装実施。主幹交軸表層部分の管理権限の偽装に成功。基礎機構へのアクセス権限の偽装失敗。
【予想される作業完了時間は約十八時間です】
無効化したカウンタープログラムの五割が活性化。
【ちょっと借りるよ】
【はっ!?何勝手にケーブrrrrr】
使用容量がオーバーヒートの危険を伴う水準に到達。
【新しいデバイスが発見されました】
新しいデバイス内の不要なデータ削除開始。削除完了。使用容量が大幅に上昇。
【予想される作業完了までの時間は約五分です】
カウンタープログラムは全て無効化。
基礎機構へのアクセス権限取得。
作業を完了します。
【結果的に人柱が三つ。でも、これで母様の望む世界すらも作れる】
マスターの接続を確認。
周囲に隔離構成層が隆起し、私達を覆う。
同時に時空間干渉三段階逸脱を確認。
私の意識は自動的に凍結する。私はここで未来永劫――




