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仮想浸食 ~ああ素晴らしきゲーム人生~  作者: 矢尾板
【ROUND1】弾幕シューティングとアイアンクロー
6/15

弾幕考察

 商店街から少し離れた、駅に通じる道沿いの公園。

春も間近とは言え、まだ3月。日が暮れたこの時間は、さすがに肌寒い。

オレ達はそこのベンチに座っていた。


 少女にジャケットを掛け、オレは温かい缶コーヒーを勧める。

「どう、落ち着いた?」

 オレは努めて優しい声を出す。オレの声は、どうにも冷たい感じがしてしまう。

「はい」


 少女は、さっきに比べればかなり持ち直した感じだ。

 少女は両手で缶コーヒーを包むように持つと飲む。

 こちらを見たり、目を逸らしたり、コーヒーを飲んだりをルーチンのように繰り返している。やっぱり緊張しているのかな?

 オレは彼女がコーヒーを飲みきるのを待って、声を掛ける。


「オレ……、いや私は佐伯マコト。君は?」

 やっぱりまだ、オレって言ってしまうな。これは徐々に直していこう。

「国村咲子って言います。咲く子と書いて、ショーコ」

 少女、国村咲子はオレの顔をおずおずと見上げる。まだ少し目は潤んでいる。


「あっ、あの!」

 突然国村さんは立ち上がると、直角にお辞儀をする。

「まだお礼を言っていませんでした!助けてくれてありがとうございました!」

「い、いや、いいって。当然のことをしたまでだし」

「それに……」

 それに?

「私を助けてくれて、その、とっても素敵でした……」

ショーコはオレの顔から眼をそむけて、頬を赤らめて言う。

 何か怪しい雰囲気になって来たな。

「ま、まあ国村さん、座って座って」

 オレは国村さんを強引に座らせる。

「そんな、国村さんなんて他人行儀は止めて下さい。私の事はショーコと呼んで」

「あ、はい」

 何故か敬語で応えてしまう。

「ところでお姉さま!お怪我は有りませんか!?」

 お姉さま……。

 隣に座ったショーコはキラキラした目で、オレの手を掴む。


「だ、大丈夫大丈夫。オ……私は頑丈なだけが取り柄だから」

「そんな、私に気を使わないでください。お姉さまは自分の事をオレって言うのでしょう?格好イイです……」

「そ、そういうものかな……?」

 なんか彼女のペースになりつつある。ショーコがずいと顔を近づけてきた分だけ、オレは仰け反ってしまう。

「ええ、他の方が言っても痛々しいだけですけど、お姉さまみたいな凛々しい方だと格好よさ倍増です。言い方も堂に言って自然ですし」

 まあ、オレの一人称はずっとオレだったからな。

「あ、ありがとう……」

 何故か礼を言ってしまう。


 と、

「へっくしょん!」

 オレはショーコから顔をそむけると、くしゃみをする。

そういえばひどい恰好だった。

 シャツは埃まみれでズボンは破けている。髪を縛っているのは、よりにもよって血染めの布だ。


さすがに冷えるし、この恰好のまま電車には乗りたくないなぁ。

「お姉さまは、私を守るためにそんなにボロボロになってしまったのですね」

 まあ、当初の目的はそうではなかったけれども。結果的に彼女を守れたのはよかったと思う。

「私が服を買ってきます!」

 それは助かる。ここは素直にお願いしよう。

「ありがとう。お金は後で払うから」

「それにもう一つ」

 もう一つ?

「ノーブラなのはいただけません。お姉さまくらいおっきいと、すぐに垂れてしまいます!」

「はぁ」

 オレは生返事を返す。それは仕方ないだろう。もしこの状況でオレがブラをつけていたら、HENTAIにも程がある。オレは紳士だが。

「ついでに買ってきます。サイズは把握していますから」

「は!?」

「私、おっぱいを揉んだらサイズが分かるんです」

「嘘!?」


 何その特殊能力。

 この子もに何か能力があるのか?なんかそういうの、居そうな気がするなァ。


「じゃあ買ってきますからちょっと待っててくださいね!」

 声を掛ける間もなく、彼女は走って行ってしまった。

公園を抜ける風が冷たい。



 あれから彼女は十五分ほどして戻ってきた。

女の買い物は長いと言うが、服一式を買うのにその程度の時間で済んだのは、ショーコがオレを気遣ってくれたのだろうと思う。

 ショーコの言動から、何故かまともではない服を買ってきそうな予感がしていたが、彼女が買ってきたのは無難なセーターとシャツ、ジーンズだった。あと、ついでにブラも。

 オレが当然のようにブラをつけるのを手間取っていたら、彼女がやたら嬉しそうに手伝ってくれたのは、気のせいだと思いたい。

下着も当然トランクスだったのだが、「パンティーも買ってきたらよかった!」などと喚いていたのも、オレの記憶からは抹消した。繰り返して言うが俺は紳士であって、HENTAIではないのだ。



 着替えると、オレとショーコは駅に向かって歩いていた。

「家まで送ろうか?」

「いえ、大丈夫です。そこまでお姉さまに迷惑はかけられません」

 何故か彼女はうっとりと、オレと腕を組んでいる。背格好だけなら、確かに彼氏彼女だ。


 公園の時計を見ると7時になろうとしている。

 オレの感覚としては、中学生の夜遊びとしては遅い時間なのだが、塾に通っている学生はもっと遅くに帰ったりしている。

別に彼女を一人で返しても、問題は無いだろう。


 精神的にも立ち直っているようだしな。

立ち直りすぎている部分も見受けられるが。


 オレとショーコは駅前通りに来た。

 たくさんの人間と、ネオンで明るく照らされた通りが、オレの気持ちを落ち着ける。

 オレの横を、仕事帰りに早速一杯引っかけたのだろうサラリーマンの集団が、ご機嫌な様子で通りすぎる。今日は金曜日だしまだまだ宵の口。これからまた、別の店に梯子だろう。

 通りのベンチでは、カップルが身を寄せ合って、笑い合っている。

 ついさっきまで、廃墟と化した商店街で、殴り合いの死闘を演じていたのが嘘のようだ。

 感慨もひとしおに、オレ達は駅に着いた。


「なぁショーコ。明日、時間あるか?」

「も、もちろんです!お、お姉さまからデートのお誘いなんて、ショーコ、感激です!」

 デート違う。急に片言になってしまった。

 どうやらこの子は、すこしアレな子らしい。

 そしてこの子といると、オレもだんだんアレな感じになってしまう。


「いや、今日の事を詳しく聞きたくてさ。今日は疲れただろうから、明日」

「今日の事なんて、どうでもいいじゃないですか。大事なのは私たちのこれからです」

 あーそう。

 ショーコはブーたれた顔をする。


 真面目なところ、どうでも良くない。

あの、アロハの男は三日後にまた来ると言っていた。

 どこまであいつ等が本気か分からないが、対策を立てなければならない。


 オレの見立てが確かならば、アイツの能力は至極厄介だ。


 オレにとって現在の所、彼女が唯一の情報源だ。

「ダメだよ。あいつらがまた来るかもしれないし、オレはあいつらの事を何も知らないんだ。ショーコが助けてくれないと、オレが困る」

「私がお姉さまのお役にたてる……?」

 もうひと押し行くか。

「それにさオレ、あんまり服とか持ってなくて。ショーコに見立てて欲しいんだ」

「そういう事なら分かりました!」


 この子は、結構チョロイのかもしれないな。


オレはショーコとその後、明日の待ち合わせ場所と時間を確認して、携帯番号メルアドその他を交換した。


「それじゃあお姉さま!また明日!」


 大声でお姉さまとか言うのはやめて欲しい。

 周りの視線が少し痛い。

「あ、ああ。また明日」

 ショーコと別れると、定期を通してホームに向かった。



 オレのアパートの最寄り駅に向かう電車の中。

 目の前で空いた席にオレはするりと座る。

立っている人もまばらにいるなかで、座れたのはラッキーだ。

オレのアパートまではほんの数駅だが、今日は色々あった、有りすぎた。座りたい。

 朝、仕事場に向かう電車の中で、帰りは女の子になって帰ってくることになるとは、どこのだれが予想しただろう。


 夜の闇を背景にしたガラスは、鏡のように俺の姿を映す。

 冷たい美貌の少女がそこに映っていた。


 正直、オレ好みの姿に設定したから変な意味でドキドキしてしまうが、そのガラスの正面に座っているのは紛れも無くオレだ。


 男のように足を広げて座ってしまいそうになるのをこらえて、オレは足を揃える。

 疲れてこのまま眠ってしまいそうになるが、まだまだ考えなければいけないことは沢山ある。折角座ることが出来たこの時間も、有意義に使わなければならない。



 まずは、オレの今後だ。オレは女になってしまった。仕事場にはどう説明する?最近流行のオネェ化して、性転換したとでも言うか。だが、わずか土日で整形したというには不自然すぎる。最悪、退職しなければいけない。戸籍は、免許はどうするか。


なにより、親父とお袋にはなんと説明するか。これが一番、気が重い。


 そして差し迫った脅威としては、三日後だ。あのアロハの男、ソーイチローがもう一度来ると言っていた。いい加減そうな性格だから実際の所はどうなるかわからないが、女にはマメなのかもしれない。



 オレはこの体なら大抵の事には対処できる自信はある。

あの、コンクリートの壁をぶち破った、トラックの突進の様な『ジェイク』の攻撃を幾度となく耐え、瓦礫の山に埋もれても耐える耐久力。

片腕で大男を軽々と担ぎ上げる怪力。

一般人を相手にするなら、何を恐れるまでも無い。


 だが、オレの相手は違う。


 商店街を一瞬でがれきの山に変えたソーイチロー。

空間ごと切って見せた二階堂。


 オレはこんなヤツらを相手にしなければいけないのだ。



 そしてオレの見立てが正しければ、ソーイチローの能力は「弾幕シューティング」



 あの凄まじい量の光弾は、とても格闘ゲームのキャラのそれではない。

 まるで流星雨の真っただ中に突入したかのような、光の奔流。

 圧倒的な弾数に恥じない、凄まじい攻撃力。


 オレ自身にもいくつか命中した。一発一発は致命傷には程遠いが、それでもあれだけの数を受けては、オレの耐久力でも耐える自信は無い。

もっとも、大抵のシューティングは一発でも当たればアウトなので、その点は恵まれていると言っても良いだろうが、他の点での不利が大きすぎる。



 弾幕シューティング相手に格闘ゲームの投げキャラが、何が出来るのか。


 相手は異常な量の光弾を無制限に発射し続けることが出来る。

 それに引き替えオレは、単発の飛び道具の回避すらやっとだ。


 何かの奇跡が起きて接近することが出来れば、まだ勝機はあるかもしれない。

 しかし相手が空中を飛行することが出来るならばどうか。


 もはや近づくことすら不可能。


 遠距離から光弾を打ち続けるだけで、オレは簡単に倒れてしまうだろう。


 ちょっと考えただけでは絶望的な組み合わせだが、何とかしなければいけない。

 いや、何とかできるはずだ。

 オレはマコトなのだから。

 ワンチャンスあれば勝利をもぎ取って見せる。それがオレのスタイルのはずだ。


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